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私は正常だった

作者: ちょり

あれだけ自分はおかしいと豪語してた割には、結構恥ずかしくて、ちょっと面白い。私は病院で3時間待ったあげく、「あなたは正常です」という称号を手に入れてきた。

体調がすぐれないので会社を辞めたいと言ったら、まずは病院に行って来いと言われて精神科に行くことにした。病院は大通りから少しだけ離れたビルの二階にあって、外の道には誰もいなかったのに、階段を上ったらたくさんの人が渡り廊下に溢れていた。中に入りきらなかった人たちが廊下で待っているようだった。ドアを開けると、電車の長い座席くらいのソファが背中合わせで二つ置かれていて、人がギュウギュウ詰めで座っていた。待合室はそのソファを置いただけでほぼいっぱいになるくらいの狭さだったので、ソファに座りそこねた人たちは壁づたいに立っているしかなかった。病院なのに、病院特有の消毒液の匂いは全くしなかった。玄関は脱ぎ散らかされた靴でいっぱいになっていたので、とりあえず私も靴を脱ぎ散らかして、受付に紹介状を出しに行った。何とか今日診察してもらえることになったので、ちょうど空いた席に座って待っていた。精神科に来たの初めてだったけれど、周りを見渡してみると意外とみんな普通に見える人ばかりだった。やっぱりお年寄りは病院が好きみたいで、6割くらいお年寄りだった。けれども中には会社員っぽいおじさんや若い男の子や主婦みたいな人もいて、きっとその辺の道ですれ違っても病気なんて絶対に気づかないのに、みんな受付で片手では掴めないくらいの薬の束をもらって帰っていった。正直、行く前は怖い患者さんがたくさんいると思っていたけれど、むしろその人たちは普通の人よりも優しいようだった。きっと、優しいから病気になってしまったのだと思った。待っている間先生に話すことをまとめようとしていたら、そもそもどうして病院に来たのかわからなくなってしまった。仕事辞めれば解決することなのに、なんで私病院に来てるんだっけと思ったら涙が出てきてしまった。そんなことして遊んでたら、2時間くらい経って、予定もあったので受付の人に今どんな感じか確認してもらったらすぐ呼ばれたので、どうやら忘れられてたみたいだ(いつものこと)。先生は思ってたより若い男の人で、やっぱり先生だけあって、話の聞き出し方が上手だった。好きになりそう。私も、今回は自分で勝手に喋りまくるのはやめようと思って、先生に聞かれることだけを答えていたら、ちゃんと筋道を立ててお話することができた。ひと通り話し終えたら、先生に、きみのその辞めるという判断は、自分では正しいと思う?と聞かれたので、私は、自分だけで考えたことなので、分からないと答えた。そうしたら先生は、少し困ったように笑いながら、今日は、お薬は出しませんと言った。続けて、きみは、正常な考えが出来ているようだから、今日のところは病名はつけないよと言った。そのあと先生は、僕はもう何十年も医者をやっていて、仕事が原因でこうやって紹介状を持ってくる人を何人も診ているけれど、たまあに、一万人に一人くらい、正常な人がいるんだよね、きみがそれですと笑った。とりあえず、来月様子見であと一回だけ来てくださいということになった。あとは、今回の診察結果を紹介してくれた産業医宛てに伝えないといけないらしい、先生は、この産業医はかなり心配性だから、ただ正常ですと書くわけにもいかないなあとイタズラっぽく言った。

結局、私は病気ではなかった。変人扱いされたり、すごく辛い気持ちになったりするのも、病気なんかじゃなくて、私がそういう人なだけだった。治るものではなくて、そもそも私を形成する一部だった。私は他の人から、正常にズレていたみたいだ。

病名はないので診断書も何ももらってないのだけれど、あなたは正常ですの賞状とか記念にもらってくればよかった。正常なので、きっと今の仕事辞めるの判断も正しいはずなんだと思う。保険は効かなかったけれど、この話を今日会った人に話したら笑ってくれたので、まあまあ行った甲斐はあったと思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 僕にも似た経験があります。病気になってしまう人はまだ自分を乗りこなせていないのではないかと思います。モータースポーツのF1も、普通の人が運転すれば機械が繊細すぎてすぐエンストするそうです。…
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