魔王アオイチャン!可愛い!ヤッター!
「お前も・・・勇者なんだろ?そんなに器用に箸を使える奴なんてこの世界にはそうは居ない。」
「勇者じゃない。なぜここに居るのか知らないけど私もこの世界に居るんだよ。」
「多分ジャンル的に言えば、私の場合巻き込まれ系なんじゃないかと思うけど」
「クラス全員でこの世界に来たとか?」
「いや。道端に一人だった。」
「学校に居たときに魔法陣が出たとか?」
「いや、バイトで疲れてて休日に部屋で寝てたらここに飛ばされたみたいな。」
「・・・」
「それって勇者召喚なのか?」
「さぁ・・・しらねwww」
「勇者召喚と言えば聞こえがいいけど・・・知ってるか?異世界に飛ばされる奴ってのは、向こうの世界で自殺未遂したり生死不明や植物状態であることが多いらしいぞ?」
「・・・」
「お前・・・俺の事をどこまで知っている?」
「ほとんど知らん。女神からはこの哀れな魔王と勇者を元の世界に返してあげてくれと言われただけなんだよ」ポリポリ
「・・・」
「俺はこの世界に来て・・・」
それから魔王はこの世界に来てからの事を語りだした。
ぶっちゃけ別に興味ないし、語ってくれとも言わなかったのに言い始めたから言いたいんだろう。
私はご飯を食べながら話半分で聞いた。
だって興味ないし。
魔王の話を要約するとこうだ。
向こうの世界でいじめを苦に屋上からあいきゃんふらいして気づいたら魔族の城に居たらしい。
そして魔族界の初の勇者召喚が成功とのことで、貴重なサンプルとして気が狂うほどの拷問を受け続けて常識では考えられないレベルの耐性を獲得。
次に戦闘訓練と称して魔王軍の玩具にされながら鍛え続けられた。
あまりの過酷さに何度か死んだらしいが、そのたびに生き返させられて再び訓練に放り込まれる。
そのような地獄を数十年やった後、魔王軍の数が減った後で初代勇者を名乗る男から転移魔法を使われここに来たと。
砦に居た人間を追い出し、ワイバーンに食わせて遊んで、数十年ぶりに眠りについたとの事。
「そして今に至るって?」
「ああ・・・」
「へー結構苦労したね。ところで魔王軍との夜の♂戦闘ってやっぱキツキツだった?」
「・・・」
「なんだその変な言い回し。」
「いや・・・なんでもない。」
「???」
「ところで君も日本人だよね?名前は?」
「・・・」
「もしかして忘れた?」
「言いたくない・・・」
「ふーん・・・」
と会話をしながらホットケーキを作り、ミキの前に置いて甘泉をかけて食べる。
魔王の分は用意してない・・・わけではないが・・・
魔王が羨ましそうにこちらを見ているので、お皿を手に取り
「名前は?」ニッコリ
「・・・あおい・・・。」
「アオイチャン!?アオイチャン可愛い!」
「だから言うの嫌だったんだよ!!!」
コトッ「はい。食後のデザート」
魔王は黙々と食べてお代わりを要求。
(私まだ半分も食べてないんだけど・・・)
それから色々な会話を重ね
まさか8回もホットケーキを焼くはめになるとは思わずにクタクタになる。
「で?俺はいつ帰れるんだ?」
「えーと・・・日程を調整して、勇者に会ってもらって、帰還の魔法陣を書いて呪文を詠唱してもらって帰るって流れ・・・とは聞いてる。」
「早く帰りたい?」
「正直に言えば帰りたくない。またいじめられるのはイヤだ・・・」
両手で自分を抱くアオイチャン・・・
「そうはならないらしいぞ」
「え?」
「異世界攻略特典とかで君の身の回りの状況は良い風に変わるらしい。」
「それを信じろと?」
「信じなくてもいいけど・・・まぁ・・・確定で恋人ができるとは聞いた。」
「・・・」
「その恋人ってかわいい?」
「流石にそこまではわからん。」
「・・・」
「でどうする?帰る?まぁ帰ってもらわなきゃ困るから帰らせるけどさ。」
「いつその・・・帰還の魔法陣とやらを書くんだ?今日か?」
「いや、色々準備しなきゃいけないことがあるからすぐには無理だ。出来るだけ早く用意しても2週間はかかるはず。」
「・・・」
「その間どうすれば?」
「・・・あー?じゃあ・・・しばらく準備が整うまでウチのパーティー来る?」
「お前・・・パーティーあるのか?」
「ある。この世界で作った仲間がいる。」
「本当に俺とは違うんだな・・・羨ましい・・・。」そう小声で呟く
聞こえないふりをして魔王に問う。
「来る?」
「邪魔じゃないなら・・・お邪魔しようかな」
「流石にその言い回しのダジャレ初めて聞いたわ・・・引くわーオッサンかよ」
「ダジャレじゃねーよ!おっさんでもねぇ!まだ16歳だ!」
魔王城の外に出ると魔王の気配を察知してかワイバーンが襲い掛かってきた
「うおっ!?居すぎやろ!?城に隠れよう!これだけ多いとしばらく外に出れないよ」
「問題ない。」
右の手をかぎ爪のような形にして手に魔力を込め、狙いを定めて空を切る。
その瞬間明らかに届いていないはずなのに空中のワイバーン3匹が切り刻まれて肉片がボトボトと落ちてくる
「うそやん・・・」
「フン・・・雑魚が」
魔王城付近のワイバーンは歴戦のツワモノ。体中に傷があるがそれは数多の戦いから生き残り、傷なのに逆にそこが強靭になった状態で、その分厚い皮は傷の無いワイバーンよりもはるかに強く、最低でも5倍以上の強度があるとの事だったのに・・・
一撃・・・しかも指4本分の刻み攻撃で丸ごと輪切りになった。
「はぁーーーー。規格外すぎない?」
「これくらい普通だ。俺が魔族から戦闘訓練を受けてた時にこれで倒せる上級魔族は居なかったぞ。」
(おいおいwまじかよwwwww死んだわ私www)
話をしている間に死んだワイバーンの肉を喰らいにさらに50近いワイバーンが押し寄せてくる
「やっぱり今日は外出すべきじゃないよ。」
「問題ないと言っているだろう?いちいち俺をイラつかせるな」
ふわりと温かい風が魔王から流れてくるのを感じ、心地よいと思って表情と心が緩む。
何の魔法なのか?
私を安心させるための魔法なのか?
そういえば16歳といえば私と同じだっけか?なんだかんだ優しいところあるやん・・・
と思ったのも束の間。
その風を浴びた50近いワイバーンの体はズルズルと滑り落ちて全員肉塊になった
「えぇ?」
状況が理解できずに困惑していると魔王が教えてくれた。
「簡単に言うと風の刃。ただ殺意のこもった攻撃は感づかれるからこうして暖かさを相手に与えて気づかないうちに体は切り刻まれている。そう言う魔法だ」
(一瞬でも心許した私があほだった。そしてそんな魔法凶悪すぎる・・・)
(暖かい風が頬を流れたらどんな生き物だって神経がゆるゆるになるに決まってる・・・)
(でもそれを感じた段階でもうすでに死が確定しているなんて誰が気づくだろうか・・・)
(魔族から拷問されてきたと言っていたけど・・・こいつは色々と規格外すぎるし・・・コイツに比べれば私はまだまだ弱い・・・いや・・・どれだけ経験を積んでもこの領域に足を踏み入れられないと自覚してしまう。)
(勇者の称号を持つ者はそれだけで一般人とかとはレベルが違いすぎるんだな・・・)
残り19話・・・




