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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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75/109

第七十四話:訣別する友情

大変ご無沙汰しております。


遅ればせながらブックマークおよび評価ポイントを大変ありがとうございます。

とても励みになります。


これからも拙作をお楽しみ頂ければ嬉しいです。






         ※※ 74 ※※



 「きっと平日のラッシュ時間に比べれば……空(す)いてるほうなんだろうけど」


 電車の人混(ひとご)みに押されて揺(ゆ)れて、灼は頬(ほお)を俺の胸に押し当てつつ、苦笑の顔で見上げた。

 複数の路線が乗り入れる柏駅への行程は休日の昼下がり――特に二時・三時過ぎ、首都圏へ向かう乗客で混雑するのである。


 ……少しゆっくりし過(す)ぎたかな。


 俺は今さらながら後悔した。遅い昼食の上に、灼と観た映画――『風よ吹け~公爵令妹(れいまい)の短い生涯~』の話に花を咲かせてしまったため、この時間になったのだ。おかげで身動き一つ出来ず、足元も覚束(おぼつか)ない状態であちこちから強く引っ張られる。


 「痛(い)てっっ……。灼、大丈夫か」


 吊(つ)り革に腕を伸ばして、ようやくぎりぎりで届(とど)く灼を、俺は背中から抱(だ)くように支えてやる。


 「なんとか……ね。どうせ、もうすぐ着くでしょう」


 小さい身体で心身ともに辛(つら)いだろうが、声だけは弱音を吐(は)かない。

 俺は心の奥で感心して窓の外、過(す)ぎ行く田園風景とまばらに建っている家屋の景色を眺(なが)めた。その先にある高層マンションと駅ビルを住宅地越しに確認する。


 「ああ、もうすぐだ」

 

 俺は労(いた)わるように優しく微笑んだ。と、車掌(しゃしょう)による耳慣(みみな)れた、しかし余所余所(よそよそ)しさもあるアナウンスが車内に響く。


 《いつも東武アーバンパークラインをご利用いただきまして、ありがとうございました。間もなく終点柏……柏に到着です。お出口は右側です》





 俺と灼は駅のホームに立ち、人の流れに沿って階段を上る。フロアの左右に立ち並ぶテナント店を抜(ぬ)け、自動改札口を潜(くぐ)った。そこを右に折れ東口を抜けると、駅舎と正面に見える家電量販店の間に併設された高架広場に出る。雑踏(ざっとう)に交わり、多くの人とすれ違い、俺は時計塔を見た。


 「バスにはまだ時間があるな」


 俺と灼は雑踏の流れから外れて、階段で高架広場を下りる。階下のその向こう、バスターミナルに次々とアイボリーホワイトにオレンジラインが引かれたツートンカラーのバスが入る中、路線掲示板を確認した灼が、

 

 「さて、と。スーパーに買い物へ行くわよ。晩(ばん)ご飯、なにが食べたい?」


 さっぱりした笑顔で振り向いた。


 「うーん……昨日はラーメンだったし。和食が良いけど、魚って気分じゃないな」


 俺は小首を傾(かし)げたまま、少し歩いた先にある交差点を目指した。灼が後ろから追いついて俺の腕に自分の細い腕を絡(から)める。通りの入り口にある駅前の信号が変わりかける前に、俺と灼は足早に渡った。

 渡って少しの場所『二番街』を横切り、雑踏に流れるまま歩行者天国になっている大通りに入る。その大通りに面している多目的商業施設の地下に、目指すスーパーマーケットがあるのだ。


