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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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第六十六話:発端

いつもお楽しみ頂きまして、誠にありがとうございます。


緊急事態宣言下、私生活において制限がかかる中、拙作が隙間時間の楽しみになって頂ければ嬉しいです。





             ※※ 66 ※※




「入るッスよ」


 ガチャリと扉を開いて入ってきたのは、『女子モトクロス部』の交渉人ネゴシエイターオザキである。バイクに関しては卓越たくえつした技芸ぎげいの持ち主だが、知能と言う一点で適材てきざいとははなはだ思えない。俺や灼と親しいという理由から――面倒事めんどうごとを押し付けられたらしいが、本人が自覚していないのはさいわいだろう。

 後から会長が、『女子テニス部』の新庄と『地質調査研究部』の有元花散里(かざり)ともなって入ってきた。


 「クックック。()()()()()はいつもたのしそうね。お仲間に入れてもらえるのかしら」


 会長・山科花桜梨(かおり)は、大きな漆黒しっこくの瞳を細めてたずねた。


 「まあ、あたしは双月と頑張ろうって約束したし……。ついでに()()()()()手伝ってあげるわよ」


 新庄めぐみは、不承不承(ふしょうぶしょう)ながら俺から目をらした。


 「あたしは部が存続できれば何でも良いけど。一応、双月のおかげで会長の課題もクリアできたし……恩義もあるわけで、()()()()に協力するわ。しっかし、谷ってホント『ラノベ・ハーレム男』なのね」


 有元花散里(かざり)は、興味津々(きょうみしんしん)な目つきで俺を揶揄やゆする。

 新たに数人の少女らを迎えてにわかなにぎわいを見せた。皆が和気藹々(わきあいあい)と語らっている――しかし水面下でチクチクと俺に針を刺す彼女らを、灼は苦々(にがにが)しく思いつつ、


 「これで、全員(そろ)ったわね。()()()()()ということは山科会長の『部室整理令』を継続することに同意し、数日後の信任投票で生徒会長となる……であろう平良に協力してくれる部と理解してよいのね」


 堂々と屹立きつりつする灼の姿に、全ての視線が注がれる。少女は何ら障害しょうがいおびえず、渋難じゅうなんひるまない、圧倒的な態度で栗色の大きな瞳を輝かせて、一人一人の顔を見回した。


 「会長。ここで言うことある?」


 灼はわずかなみの気配を残してく。


 「まずはここに集まってくれた人に謝罪と感謝を。私の少しばかり意地悪いじわるだったかも知れない『課題』に正面から答えてくれてありがとう。これからはかくし事なしでお話しするわ」

 「少しばかり?」


 途端とたんに新庄と有元が不条理ふじょうりな思いをさらけ出す。


 「意地悪いじわるだったかも知れない?」


 灼の表情に反発の怒りがいていた。

 その二人と会長の間に立った四字熟語が、情感じょうかんとぼしい表情で、


 「大義滅親たいぎめっしん。統制が取れないまま割拠かっきょしてる部を整理せいり監督かんとくする必要性から、その方針で生徒会が分裂の危機ききおちいった。そこで公示したのが――」

 「『部室整理令』ってわけか。俺が延久元年<1069>に出された荘園の停止命令にそっくりだと話したやつだな。まあ、この当時『荘園整理令』を頻繁ひんぱん発符はっぷしてる。歴史的観点から言っても反抗はんこうする荘官そうかんが後をたないし、将来、自衛武装じえいぶそうさせるきっかけになる」


 俺が継いだ言葉に、四字熟語が大きくうなずいた。


 「魚爛土崩ぎょらんどほう。高橋と藤川は部室棟に影響力のある運動系の部を庇護ひごしてる保守派。しかもその特権意識とっけんいしきで、生徒会予算になった『歴史研究部』の興行利益132億2001万円を部費として優先的に取れると思い込んでいる。会長やわたしはその考えに同意しない」

 「まあ……お金は()()()()()()()としても、非協力的な奴らが当たり前のように使うのは勘弁かんべんしてほしいな」


 部長が笑いの欠片かけらも交えずに大真面目に答えた。それを受けて、鉄面皮の四字熟語が、急に言葉をさがすような面持おももちで視線を泳がせた。

 迷い悩んで、それでも黙っていることへの恐怖から口を開く。


 「そこで、わたしが提案ていあんしたのが『許田射鹿きょでんしゃろく』――」


 四字熟語の断言に俺を含めた全員が驚愕きょうがくし、会長がうすい笑みを浮かべた。言われて初めて、俺は思い出した。

 以前、会長が四字熟語は生徒会業務に専念しているため、()()()()ではないと言った。しかもひかえめに言っても『歴史』に精通せいつうしているとは思えない高橋先輩や藤川先輩が何故なぜ許田射鹿きょでんしゃろく』という言葉を知っていたのか。会長ですら知らなかった故事成語こじせいごだ。

