第八十話:決戦前夜
大変ご無沙汰しております。
この度、有り難いことにブックマークおよび、評価ポイントを二桁頂きました。
滂沱の涙を流して感謝しております。今後の活動に大変励みになります。。。。。
大変ありがとうございました。
※※ 80 ※※
期末試験も終わり、今や生徒たちは、やり切ったものも悔いを残したものも、あとは運任せにして近々に到来するクリスマスのイベント計画、年末年始のスケジュール調整に余念がなかった。
しかし、年に一度の文化祭――運営委員会として招集されたクラス委員、部や同好会ならびに愛好会の責任者たち、そして生徒会役員は最後の大仕事が残っている。『文化祭決算報告』と『定期定例会』、そこで行われる『生徒会長信任選挙』である。
当然、推薦された俺も諸々の雑用係として駆り出され、灼は気持ちよく手伝いを買って出てくれた。それは昼休みのことで――今は、すこぶる不機嫌であった。
義務でも職務でもない、ただ律義である小柄な少女にまず謝る。
「すまん。手伝ってもらって……」
背中を向け、椅子を並べながら答える灼の表情は読めない。
「……別に。三学年全クラスに配布する冊子『文化祭決算報告書』と全校生徒に配布する投票用紙、各部・同好会・愛好会に配布するプリント『定期定例会のお知らせ』と『部費の出納報告および生徒会執行部・文化祭損益計算書』は全て取り纏めたわ。後はパソコンデータを印刷するだけ」
現在、生徒会室には俺と灼の二人しかいない。三年生はまだ一教科残っているので終わり次第、合流するだろう。新庄めぐみと有元花散里は部室に寄ってから来るらしい。密室で男女二人という甘美な空間も、机を隔てて屹立する小さな背中から恐怖すら感じる存在感によって、空気が鋭く張り詰められていた。
「さ……、流石は灼だな。優秀過ぎてパーフェクト美少女だ」
「全然パーフェクトじゃないわ。だって富樫が信任選挙に出るだなんて、平良教えてくれないから投票用紙を作り直さなきゃいけないし。
あたしよりも先に今後の腹案を富樫に喋っちゃうから、これから皆の前で話す議案を考え直さないといけなし」
しれっと返す間に、灼は椅子を並び終えていた。その罪悪感から、俺の口調がしどろもどろになる。
「いや……あれは、あくまで俺が勝手に考えてた腹案で、まだちゃんとした案ではないというか――っと、富樫の奴が教えてくれというから……しかもあいつが出馬するって話、俺もさっき知ったわけだし」
灼は背中を向けたまま、肩を震わせていた。相当に立腹しているのだろうと俺が途方に暮れた時、
「――……っくく」
笑いをこらえるような声。しかし、それはすぐに弾ける。
「っあはははは!!」
無邪気に笑いながら振り向く灼。少し癖毛のあるツインテールが軽やかに広がった。
「もう怒ってないわ。まあ、富樫の件は驚かされたけど、これから来る高橋先輩と藤川先輩の口から聞かされる時、きっと冷静でいられるわ。そういう意味ではお互い様ね。あんたがあたしに連絡してこなかったのも――」
「――っあ……ああ、そうだ。富樫の奴がお前に連絡するなって。はははは……」
半ば放心していた俺は、安堵よりも先に笑いが出た。灼も笑いを込めて言う。
「富樫って、あたしのこと怖がってるし、バツが悪いのもわかるわ。だからあんたにそう言ったのね。でも……」
笑いながら灼の表情から『笑い』が消えた。微笑みも錯覚と思えるほどの声で、
「次からはどんな状況でもあたしに連絡してね」
明確過ぎる駄目押しに、俺は「おっ……おう」と再び言葉を詰まらせる。灼はやれやれと溜息を漏らした。
そのギスギスした空気を打ち破るように、ノックの音が響く。
「入るよー」
俺と同じクラスの二年三組・有元花散里がドアを開けて入ってきた。机にお菓子の入った袋を置くなり、俺と灼の不自然な距離感に気付いた有元は、にんまりと笑う。
「あらーぁ、もしかしてお邪魔しちゃったかしら。若いっていいわねぇ」
言った彼女の後ろから、開いたドアをノックして、
「花散里。あんたカレシいないからって、野次るのよくないよ」
窘めつつ、二年七組の新庄めぐみが軽い足取りで入ってきた。
「めぐめぐー。『同類、相憐れむ』って言うじゃん。仲良くしよーよ」
「えーいッ、鬱陶しい! めぐめぐ、言うなァ」
甘えて擦り寄る有元を、新庄が身を捩らせ拒絶する姿に、灼は逆に赤面して、ゴホンッとわざとらしく咳払いをして仕切り直す。