 「今日、何か安くなってるといいけど……」


 誰に言うわけでもなく零(こぼ)す灼は絡(から)めた俺の腕を引き、入(い)り口(ぐち)ドアを抜(ぬ)けた途端、表情と身体を固くして、何者かを睨(にら)みつけた。


 「よ、……よう。久しぶり」


 正面に立ち尽くす少年――富樫はゆっくり、確認するように手を上げた。


 「富樫。奇遇だな」


 彼の姿を認めた俺は、明るい口調で声をかけた。しかし灼は答えず踵(きびす)を返し、無言で俺を来た道の扉へと押し戻す。その態度に富樫は、やや慌てて呼び止める。


 「ちょ、ちょっと待ってくれッ」


 俺を押し出す手を止め、灼は大きな栗色の瞳に拒絶の色を宿(やど)らせて振り向いた。それでも富樫は安堵(あんど)と緊張、相半(あいなか)ばする声で、


 「……平良。お前とはち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)話(・)し(・)合(・)い(・)た(・)い(・)と思ってたんだ。少し時間を貰(もら)えるとありがたい」


 多目的商業施設一階フロア―、入り口付近にある喫茶(きっさ)店を指さした。





 

 数分後、俺と灼、富樫の三人は向かい合ってボックス席に座っていた。

 俺と灼の前にはロイヤルミルクティー、富樫の前にはブレンドが芳(かんば)しい香(かお)りを漂(ただよ)わせている。


 「呼び止めたお詫(わ)びに、ここは俺のおごりだ。双月ちゃんも何か食べたいものがあれば注文するよ」

 「いらない。晩ごはん前だし……欲(ほ)しければ自分で頼む。ちなみにあたしのお代は平良持ちよ」


 周囲は誰もが自分たちの趣味や興味で沸(わ)き立つ中、俺たちのボックス席だけ沈黙が降(お)りる。


 「相変わらずだな、双月ちゃんは」


 富樫はブレンドに異なる苦さと笑いを混ぜて啜(すす)り、


 「で……その何だ。話の事なんだが……平良、お前にだな……」


 しかし言う内に探していた言葉が見つからず、ついには語尾を小さく途切(とぎ)れさせて俯(うつ)いた。俺もあえて会話を交えず、ロイヤルミルクティーに口を付けて声を待つ。

 再び痛々(いたいた)しい沈黙が流れたが、富樫が突如、気を決(けっ)して顔を上げた。


 「平良。お前、本当に『部室整理令』を――あ(・)の(・)会(・)長(・)の後を引き継(つ)ぐのか?」

 「ああ」


 俺は短く答えて、正面から向き合った。対する富樫は悲しむような怒るような表情で首を振(ふ)る。


 「『部室整理令』が出た時、俺たち一緒に反抗したじゃないか。お前たちの部長や四字熟語、オザキちゃんと結衣(ゆい)先輩に……飯塚(いいづか)先輩。皆で生徒会に一泡吹かせてやるって『考古研修旅行』に行って……平良が始めた『歴史検証(ゲーム)』だって、生徒会に打ち勝つためだって聞いたぜ?」


 生徒会に向けられた揺(ゆ)るぎのない憤激。そして同士――だった俺に向けられたのは、


 「平良……。生(・)徒(・)会(・)長(・)な(・)ん(・)か(・)になるな。ならないでくれ」


 不安と不満が渦巻(うずま)く強烈な懇願。俺は無言を通した。そんな俺に怒りと焦燥(しょうそう)の視線を刺(さ)してきたが、ふいにそれも霧散(むさん)した。


 「もう何を言っても無駄なんだな。それほどの覚悟があるってことか……」


 諦(あきら)めよりも呆(あき)れに近い声で冷めたブレンドを一気に呷(あお)った。そして苦笑交じりに、


 「何がお前をそんなに変えたんだ? まさか『妖狐(ようこ)』に取り憑(つ)かれたって噂(うわさ)は本当だったのか?」


 俺も軽い口調で返す。


 「さあ、どうだろうな」


 今まで隣(となり)で黙って聞いていた灼が横目で睨(にら)んできた。俺は慌(あわ)てて誤魔化(ごまか)しの咳を吐(つ)く。


 「俺だって最初は生徒会の横暴に腹を立ててた。でも『歴史検証(ゲーム)』を通じて旧時代の膿(うみ)が見えてしまった。だから新時代を築(きず)くために生徒会長になると決めた」

