全裸の勇者
「あー、寒っ。春なのに寒いなぁ」
「寒すぎて頭がおかしくなりsヒャッホーーぅ!」
「ま、まずいな。いよいよおかしくなってきた」
周りからの冷たい視線を受け、勇者は、全裸で街を歩く。平和だ……と思ったのも束の間、突如悲鳴が辺りに響き渡る。
「ど、どうしたんだ!?」
「は、裸の男が街を……」
「あ、俺かよ……」
一安心し、勇者はまた歩き出す。しかし、また悲鳴が聞こえてきた。
「またかよ、ちゃんと隠してるだろ……ん? あ、あれは!」
悲鳴の聞こえた方に目を向けると、女性が魔物に襲われているのが見えた。
「大丈夫か!?」
「キャァアアアアア!」
裸の男の登場に余計に怖がっている気もするが、仕方がない。彼女も命を落とすよりはマシだろう。
「お、お前は……勇者! 何故こんな所で……裸でいるんだ!」
こう見えてもかなり有名な勇者だ。よく考えれば当たり前な気もするが、とにかく有名なのだ。魔物はすぐに勇者の存在に気づき、牙を剥いた。
「まてまて、俺は戦う気は無い。何てったって、このままじゃポロるからな!」
「ドヤ顔すんなって!」
魔物は、警戒は緩めないものの、律儀にツッコミを入れている。器用なものだ。
「しばらく待っていろ。すぐに服を買ってくる」
勇者はその場をあとにした。
「………」
「おい、どうした」
戻って来た勇者を見て、魔物は絶句した。靴を履いている。靴以外には履いていない。
「……カオス」
「……なんだよ。何がおかしいんだよ!」
「全てがおかしいわ! お前どこの店行ったんだよ!」
「ABDマートだが?」
「だからドヤ顔すんな! んで、それ靴屋!」
会話が最早芸人だ。ボケの勇者とツッコミの魔物。ただ、芸人としては、勇者のその姿は完全にアウトだが。
「ちっ。仕方ねぇ。金もないし、そこらの家から服を調達すっか」
「お前勇者じゃねぇのかよ」
振り返り、勇者は近くの家の鍵穴に針金を通しだした。完全に、油断している。
「今だっ!」
「ぐぁあああああ! 心臓を……刺しやがった……痛てぇじゃねぇか!」
「お前不死身!?」
「でも……これで、正当防衛だよな?」
「うわぁああああ」
『勇者は魔物を倒した!』
「っしゃあ。魔物から服を奪ったし、経験値も手に入れた。あ、そういや俺のレベルいくらだ?」
『勇者のレベルは-60です』
「マイナス!? そんなのあるのか!?」
初めて知ったまさかの事実に驚愕しつつも、伸びしろがあるということで勇者は納得する事にした。次はどうするかと考えながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「はい?」
「警察だ」
「え……? 俺何も悪いことしてないじゃん! 不法侵入は未遂だし……」
「貴様には、魔物殺害の容疑がかかっている」
「魔物殺しちゃ駄目なのね!?」
街の人々はこの日、男の気持ち悪い悲鳴を聞いたと証言している。
「判決を言い渡す!」
例の事件から僅か二日後、早くも勇者の判決が決まった。
「強盗殺人、公然わいせつ、及び不法侵入の罪で、死刑とする」
「重くね? んで、殺魔物だし。でも大丈夫だ。弁護士を雇ったからな」
「なるほど。弁護人、何かあるか?」
「何もありません」
「オーマイガッッッ! 弁護しろよ。なんだよこいつ無能かよ! っていうかドヤ顔やめろ! それ俺のネタだからぁ! すみませーん! 控訴します!」
次の日、勇者の第二審が始まった。
「いやだから早いって! おかしいだろ! 次の日ってどゆことよ!?」
「改めて、何故街中で裸になったのかから聞こう」
「それは、そういう内容の話だか「メタ発言やめようね」
「いやそんな事言われても……ところで、ローンソの唐揚げちゃん美味いな」
「き、貴様いつの間にそんなものを! 一つ寄越せ。無罪にしてやるから」
「裁判長おやめください!」
「冗談だZE☆」
一気に冷たくなった裁判所の空気に震えながら、全裸の勇者は最後の一つとなった唐揚げちゃんを口へ放り込んだ。
「あぁ……儂の唐揚げちゃん……貴様……やはり死刑だ!」
「うそんっ!」
その後、勇者の第三審が行われた。だが、結果は言うまでもない。死刑だ。
「いや言うまでもあるだろ! 死刑とか普通有り得ないからァ!」
「では、死刑を執行する」
「その場で!?」
逮捕から僅か四日、勇者の死刑が執行された。