言語
『いらっしゃいませ!2名様ですね!お好きな席にお座りください!』
レストランの中は日本のファミレスのように廊下を挟んで両側に机がある訳ではなく、樽と木箱が無造作に置かれ、ウエスタンな雰囲気が漂う開放的な空間だった。
「おー、いい雰囲気じゃねぇか。・・・ん?」
壁に目をやれば無数の張り紙が貼ってあった。
「ラトリィ、なんだあれ」
「あれはね、街の人達の依頼を張り出してるんだ。掲示板みたいなもので、街の人達が何か困ったらここにギルドに手続きをして兵士や冒険者に依頼できるんだよ」
「へー、なんでそんなのがレストランの中にあるんだ?」
「ここは城とギルドが経営してるレストランだからだよ」
「まて、城はまだいいとしてギルド?なんだそれ」
「あー・・・簡単に言えば冒険者をサポートしてくれる施設。詳しくはなにか頼んでからにしよう」
「ああ、そうだな。で、これなんて読むんだ?」
「え?ああ、メニューが読めないの?言葉は話せるのに文字は読めないのか・・・」
後半がボソッとしててよく聞き取れなかったが、これはメニューなのか。なにがなんだかわからねぇ・・・あ?
「待て、読めるかもしれない」
「は?どういうこと?」
なんだ?この文字見覚えもねぇのにうっすらとだが意味がわかってきたぞ。なぜだかわからねぇけどもしかして俺ってこの文字読めるのか?
「読めるかも・・・か。とりあえず注文してみたらわかるかな」
『すいませーん!』
『はーい!ご注文をお伺いします』
『ボクはコレとコレ。カイトは?』
「俺は・・・コレにする。多分だがコレはハンバーグだろ?」
「カイト、日本語じゃ通じないからもう1つの言葉で」
『?』
ラトリィが小声で行ってくる。確かに店員さんはよくわからないって顔してるな。
『えー、俺にはコレくれ』
『はい!シチューセットに唐揚げ、ハンバーグ定食でよろしいですか?』
『はい、それでお願いします』
『それでは料理が出来上がるまでお待ちください』
店員さんが厨房に戻る。あの人ハンバーグ定食つってたよな。
「おい!俺にもこの文字読めたぞ!」
『・・・なぜ?どうして読めるんだ?キミはこの世界に召喚されたはずだ。ならこの世界の言語も知らないはずだけど・・・』
「なにそんなしけた顔してんだよ。何かあるのか?」
『キミは・・・まったく。呑気なものだね』
「あ?」
『考えるのは後にしよう。カイト、よく聞いて。キミはこの国の言語、ガンガル語を話せるみたいだ。どのくらい話せるのかは知らないけど、でも今の日本語を話し続けるよりガンガル語を話してた方が何かと都合がいい。だからこの世界で日本語を話さないようにしてくれないかな?』
『ってことはこの違和感ばっかの日本語を話せばいいのか?』
『日本語じゃないけどそーゆー事。・・・キミはこの発音が日本語に聞こえるのかい?まったく違う発音、文の構成なのに』
『そーなのか?俺には少しズレた日本語に聞こえるぞ』
『どーやって話分けてるのか・・・。それよりもこれからはボクもガンガル語を話すようにする。何かわからないことがあれば日本語で説明はしてあげるけど、普段はガンガル語で会話することにしよう』
『そう・・・だな。詳しくはよくわからんが、こっちの日本語・・・じゃなくてガンガル語に慣れた方が俺のためにもなるだろ。そうするよ』
よし、違和感はあるが日本語は封印だな。
「お待たせ致しました。シチューセットと唐揚げ、ハンバーグ定食をお持ちしました」
「ありがとうございます」
「おう、サンキュー」
「さんきゅう?いえ、それではごゆっくり」
注文書と代金の書かれた紙をおいて店員さんはべつの客の元へと向かっていった。
「ラトリィ、今の感じでいいのか?」
「うん!その感じでお願いね」
「おう、わかった!・・・それより美味そうだな・・・いただきます!」
