精霊学者
「さあ着いたぞ。この扉の向こうにアイツがいる」
道中、あまり整備されていない古びた階段を降りて連れていかれたのはお城の地下にいくつか存在してる研究室の1つだった。
「・・・本当にここにいるんすか?」
部屋の扉、近くの壁、天井、床・・・目に入るどれもがボロボロに廃れていて不安になる。
「まあ不安になるのはわかる。何せ、ここら辺の部屋はこの中にいるアイツ・・・精霊学者しか使ってないからな。誰も整備しないから地下室創設から長い年月かけてボロボロになってしまったんだ」
つまりこの地下は精霊学者専用ってことか?誰もいない場所で一体何を研究するのだろうか・・・
「案内ありがとうございます。後はもう大丈夫なんで」
「ああ、私も自身の研究に戻るとする。気をつけたまえよ」
コツ・・・コツ・・・と音を立て、タールは階段を登って行った。
「しかし・・・タールさんから、精霊学者は何年もこの部屋に引きこもってるって聞いた。マジで何があるかわからないから気をつけなきゃなぁ」
目の前の古びた扉を見て唾を飲み込む。体が緊張しているが雑にノックをして声を出す。
コンコンコン
「すみません、話がしたくて来ました!」
「・・・・・・」
先程よりも強めに叩き、声も大きくだす。
ゴンゴンゴン!
「すみません!精霊学者さんはいますか!?」
「・・・・・・」
しかし返事は帰ってこない。
「・・・いねぇのかなぁ。引きこもってるって話じゃないのか?」
何となくで扉を押してみる。しかし動かない。
「あ?やっぱり鍵がかかってるのか?・・・どうしたものか」
せっかく案内してもらったのだがいきなり詰んだ。中に人はいないのか?精霊学者はここにいるって話じゃなかったのかよ・・・腹いせに思いっきり、力任せに殴ってみる。
ドンドン!ドンドンドン!ドンドン!!ドゴ!!
「あ」
このお城の地下は、現在から約400年前に作られた。しかし、最初の50年は整備もよく行き届いて何も問題がなかったが、整備士の世代交代が上手くいかず、それからずっと放置されていたのだ。
さて、もし約350年、湿気が溜まりやすい地下でずっと放置されていた木の扉を力任せに何度も叩いたらどうなるか。答えは簡単だ。
━━━━弱った木の扉は加えられた力に耐えきれず崩壊する。
「やっべぇ!!」
木の扉にはカイトが殴っていた箇所を中心に大きな穴が空いてしまった。それは高校生男子1人を通すくらいなら簡単な程の規模で。
「あー・・・。知らないフリして帰ろ」
穴が空いた扉に背を向け、急いで階段を駆け上がろうとする。が、向けた背中に強烈な視線を感じる!どうやら逃げられないようだ。
「あー・・・すみません!わざとじゃないんですよー!!なんか軽くノックしたら扉が崩れちゃって、なんででしょう?ボロボロだったからですかねー!」
背中に顔を向けずに思いつく言葉を顔を冷や汗で埋めつつ全力で口に出す。
「それじゃ、ボクはこれで、失礼します!」
目をつぶりながら後ろに回転、思いっきり頭を下げる。その後扉を視界に入れずにこの場から逃げようとするが・・・
「そんなに死にたいならその首を狩ってくれるわ!!!」
カイトは穴から伸びた声の主の手に首を掴まれ、思いっきり引きずり込まれた。
「いってぇ!すみませんすみませんすみません!!!」
穴を通る時足を扉に打つ。同時に服に木くずがつき、汚れてしまう。更には顔面を床に強打しそうになったがギリギリ手をついて痛みを免れる。
「貴様・・・ゴミクズのように責任から逃げようとするのに加え、このワシを老いぼれだからと舐め腐りおって!ワシは貴様のようなクソガキ何人来ようと遅れなど決して取らん!」
うわぁ・・・めっちゃ怒ってる。えーと・・・激おこプンプン丸って表現がマジで似合うくらいに怒ってる。いや、表現ほど可愛くわないが。むしろ怖ぇ。試験の魔獣に匹敵するくらい怖ぇ。
「・・・ん?」
カイトを扉の中に引きずり込んだ本人が首を傾げる
「貴様・・・精霊術士か。いや、それとは少し違う・・・なるほど」
精霊学者らしきジジイが何か言ってくる。しかし声が小さく聞き取れない。
「そういえば貴様話したいことがあるって言っておったな」
「えっ・・・あ、はい!」
なんだよ聞こえてたのかよ!じゃあなんで扉を開けなかった!?
