新米弓使い2
「こんにちわソウ先生」
「こんにちわミキ君」
「先生この前すいませんでした。なんかテストで緊張して疲れちゃって…」
「ああ、テストはみんなそういうもんさ。あの日はテストをしたらその後は休みにするつもりだったからちょうど良かったよ」
「はい!それとこの獣避けありがとうございます!私大切にします!」
「そう言ってくれると買ってきた甲斐があって嬉しいよ!」
「さて、聞いた話だけどやっと弓が届いたんだって?」
「はい!これです。」
「どれどれ。ほうほう、小さいけど作りはしっかりしてるし丈夫そうだ」
「ソウ先生に貸して貰ってた練習用の弓と同じぐらいの大きさだったので私的にはちょうど良かったです。」
「そうだね。使い慣れた大きさが一番だよね。」
「はいっ」
「そういえば、今更だけど家を掃除してたらオススメはしないと言ってた、昔俺が使ってた胸当てが出てきたからこれ良かったらあげるよ。」
「…臭くないですか?」
「くっ…臭くないと思うよ?なんせ購入してすぐ背後を襲われてから例の少し高いレザーアーマーを買ったものだから、ある意味新品だよ?」
「…なんか縁起悪くないですかそれ?呪われてそう。」
「失礼な!あの時はこれしか買えなかったんだ!いらないならまた倉庫の肥やしにするからいいんだよ!?」
「嘘ですよー(笑)くださいよー(笑)」
「練習の時グローブ無いわ胸当て無いわ、おまけに寒いわで怪我が多発してたんですからね!そもそもあるなら最初にくださいよ!」
「いやー(笑)だってちゃんと続くとは思ってなかったし〜何よりこの胸当ての存在忘れてたんだわ〜テヘペロッ」
(蔑む目)
「オホン。」
「じゃあ道具の確認をするぞ」
「まず弓!矢!グローブ!胸当て!獣避け!」
「がミキ君の装備」
「ありまーす!装備しました!」
「俺のはいつも通りっと」
「あ、」
「ん?」
「そういえばこの麻布をあげておこう」
「何に使うんですかこの布なんか横に長いですけど」
「それは狩人のマントだ。」
「え…これがマント?なんかイメージと違う」
「何をイメージしたかは知らないけどこれは獲物を背中に背負って持って帰るときに装備が汚れないように使うマントだ。蝋を染み込ませてあるから簡単な雨具としても使える。ちなみに消耗品なので安もんだ」
「なるほど。ありがとうございます」
「さて今日はもう、狩りという時間では無いけどせっかくテストも合格して装備も整っていることだし一緒に村の近くの獲物がいるところまで行ってみようか。」
「よろしくお願いします」
「村の外に出るのなんて久しぶりだな〜!」
「ネズミ以来かい?(笑)」
「ソウデスネーソンナカンジデスネー」
「トラウマなのはわかるけど、冒険者目指してるならああいうことにも慣れないとやっていけないよ?」
「ですよねー」
「っと、ここが村から一番近い狩場だ。」
「ここって…いや。案の定というかネズミとの思い出の地のすぐ横じゃ無いですか。」
「そうだよ。」
「…」
「というかここ以外では薪の燃料として切り出したりしてるから一番近いところはここなんだよ。」
「故にネズミと運命的な出会いが起きてしまったわけだな。」
「オエー!」
「(笑)」
「あれからネズミの話は聞かないし俺が見回りがてら散策してる時もここにはいなかったから、村からも近いし一番安全だと思うよ。ミキ君にとってはトラウマの地だろうけど…」
「そっか、“私”が毎日撒いてる聖水のおかげか」
「そのおかげだね。“聖水”のおかげで獣・魔物が寄って来ずそれ故に小動物の安住の地にもなってる。」
「なんで聖水のおかげって言うんですかー“私”のおかげって言ってくださよぉー!」
「ん?」
「なんでもないです。」
「あれ?なんか生えてる」
「あぁ、こうした林や小さい森の中には平原ほど雪が積もらないせいもあって何かしら草が生えてたりするな。」
「この草何かの薬だった気がするけど…毒草だったっけ?うーん思い出せない…」
「薬になるような安全なものならもう動物の餌になってるんじゃないか?」
「それはあり得る。」
「この林の終わりはここだ。林自体は小さいけど村からするとそこそこ離れてるから慣れないうちはこの辺までは来ない方がいい」
「この林から先は聖水の効果が無いのか普通に獣や魔物がいるから慣れてきて魔物討伐できるようになるまでは近寄らない方がいい。」
「ご忠告痛み入ります。本当に。」
「それじゃあ帰ろうか。」
「はい。先生」
「あっ」
スッ…シュッ…
ドサッ
「!?」
「すごくラッキーだよ。帰ろうとした矢先に鳥が居たから撃ち落としちゃった。」
