始まり
「しずく、次の授業なんだっけ?」
「数1だったような気がするよ」
「マジか。だるいなー」
そんな他愛ない話をする俺の名は日風 海渡
それに反応してくれた黒髪を高めに結んだ長めのポニーテールのぺったんこは俺の幼なじみ、土谷 滴
俺らは高校1年生だ。そして運良く同じクラスになれた。
「しずくちゃん、教室どこだっけ?一緒にいこ!」
「うん!いこいこ!確か・・・」
いや、運良くなのか?
しずくはいつの間にか友達が出来ている。でも俺には?俺は今ぼっちじゃないのか?人見知りのせいかしずくとしか話さなかったからな・・・。
「はぁ〜」
「かいと、ため息すると禿げるよ?」
「禿げるってウケる〜!」
「てかしずくこんなぼっちと仲いいの?」
「ウチも好きでこんなのといる訳じゃないの」
「禿げねぇしぼっちじゃねえよ・・・」
「いつも1人じゃん」
「うぐっ!」
もういじめられそう。最悪だ。だから女子は嫌なんだ・・・。
何か大変なことが起きて俺が華麗に活躍!なんてこと起きねぇかなー。そしたらあの女たちも俺を見返すだろ。まぁ起きるわけ・・・
『ドゴォン!!!』
「なんだ今の爆音は!?まさか大変なことが起きたってのか?」
混乱。困惑。焦燥感。その時━━━━
ピンポンパンポーン
放送といえばお馴染みの音が教室に響く。それに続くよう、若々しい男の声が聞こえる。
『生徒の皆さーん、教職員の皆さーん、先程の爆音は化学室からのものです。実験の失敗により音が発生しただけでーす。特に害はないのでご安心ください。失礼しました』
それは笑い声のような、ふざけた調子の放送であった。
声の様子から生徒による放送だろう。ここまで音が聞こえる程の失敗とは一体なんなのか・・・
「ちぇっ。なんだよ。」
一瞬期待しちまったじゃねえかよ。たくっ
「ま、そんなことあるわけねーもんな」
「なーに1人でぶつくさ言ってんのよ。アンタもさっさと行きなさい。もうすぐチャイムなるよ?」
「俺はお前みたいに賢くねーからクラスは教室なんだよ」
「いかにもバカそうな顔してるもんねー」
「おい!どーゆー意味だよ!!」
取り巻き・・・Aにしよう。取り巻きAが失礼なことを言ってくる。
「わっ!怒った!こわーい!」
「そこまで強く怒ってねぇし、お前らが悪いだろ・・・」
取り巻きAについで取り巻きBも面倒くせぇな。
「あんまりカッカすると・・・禿げるよ?」
「しずくもうるせぇよ禿げねーよ!」
そこまでしてこいつは俺を禿げさせたいのか。全く迷惑な話だ。
『キーンコーンカーンコーン』
「あっ!アンタなんかに構ってたから鳴っちゃったじゃん!急がなきゃ!」
「おうおうとっとと行きやがれ。シッシッ」
手で追い払う動作をしてみる。それに何を感じたのか取り巻きABが顔をしかめるがそのまま移動先の教室へ向かった。
「たっく・・・。迷惑な奴らだな・・・」
そのつぶやきに被さるように号令がかかる。
「はいよろしくお願いします。えー、前回はどこまでやったかな・・・」
今日初めての授業はよりによって大嫌いな数学からだ。ちなみに一番好きな教科は体育だ。勉強はからっきしでここに入るのも実はスポセン。硬テニが得意で助かったな。
「えー、はいノートありがとう、えー、授業を始めようか。えー、まず・・・」
そういや今日は数学持ってきてねぇんだった。どうせ寝るし関係ないか。
そう思ったそのとき、先生が日付を確認し名簿を見る。その仕草に次の展開が頭の中に浮かび上がる。
「えー、それではこの問題、日風!途中し・・・」
「わかりません!」
瞬間、教室に笑いが起きる。
わかんないと言っただけだが、こんなにも笑われるものなのか。
笑いの中、先生は困惑を隠しながらも言葉を紡ぐ。
「えー、日風、えー、まず・・・」
「わかりません!」
再び笑いが起きる。さっきよりも大きい。
「日風!話を聞け!まずは途中式を立てるんだ!」
「途中式をっつってもわかりませんよ。もっと簡単なのにしてください。自慢ですけど俺、2桁の掛け算出来ないんですよ?因数分解とかできるわけないじゃないっスか。」
「わかった、放課後職員室にこい。2桁の掛け算教えてやる。」
それは呆れを通り越した失望したような声だった。
「イヤッス」
正直な感想を口に出すと怒気をはらむ声が返ってきた。
「絶対こいよ」
睨まれた。教員に睨まれたぞ。いいのかそれ。
「・・・ヘイ」
圧に負け微かながらも声を出す。
「えー、とにかく日風、えー、お前はしっかりと説明を聞いとけよ」
「りょーかいしやした」
ため息と共に椅子に座る。やっと開放された。あたりはまだ笑いが残っていて、数名はこちらを見ている。
「めんどくせぇな・・・」
何故数学が出来ないとダメなのか。俺はスポーツ1本で生きるんだ。そう思いながら窓の外に目をやる。窓近くの席ではないが、今日の日差しが暖かく感じる。
寝るにはいい感じだ。つまらない授業を聞くよりも、部活に備え、眠るとしよう・・・