 おどろ戸惑とまどう中、俺は一つの疑問がいたことに気が付いた。

 

 「会長が俺たちや他の部に出してた『課題』の内容は四字熟語が決めてたのか?」

 「作成したのは会長。しかし会長には全ての部に対し『部室整理令』の優先条件として『課題』を与えることだけを説明した。『許田射鹿きょでんしゃろく』の実行者はわたしと高橋と藤川。会長をめるのは筋違すじちがい……提案ていあんしたわたしに責任がある」


 四字熟語はせめてもの謝辞しゃじを示そうと、深々と腰を折り曲げた。しかし灼は怪訝けげんの色をあらわにして、


 「まずは聞かせて」


 と、追及ついきゅうよりも答えを迫る。四字熟語は顔を向けず、言葉だけを放った。


 「 咄咄怪事(とつとつかいじ)。予想外にハードルが高かった会長の『課題』に()()()()()部が反発。背信棄義はいしんきぎの高橋と藤川が要求してきた優遇措置ゆうぐうそちを拒否したことで生徒会は完全に分裂。我が校の『部』と『研究会』はさらに無法地帯となってしまった。

 これは全てわたしの知小謀大ちしょうぼうだいが招いたこと……許されることではない。でも一陽来復いちようらいふく、谷と双月のお陰で皆が集まってくれた」


 ……なるほど。だから魚爛土崩ぎょらんどほう――四字熟語は内部分裂まで想定してなかったのか。しかし高橋先輩と藤川先輩が、すでに有力な体育会系の部にまれてる時点で、裏切りは確定だったはずだ。

 神社の総領娘である四字熟語は、厳格な祖父から声に宿る言霊ことだまいたずらに放出させないため、不必要な会話を禁じたと部長から聞いたことがある。考古学研修で南総なんそうへ行った時、四字熟語は『本来、おしゃべり好きだ』とも言っていた。

 内に秘めた感情が大きすぎるから、鉄面皮も四字熟語も己を守るからが必要だったのかもしれない。しかし無表情の仮面の下にある姿は、隠し事もだまし事も下手へたな、大真面目で普通の女の子なのだ。


 やれやれ、と思い直して、俺は新庄めぐみと有元花散里(かざり)に視線を移す。

 謹直きんちょくに話す四字熟語の言葉は、迂遠うえんな話を突き付けられたと不審ふしんに思うだろう。

 慣れない二人は要領を得ないことに我慢がまんの限界が近かった。

 会長が、簡単な内容で難解なんかいな物言いのはしを引き継ぐ。


 「私は四字熟語――五十嵐いがらしさんから『課題』の話を聞いた時、他に何かあるなって思ったわ。当時、私も秩序もなく乱立する部に対して制裁を加えて、反応を確かめようと考えていたので丁度良かった。でも五十嵐さんが考えてた『許田射鹿きょでんしゃろく』の真意に気付いたのは……谷君。あなたからその意味を教えてもらったときよ」


 水底みなそこのような瑠璃色が宿やどる大きな瞳を細めて、会長は笑う。


 「五十嵐さんなりに苦悩くのうしたことなんだろうと思った。と同時に『許田射鹿きょでんしゃろく』の欠点にも気が付いたわ」


 俺は意外な真相におどろきつつ、しかし全部わかった今でも心の内で得体えたいの知れぬすくぶりが残った。それが何なのか追究ついきゅうすることよりも言葉の先を選んだ。


 「それはなんだ?」


 かくしもしない尋問じんもんの声で俺は言った。会長はさびしさを加えて、また笑う。


 「谷君。三国志の時代、朝廷内の不穏ふおんな動きを感じた曹操が、わざと献帝の弓を横取りして権力を誇示する。実は敵と味方を見分みわけるためだったという故事が『許田射鹿きょでんしゃろく』だと教えてくれたわよね」

 「ああ」


 短く深く、ただ答える俺。会長はいつもと違うきらめきを見せた。


 「敵は判別はんべつ出来た。でも味方が、ね――。味方が私たちにはいなかったのよ」


 笑いはそのままだった。

●新庄めぐみのうんちく


 あたしはテニス一直線のスポーツ馬鹿だから、『歴』も『めろ。』もわかんないけど、生徒会の存亡と言うか部活動自体の雲行きも怪しくなってきてるということは理解できたわ。

 しかし四字熟語先輩?

 谷や双月はよく会話が成り立つよね。あたしは無理。。。。

 まあ、谷と双月の会話も時々浮世離れしてるかもって思う時はあるけど。


 次回は再び『歴史検証』が入るみたいです。

 あたし、付いて行けるかなァ。。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラノベのハーレム野郎 はたからみればたしかに めいんひろいんが灼 合法ロリ? [気になる点] 132億2001万円どこの交付金だこれ [一言] このあと赤門で「焼肉定食」
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