運ばれてきたハンバーグを口に運ぶ・・・が、
「うぇ!?なんだよこの味・・・不味すぎるだろ・・・」
「え?ここの料理は美味しいって評判高いんだよ?1口貰うね」
そう言ってラトリィはハンバーグ1切れを口に運ぶ。
「んぐんぐ・・・っぐ!なにこれ・・・?凄いまずい」
「だろ?店員呼ぶか、おーい!」
店員はカイト達に目をやるとそのまま目をそらした。
「おい!呼んでんだよ!こっち来い!」
こんどは怒鳴り気味で店員を呼ぶとしぶしぶとした表情でこちらに向かう。そして・・・
「・・・なに?」
吐き捨てるように、そう言いはなった。
「・・・カイトについて考えてたから油断してたなぁ」
ラトリィが呟いた。何を油断してたんだ?ここにはなんかあるのか?まあ、考えるのはあとだな。それより店員だ。
「なに?じゃねぇよ!その態度はなんだよ!まぁそれよりこの料理不味すぎないか?どーゆー事だ?」
すると店員は失笑して、目には微かな恐怖を浮かべ告げる。
「だって毒を入れたからですよ。半魔のそれとそれの仲間のあんたにはそれがお似合いですから」
「な、毒!おい!殺す気か!解毒薬とかねぇのかよ!」
「ありますよ?だけどお譲りすることは出来ません。それにたかが毒であなたはともかく半魔のそれは死なないでしょう?」
「さっきから半魔って誰のことだよ!」
半魔って誰だ?もしかしてラトリィのことか?そもそもそれは悪いことなのか?くそ!わかんねぇ!
「━━━カイト、やめて」
辛い表情を浮かべ、ラトリィがカイトに訴える。
「半魔はボクのことだ。それは事実だよ。隠してたつもりはないし、少ししたら何も知らないキミにちゃんと話そうとはしてたんだ」
気づけば周りには武装した人が沢山いた。その人たちは皆、ラトリィに武器を向けている。
「口を開くな!」「黙れ!」「動くな!」
様々な言葉がラトリィに投げかけられる。
「エルク・ノジップ!」
その言葉を遮るようにラトリィはカイトに魔法を放つ。
「ラトリィ、お前何て言った!それは魔法か!お前魔法使えないんじゃないのかよ!」
「・・・嘘はついてないよ。ボクには適性がないし本当に今まで使ったことはない」
そういうラトリィの手には空の瓶が握られていた。
「さっきのは解毒魔法。だからカイトは毒で死ぬことはないよ」
「魔法っ!お前、その手に持ってるのはもしかして・・・!」
昨日ラトリィは魔法を使えるようにするための禁制の薬があると言っていた。それを使えば魔法は使えるが魔素とやらに体がやられる、とも。
「おい!あいつもしかしてあの薬使ったんじゃねぇのか!」
「え!魔法を使えるようにするやつ!?」
「そうだよ!あれには見覚えがある。多分それだ!」
レストラン内がさらに騒がしくなる。その原因はラトリィに武器を構えてる人達がひっきりなしに叫んでいるからだ。それも、ラトリィに向けた罵詈雑言を。
「カイト、ボクは放っておいてキミだけでも逃げ・・・」
「くそ!おい店員!俺らの慰謝料は料理代で勘弁してやる!ラトリィ行くぞ!」
「えっ!」
変なことを言いそうなラトリィの言葉を遮り店員にそう言い放つ。そしてカイトはラトリィの手を握り外を目指し思いっきり走りだした。
「きゃあああ!!逃げる気よ!」
「だ、誰か捕まえろ!」
「いや、でも・・・」
周りの奴らは騒ぐだけで手を出そうとはしない。よし、このままなら逃げきれる!
「ラトリィ、この騒ぎはお前も関わってるんだろ?半魔だとかなんか知らんけど、後で詳しく聞くからな!」
予想外なことが起きた、そんな顔をしてラトリィはカイトを見る。そして・・・
「わかった。このままお城に行こう。そこで兵士試験の準備をするための個室がある。そこで全部話すよ」
このまま勢いに任せ、カイトとラトリィはレストランを飛び出す。そしてラトリィの案内の元お城へ逃げるように走って向かった。