第15話 戦う料理人『フュイナ』
「おはようございます」
会議室の203号室に到着した。
ドアを開けて中に入ると30名ほどイスに座っていた。
女性が7割ほどだが、男性も少なからずいた。
犬獣人に、猫獣人などの獣人もいる。
俺の挨拶に、何かしらの返事を返してくれる者もいればそうでない者もいた。
減点だね。
「10時から、面接の時間ですのであと少しお待ちください」
そう言って、改めて部屋にいる人たちを見る。
さっきの女性と男の子もいた。
俺と目が合うと会釈して返してくれた。
そして、フュイナさんを蹴飛ばしていた男もいた。
時間になるまで、スマホで撮影して、ステータス(5種の能力・スキル・魔法・加護・称号)と知識などを確認した。
孤児院やスラム街、村や他の街から来ている者もいるようだ。
あらかた、誰にするか絞り終わったところでラナフィアさんと喫茶店の人が、飲み物を2階のこの部屋までトレイに乗せて運んできてくれた。
喫茶店の女性にチップを渡して対応する。
「お待たせしました。では、面接を始めます。とは言っても堅苦しく考えず、どうぞ飲み物でも飲みながら楽な気持ちで大丈夫です。自分の名前は、アユム・ハヤカワです。よろしくお願いします」
軽く頭を下げ、面接の開始を告げる。
俺を値踏みをするような目で見ている何人かの者たち。
「掲示板の張り紙にも掲載していたとおり、
『仕事内容』
家の中、庭などの周りの掃除。
朝食昼食夜食の調理。
『給料』
月給10万円。年に2回の昇給あり
『備考』
住み込み可
要面接
制服支給
を考えてあります。他にも、何かお願いすることはあると思いますが仕事のメインは、この内容です」
前のめりになって俺の話を聞いている人もいれば、イスにふんぞり返って偉そうに聞いている輩もいる。
知識を読み取れるから分かっているが、フュイナさんを蹴飛ばしていた男は犯罪者だ。
ふんぞり返っているのも、この男である。
俺が龍人様と呼ばれているのを知っているようで、モンジェネで大金を手に入れたと思い、金庫の場所を探し出し盗もうという算段のようだ。過去にも、窃盗を繰り返しているようである。
「それでは、1番の方から何が得意なのかアピールポイントをお願いします」
皆、首に番号の書かれた木札をぶら下げている。
とりあえず、建前上聞いておく。
☆☆☆☆☆
「はい。33名の方アピールポイントありがとうございます。それでは、何か質問や聞いておきたいことはございますか?」
「年に2回の昇給有りと書かれてありますが、確実に上がるのでしょうか?」
賢そうな男性がそう聞いてきた。
「その人の能力や仕事の態度などに応じて昇給を考えております。絶対に昇給をするわけではありません。そして、降給もあり得ます」
「住み込み可とありますが、部屋はどのような感じでしょうか?」
「はい。部屋は、各部屋にトイレが設置されており、シングルサイズのベッドにタンスやクローゼット、カーテンなど完備してあります。トイレは、マジックトイレになっておりまして、わざわざトイレの前に井戸から水を汲んでおく必要もありません」
この異世界、たいていのトイレは、トイレ後水で流さなければ地下の下水道まで排出物が流れず臭いがしてしまう。
マジックトイレとは、日本の一般家庭にあるトイレと考えてもらって大丈夫。
流石に、便座ヒーター機能はないようだが、マジックトイレに設置してある水の魔石から水が流れてくれる。
このマジックトイレ、排出物の質量に応じて水を使ってくれる優れものである。
まほまほ店のマホルティさんに、便座ヒーター機能のトイレの作成を試しにお願いしてある。
「その他、質問はございますか?無ければ雇用したい人の番号を告げますね」
無いようなので話を進める。
「1番、7番、15番、18番、23番、28番の方は、残ってください。それ以外の方は、今回は縁がなかったということでお引き取りをお願いします。すみません」
少し、ざわついたあとに、
「おい、てめぇ、なんで俺が呼ばれねぇんだよ」
「そうだぜ、なんで呼ばれねぇんだ。俺は、元侯爵家の料理長だぞ」
終始、乱暴な態度だった男たちが立ち上がり俺の方まで詰め寄ってきた。
「あなたの雇用されるかもしれない人への態度や、商業ギルドに入るまでの行いを見てから判断をしました」
「あなたは、確かに侯爵家の料理長だったかもしれません。料理も、上手かもしれません。ですが、毒殺するような人を雇いたくはありませんね。犯罪者は困ります」
「おまっ、何でそれを知っているんだ?」
「ファルトさん。この人、他国の侯爵家の当主を毒殺した輩です。拘束したほうが良いと思います」
「おっ、バレていたのか」
深くフードを被って面接を偽名で受けていたファルトさんに、サーナさんに、サーファさん。
この人たちは、一体何がしたいのやら。
「わっ、領主さまだ。なぜこんなところに」
部屋にいる人たちが慌て始める。
どうやら、ラナフィアさんは知らされていたようだ。
「逃しませんよ?」
逃げ出そうとする犯罪者の行く手を阻むサーナさん。
たった1つのこの部屋を行き来できるドアが氷漬けにされる。
「お仕置きですよ?」
いつの間にか、手に黒く大きなフライパンを持っていたフュイナさんは、犯罪者の頭をたたき倒した。
フュイナさんは元Cランク冒険者。
本来なら、もっと上を狙えたのだが子供ができたことにより引退。
夫は冒険者だったようで、Aランクモンスターのジャイアントベアーに殺られ亡くなってしまった。
と、フュイナさんの知識情報を読み取る。
☆☆☆☆☆
部屋の外で待機していた騎士によって、犯罪者は連れて行かれた。
「それで、何で面接受けていたんですか?」
無事に、6名の採用を果たし、支度金を渡してから面接はお開きとなった。
今、部屋には、ファルトさん達がいる。
「面白そうだったから」
「面白そうだったからです」
「わっ、私は止めたんですけど」
ファルトさん、サーナさん、サーファさんの順で返事が返ってきた。
なんとも、愉快な人たちだ。
【爵位について、上位から下位】
上級貴族
『公爵』
『侯爵』
『辺境伯』
『伯爵』
下級貴族
『子爵』
『男爵』
準貴族
『準男爵』
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