「言うだけ言ってみろ」
「えっ、あ・・・」
急な展開でわけがわからなくなってくる。なんだ?何から言えばいいんだ・・・
カイトが言葉を選び、考えていると・・・
「はよせい!!ワシは貴様のせいで機嫌が良くないのだ!まさか用がないとはいいまい!くだらない用ならその首を落としてやるわ!」
さらに精霊学者は怒りをあらわにして怒鳴りつけた。
「ひぃ!!えっと、俺に憑いてる精霊を調べて欲しいです!」
なんだよこのジジイクソ怖ぇじゃねえか!もう用はどうでもいいから早く帰りてぇ!正直泣きそうだ。
「やはりか。しかし、タダでは調べてやらん。ワシの出す命令を聞くことを約束するならば調べてやろう。扉の件もなかったことにしてやる」
命令を聞くだけ?それでこのジジイから解放されて俺も目的が達成されるのか?
「え、マジすか?ちなみに命令は・・・」
「馬鹿なことを言うな!!命令は貴様が条件を呑むなら教えてやる」
・・・なるほど。これは無理難題を押し付けられるパターンか?さすがにそれは怖い。
冷静になれ。もし命令を聞くことが出来ないなければそれはやばいことになるんじゃないのか?最悪首が飛ぶぞ。冗談抜きで。しかし断れば目的が達成できないし扉の件も面倒なことになる・・・どうすればいいんだ?
「ちなみに・・・断れば扉の修理代は貴様の首で払うことになるぞ」
どっちも首斬り!!てかこのジジイには首斬りしか頭にねぇのかよ!こうなった以上選択肢なんてあってないようなもんだ。
「命令でもなんでも聞きます!だから調べて・・・ください」
「ほぉーう?言ったな?その言葉を忘れるではない」
ジジイがニヤリと笑い出す。怖いが仕方ない。
「その精霊について調べてやろう。貴様、依代は?」
「あ、それが依代が何かわからないんすよ。いつの間にか契約?されてたっぽくて」
「ふむ・・・よくある事だ。まず依代から調べるか。ガキ、こっち来い」
「は、はい」
ものすごい威圧を放つものだからつい素直に従ってしまう。何をする気・・・だ!?
「ごっふ!ガハッ!ゲホッゲボッ!」
思いっきり腹パンをされた。しかも拳はかなりめり込んでる。
「フン。精霊を調べるなら貴様が寝てた方が手っ取り早い。しばらくは寝てろ」
「なん・・・で・・・クソっ・・・」
予想外の痛みで地面に倒れ込む。冷たい床の感触が頬から伝わってくる。
「ゲホッ!・・・まだ、痛てぇな・・・」
お腹から中心に激しい痛みがじんわりと全身を伝う。
「まだ意識があるのか。ワシの拳で昏睡しなかったやつは貴様を含め数えるほどしかいなかったぞ。・・・少しだけお前の評価を正してやろう」
「この・・・ジジイ!・・・そんなことゲホッ!関係・・・ガハッ!・・・ねぇだろ!いきなり、ぶん殴り・・・ガッ!・・・やがって!」
「悪くは思うな。これも必要なことだ。しかし、1発で眠っていれば良かったものの、起きている以上仕方ない。もう1発くらわせてやる。どこがいい?」
な!このジジイ狂ってるのか!?まだぶん殴る気かよ!
「ジ・・・ジイ・・・ふざけ・・・るな・・・」
うつ伏せ状態から顔を精霊学者に向け、睨んでみる。その目に映るのは・・・
「答えないか。仕方ない、首に1つ入れてやる」
先程までの怒りが嘘のようになくなり、楽しそうに人間を痛ぶる1匹の悪魔がこちらを覗いていた。
「ホッ」
掲げられた右手は目で捉えられないほどの速度で正確にカイトの首を打ち・・・・・・