「撃ち落としちゃった♪みたいなノリで言われるとなんか怖いです」
「いや、僕狩人だし。」
「でしたね。」
「これ、村の近くの川で捌いて帰ろうか。」
「ミキ君も狩人、ならぬ弓使いを目指すならそのうち獲物のさばき方も勉強する必要があるね。」
「獣や魔物のさばき方もあるから追い追い覚えていけばいいよ。たまにめんどくさい人は魔核だけとって死体を放置してるけど人里の近くでそんな事されたら余計なトラブルを背負いこむだけだから埋めるなり持って帰るなりしないとダメだからね」
「重労働…」
「生き物を殺めたの責任というやつだよ」
「それと今日からこの林のはミキ君の狩場にするといい」
「先生は?」
「他にもチラホラ見えてると思うけど少し遠い森や林の方に行ってみようと思ってる」
「危なくないですか?何もそこまでして私に狩場譲らなくても…」
「いや、他にも理由はあるんだ。最近ミキ君のおかげで獣や魔物がこないとはいえ奴らは冬に冬眠するわけじゃない上に、村の周りは安全地帯になったとはいえ逆にそこを狙って聖水が効かないような強い魔物が来てないかを監視する意味もある。」
「聖水がダメと言うわけじゃない。むしろおかげさまで村の者は安心して夜を眠れるし、中々食べられなかった肉も今年の冬は例年に比べて潤沢にあると言っていい。おかげさまで毛皮やお肉で僕も儲けさせてもらったし村みんなに恩恵がある。」
「それに比べれば強い魔物が来てる“かもしれない”なんてただの憶測だけど早い目に警戒しておいて損はないと思う。」
「そういう事を村長や村の重役やミキ君の先生や僕とで話し合いをして居たんだ。」
「そうだったんですね…良かれと思って聖水を撒いてたけどそんな裏話があったなんて…」
「でも君のおかげで村のみんなは安心して冬を越せる。飢えて死者が出てしまうよりは対策や警戒を怠らなければ安全に暮らしていける。」
「獲物が取れるおかげで村の資金面も大きく良くなり僕らが下調べして、討伐依頼を出せるほどの財力ができつつある。」
「ミキ君が来る前の………昔のいつ村に魔物が入ってきて…と怯えて過ごさなくてはならないというあの状況に比べればはるかにありがたいよ。」
「それに聖水を村の周りに撒くように指示したのは教会の先生だ。」
「あの先生が間違ってるはずない。」
「村のみんなも同じ考えだから、安心してほしい」
「…」
「それに今日からこの林の管理は君に任せたから、僕としては見回りする場所が減って非常にありがたいよ!」
「!? えっ!!!」
「毎日は回らなくていいから3日に一回とかで良いよ。」
「思い出の地で林の管理!」
「よろしく頼むぞ!新米弓使いさん。」
「さて川に着いたし獲物の捌き方だけど…」
……………
………
…
「ただいまー」
「おぉ、お帰り。どうだった?初めての狩りは?」
「ん」
「おおー立派な鳥さんだ〜」
「ミキ君が取ったのかね?」
「まさか…」
「そうか、ソウ君は相変わらず上手だねぇ…」
「捌くのがあんなにキツイ光景だとは今まで思いもしなかったです。」
「まぁ…生き物を殺しておいて美味しいだけでは生きていけないからね」
「死んだそのモノを食べれるように捌いてようやく口に入れることができる。」
「森の中でも鳥やウサギや、街でも人なんかでも出会いに感謝して神様に感謝感謝じゃ」
「そうですねぇ…」
「今日はもうご飯作ってしまったがその鳥は焼くかね?」
「正直捌いた後で食欲ないけどそのご飯にお肉は入ってますか?」
「無いよ」
「じゃあ焼くのお願いします」
「はいよ」
「できるまで少し時間がかかるから汚れを落としたり綺麗にしておいで。」
「はーい」
「“いただきます”」
「…美味しいです」
「美味しいのう、命の恵みじゃ」
(モグモグ)
よほど捌くのがこたえたんじゃろう。
食事が久しぶりに静かじゃ…
「“ごちそうさまでした”」
「湯浴み用にお湯を沸かしておいたから後で使うといい」
「え?お湯ですか?いつも水なのに」
「流石にこうも寒い日が続くとたまには手間をかけてでも暖かいお湯に入りたいじゃろう」
「お風呂じゃなくて桶ですけどね。」
「湯に浸かるという状況がいまいちわからんが暖かい湯浴みは疲れが取れるぞ。」
「それでは遠慮なく」
今日はとっても疲れた一日だった。
でもとれたての新鮮な鳥を食べるのは最高に美味しいし
疲れた後の湯浴みは最高。
お湯に浸かれれば言うことないけど
この世界では溜めたお湯に入ると言う習慣がないらしい。
いつか、と言うか割と早い目に実現してお風呂に入りたいです。
でも久々に今日は体が暖かくてほこほこして気持ちいい。
それでは
「おやすみなさい」