出発
正門についてみるとまだ誰もいなかった。準備という準備もなかったので早く着きすぎたみたいだ。
「ふぅ...もう日が暮れてるよ。ほんとにこんな時間からで大丈夫かなぁ」
今から行けば徹夜することになる。メルはともかく見た目は全然子供のアルカードは心配だ。
「あれ、はやいねー!」
不意に声が聞こえた。声に出してはいないが噂をすればなんとやら、どうやらご本人の登場みたいだ。
「アルカードか。はやいのはきみもだろ?」
「えっへへ、そうなんだけど・・・ラトリィはアルよりも早く来てるじゃん?」
「まぁそうだけど・・・さっき来たばっかりだよ」
心なしかアルカードは嬉しそうだ。パッとみて眠たそうな感じもしない。もしかして本当に、こんなことは慣れているのだろうか。
「ねぇアルカード、こんな時間に出発するのは普通なの?つらくはないの?」
思い切って聞いてみる。その質問にアルカードは空を見上げながら答える。
「うん!つらいも何も楽しいよ!夜に出かけるのはなんだか特別な感じがするんだぁ」
「そうなの?途中で眠くはならない?」
「全然眠くならないよ。むしろ元気が出る!」
元気が出る・・・?この一言に違和感を覚えるが、その理由を安易にきいてはいけない気もする。
「ラトリィは大丈夫なの?」
「ボクは・・・まぁ、へいきかなぁ。こういうのは慣れてるし」
正確には『慣れ』ではないのだが、眠らないことに問題がないのは違いない。
「ねぇみて!」
急に声を出すアルカードは空を見上げながら天を指す。
そこには、無数に輝く星―――を隠すように、淡い光を反射させた白いドラゴンが空を飛んでいた。その様は気品あふれるもので美しいという言葉が似あうほどだ
「わぁ・・・ドラゴンなんていつぶりだろう。こんな近くにいるなんてめずらしいなぁ」
「ラトリィはドラゴン見たことあるの?」
「うん、何度も見たことあるよ。でもあれほど大きいのは最近じゃ初めてだ」
この世界の歴史は複雑で、人類は繁栄期と衰退期を交互に繰り返してきた。しかし最後の衰退期から約四千年間文明はゆっくりと成長し、現状を維持している。それが原因で多くの動物か数を減らし、ドラゴンも影響を受けてきた。
寿命も短くなっていく中で、二人が見たドラゴンは規格外に大きかった。もっとも、ラトリィは過去に何度も見たことがあるのだが。
「どこにいくんだろうねー?」
アルカードが素朴な疑問をつぶやく。その答えをラトリィは知っている。しかし返すのは軽い相槌だけだった。
そのまま二人は話すことなく、メルを待つ。
ドラゴンが飛んで行った方向を、そしてこれから向かうヴォルバルグの洞窟のある方向を見ながら。