 「言ってる意味は分からないが、とにかくお前が決めたことなら仕方ない。だったら俺とお前は戦うことになる」

 「戦う?」


 富樫の強い言葉に、俺は戸惑(とまど)いの表情を見せた。


 「ああ、俺はやはり『部室整理令』で人を試(ため)すような山科(やましな)会長のやり方は嫌いだ。生徒会の中でも藤川先輩や高橋先輩のように反対側の人もいる」


 と、衝動的に富樫は言葉を続ける。


 「確かに今の部室棟が無法地帯だって事は俺も理解してる。お前たちが新部室棟を新築して生徒会の管理の下(もと)で新たに部室を割(わ)り当(あ)てることも知ってる。でも、その割り当て方法はどうする? 今度は平良――お前が俺たちを試すのか?」


 言い終えた富樫の双眸から先ほどの強さは消え、俺から目を逸(そ)らした。


 「……すまん。俺はお前の応援は出来ない」


 弾かれるように立ち上がった富樫は伝票を持って去っていった。俺は呆然(ぼうぜん)と富樫の背中を見送った後、深く嘆息する。


 「ふふふ。富樫に振(ふ)られたわね」


 すっかり付添人となっていた灼は嬉しそうに俺を覗(のぞ)き込んだ。俺は憮然と眉を眇(すが)めて非難する。


 「まあ、あいつも色々と考えてたということだな。でも俺は負けてないからな」

 「はいはい」


 空元気(からげんき)の軽口を受け止めてから、灼は幼い顔を引き締(し)め、微量の鋭さを含めて言う。


 「富樫の背後には、藤川先輩に高橋先輩や『部室整理令』に反対の部が繋(つな)がってると見るべきね。まあ、それはそうと……」


 急に灼が相好を崩して、可笑(おか)し味を隠すように口元に手を当てる。


 「あんたたちの会話、傍(はた)で聞いてて思ったんだけど……まるで仮名垣魯文(かながきろぶん)の『当世牛馬問答(とうせいぎゅうばもんどう)』みたいだったわよ」

 「俺が『文明開化』で出世したものの、愚痴(ぐち)ばかり言う牛で、富樫が世の中の動きに耳を貸さず、取り残された『幕藩体制』の馬ということか?」


 後味(あとあじ)の悪い富樫との会話を思い出して、俺は顔をしかめた。灼は堪(こら)えることなく声を出して笑い出す。


 「まあ、『部室整理令』で新秩序を作り上げるのも、今まで通りにその時々の有力の部に秩序の安定を委ねるのも、あくまで支配体制の一手段だわ。つまりど(・)っ(・)ち(・)も(・)ど(・)っ(・)ち(・)ということ。人(・)は(・)支(・)配(・)体(・)制(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、(・)人(・)に(・)付(・)い(・)て(・)い(・)く(・)のよ。

 あたしは平良のすることが好きだから付いて行くだけ。それが『歴史』でしょ」


 俺は、灼の理知の強さに感服しつつ、恥ずかしさと照れ臭さが湧(わ)いてくるのを心で感じ、笑って答える。


「……『そう聞けばなるほど尤もだ。モウモウ愚痴は云(い)うめえ。アア、牛(ぎゅう)の音も出ねえ』……そうだ。今晩のご飯は『安愚楽鍋(あぐらなべ)』が食べたい」

●富樫のうんちく


今回は『歴』は少量『めろ。』は中量で中途半端でした。。。

申し訳ありません。

しかも富樫のメイン回みたいになって、個人的には嬉しかったです。

もう無いんだろうな。。。。『俺』回。


次回は源平の『歴史検証』に戻ります。

お楽しみにお待ちくださいませ。。。。


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― 新着の感想 ―
[一言] 友との決別。 立場が異なれば問題解決の手法も変わる、と言う事ですか。 歴史の折々で見られたであろう光景でもありますね。
[良い点] >灼が後ろから追いついて俺の腕に自分の細い腕を絡からめる。 ナチュラルにくっついてからの夕飯の相談 もはや恋人とっこして夫婦 [一言] 新体制への移行がなにをもたらし何を切り捨てるのか
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