「先輩たちも来たことだし……作業を始めるわよ。早くしないと三年生が来るまで終わらないわ」
「りょーかいッ」
呼ばれた少女二人の声が重なり、現職生徒会が最後に集まる議会の準備を再開した。
集まった三年生は生徒会長の山科花桜梨、歴史研究部の部長と四字熟語、そして飯塚先輩と結衣先輩だ。会議の前の打ち合わせと言ったところか――さっそく口を開いたのは山科会長である。
「谷君、あなたが富樫君に伝えた腹案は理解したわ。あと……信任選挙の件もね。まあ、いずれ全校生徒の前で伝えなければならないことだけど、出来ればちゃんとした議案の方が良かったわね。――で、誰かこの件で意見のある人?」
ぐるりと見回す会長の眼が一人に止まる。鉄面皮の四字熟語が頷いたように見えた。
「知行合一。情報や作戦を熟知してても、実行力がなければ無意味。高橋や藤川の脅威は考慮しなくていい。それよりもフリールーム化するという情報が返って体育会系の部たちを志操堅固させてしまう懸念がある」
利点も欠点も隠さず露わにする四字熟語の、意味は単純でも言辞を弄する彼女の癖に、少なからず慣れずにいる新庄が危惧の声を漏らした。
「運動部は部室をフリールームにすることに賛成は出来ないかな。……『女子モトクロスバイク部』のオザキがいないから、あたしだけの意見になっちゃうけど……チームの結束力を高めたり、気合を入れる時、大声で叫んだり、後輩を怒鳴って叱ったりするわ。もちろん精神を集中したり、特訓をしたりとかも。
前時代的な作法だけど、そういう時って占有できる密閉空間が重要なのね。だから多分……反対すると思う」
「ウチはフリールームでもかまへんけどなァ」
媚を売り科を作る結衣先輩が熱い視線を送ってくる。浮かれ顔の俺を見て、灼はピクンと眉を跳ね上げた。
「……フリールームがある総合施設はあっても良いと思う。それ以上に体育会系……例えば、剣道場、柔道場、弓道場――野球場やサッカーコートは陸上部とグランドを併用してるし、ナイター設備はない。テニスコートは現在クレーコートのみ。体育館もバレーボール部とバスケ部が交代で使用してる。
茶道部は茶室がないので、公民館の茶室を部員が自腹で払って借りてるわ。これらを何とかするのが、あたしたちの『部室整理令』だわ」
誰を意識したのか、妙に挑戦的な低い声で返す灼に、部長がまあまあ、と宥めて口を挟む。
「以前に任されてた建設用地の件、何とか確保できたぞ」
言いながら部長は学校周辺の地図を広げ、その中に赤いペンで大きく雑な丸を描いた。
「学校から県道を隔てた反対側の農地と山野、約258haを購入した。とはいえ、ここから農転に登記変更等の面倒臭い手続きがあるが、これも俺が手配しよう。
ここに仮称だが――管理棟の『文化総合施設』を置き、ナイター照明設備の野球場にサッカー・グランド……ちなみに地元プロ・サッカー場より大きくなる予定だ。後は様々な公益施設をここに建設する。あと、文化祭で使用した例の場所は、そのまま『女子モトクロスバイク部』に移譲する」
どうだ、とばかりに笑いを含んだ部長の声に、新庄や有元、飯塚先輩と結衣先輩が露骨に怯む。俺と灼は、文化祭の再来だと内心呆れ、四字熟語は涼しい顔を貫いていた。
「クックック……。ホントに『歴史研究部』は面白いわ。一体、幾ら費用が掛かるのかしら?」
会長は、俺ですら部長が主催した文化祭という名の地域経済活性に費やした金額について、躊躇して中々聞き出せなかった質問をストレートにぶつけた。
「千金一擲。概算は約1338億6543万円」
その問いに四字熟語が淡々と答え、部長が豪快に笑って破顔する。
「現時点の試算なので、もうちょっと増えるかもしれないが、大した金額ではない。資金調達は目途が付いてるからな」
不安と恐れが室内に満ち、山科会長の他、『歴史研究部』以外の参加者はどよめく。俺と灼は疲れきった表情で天を仰いだ。
●部長のうんちく
いつ以来でしょうか。。。久々の登場に熱くなり過ぎましたね。
文化祭の時のように、皆様と大いに楽しめることを期待してます。。。
俺は三年で生徒会ではないので、あくまでオブザーバーですが、可愛い後輩のために頑張りますッ
なになに。。。。四字熟語がなにか言ってます。『一言芳恩』?
はははッ! そんなに俺を褒めないでくれよ。
申し訳ありませんが、もうちょっと続きます。
『歴』は、しばらくお待ちくださいませ。。。。。