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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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58/109

第五十七話:みんな『エース』を狙っている

大変ご無沙汰しております。

この度、評価ポイントおよびブックマークを頂きました。

本当にありがとうございます。

拙作をお楽しみいただいております事、嬉しく思います。

大変励みになります。


これからも皆様にお届けできたらいいなと思います。




        ※※ 57 ※※




 「その勝負、あたしも加えてちょうだいッ」


 灼が威風堂々と登場した。

 パイピングが黄枯茶(きがれちゃ)色で施され、綺麗に糊(のり)付けされたキャメルブラウンのセーラ・ボレロに、マドラスチェックのスカートが冷たい風で翻(ひるがえ)る。

 しかし足取りは軽やかに。乱れた細めのプリーツを押える仕草は少し恥ずかし気(げ)に。

 背後から遅れて辿り着いた、背の高い男子……諏訪野君はレベルを肩で担ぎ、有元が肩を大きく上下に揺らしながら息をしていた。


 「双月さん。あなた、状況が分かって言ってるのかしら。生徒会として決して受け入れられない事態(こと)だわ」


 灼は、最初から無かったかのように、会長の言葉を聞き流し、新庄の前に立つ。


 「あんた」

 「あ、あんたって……一年のくせにッ! どういうつもりでッ……」


 見た目は年齢よりも遥かに幼い顔立ちだが、凛々しさが見る者を圧倒させる。新庄は怯みの色を見せて言葉を失った。強烈な存在感を持った小柄な身体(からだ)がズイッと前に出る。自然、新庄は後ずさりした。


 「あんたにとってテニスはそ(・)れ(・)だ(・)け(・)の(・)価(・)値(・)があるのね?」

 「そ、そうよ。あたしにとって高校生活の全てだわ」


 たじろぎつつも、新庄の力強い双眸(そうぼう)が灼を見る。睨(にら)み合うこと一瞬、少し険しい顔になった灼が言う。


 「わかったわ。あたしと、あんたと……庭球部の誰か。そっちはペアでいい。テニスで勝負しましょ」


 新庄は怒れる面(おもて)を黙ったまま僅かに伏せた。やがて恥辱に耐える低い声で、

 

 「……いつもいつも、いつもッ。そうやって……見下して」

 

 と猛烈な怒気を呟(つぶや)き、憎体(にくてい)を投げつけた。


 「生徒会って何も分かってないッ!」

 「あんたも生徒会でしょ」


 にべもなく斬って捨てた灼の言葉に、やり込まれた新庄はこれ以上にない程の激昂(げっこう)を見せていた。


 「双月、あんたって有名だわ。勉強も運動も料理も出来て、ちょっと可愛くて……彼(・)氏(・)にいつも引っ付いて。知ってる? あんた……女子の中では、かなり嫌われてるのよ?」 

 「だから何?」


 灼の周りだけ急に冷え込んだ平静な声。ただし突(つ)けば爆発しかねない、そうと分かる平静な声だった。

 幼さを隠す凛然とした姿とあくまで無表情な整った容貌から、新庄は強豪選手と競った時と同様、心底からの寒さに震えた。

 灼はさらに歩を進める。微笑(わら)っていない、怒ってもいない……ただ、薄蒼(あお)く光る大きな瞳を細め見上げている。


 「あんたみたいにテ(・)ニ(・)ス(・)だ(・)け(・)頑(・)張(・)っ(・)て(・)い(・)れ(・)ば(・)スポーツ推薦が貰えると思ってる人はたくさんいるわ。あんたの部長はそれが分かってたから、『妖狐(ようこ)』なんかに預けたんだろうけど」


 言いつつ、灼は目線を会長に移し、再び新庄に戻す。戻した時、すでに別段変わりない、見かけ通りの幼い少女の顔がそこにあった。新庄は心中、安堵した。


 「……まあ、正直あたしも会長のやり方は気に食わないし、あんたが納得できる方法ならば一番良いと思う。ただし……」


 新庄は先程の安堵を激しく後悔した。灼の顔にあったのは、憤慨(ふんがい)や敵意でない。感情の底に直隠(ひたかく)された厳しさ。間違いを犯した者が本能的に恐れる叱咤(しった)の表情だった。

 灼の唇から、痛撃(つうげき)の前置きが放たれる。


 「ただし、条件があるわ」


 新庄は自身が不利な形勢にあることへの認識、次に続く灼の言葉に嫌な予感を覚えた。


 「あたしが勝ったら、平(・)良(・)の(・)生(・)徒(・)会(・)では好きにさせない、山科会長みたいに甘くはないわよ。我儘(わがまま)は絶対に許さないわ」

 「あ、ああ……たしが勝ったら?」


 受けた衝撃(しょうげき)に、新庄は唸(うな)るような声を漏(も)らした。灼はあっさりとした口調で言う。


 「好きにすれば。もちろん生徒会はあんたのスポーツ推薦を教師サイドに推(お)してあげる。合格するか不合格かはあんたの実力次第だけど」


 さらに灼は言葉を継ぐ。


 「もし、あんたがテ(・)ニ(・)ス(・)も(・)生(・)徒(・)会(・)も(・)全力でやり切ったら、あたしも平良もきっと全力で応援するわ。でしょ? 平良」


 蚊帳(かや)の外という単語が相応(ふさわ)しい俺は、ようやくの溜息とともに口を開いた。


 「あ……ああ、灼の言う通りだ。そうなるとこ(・)れ(・)は勝負ではなく、特訓だな。生徒会の新庄を、同じく生徒会の灼が特訓するということで問題ないよな? 会長」


 会長が諦めというより呆れに近い嘆息を吐(つ)く。


 「色々問題あるけど……まあ、いいわ。ところで根本的な質問だけど、双月さんはテニスが出来るの?」


 意味のない質問に、意味のない反応。しかし、誰かが言わなければならない答え。多分、会長も全て分かった上で聞きたかったのだろう、灼の実力を確認するために。


 「灼。おまえ、テニスは小学校以来だろう。誰かと組んでダブルスにしたほうが良くないか?」


 俺は婉曲的な表現で遠慮がちに言う。だが全く予想外の、一年グループの中から驚嘆(きょうたん)の声が上がった。


 「そうよッ! 思い出したァ!! 双月灼ァ! 全日本ジュニア選手権12歳以下女子シングルスの優勝者ァ!!」


 突然、テニス部員が騒(ざわ)めき始めた。「何?」あるいは「誰?」の疑問が「実力者?」「すごいの?」という怪訝に取って代わる。その質問を代表して新庄が灼に訊(き)く。


 「どういうこと?」

 「あたしがテニス経験者ってことよ。小学校低学年までドイツでテニス習ってたし、多少ブランクあるけど、あんたには負けないつもりよ」


 もはや言い返す気力もなく、新庄は黙って灼を見る。そして静かに敵意が沸々と湧いてきた。目の前の少女が急に煩わしく見えた。自分が欲しているものを全て持っている……ともすれば、プロテニスプレイヤーへの道だって開かれていたというのに。

 ごく少数だがいるのだ。血の滲む努力の末、辿り着いた先で得る勝利を、平然と掠め取る奴が。『天才』と呼ばれる、それらの人種が。やっぱり新庄にとって灼は嫌悪の対象なのだ。


 「双月。あたし、あんたをテニスでブッ潰さないと気が済まなくなったわ。早く始めましょ」


 踵を返し、灼を見知っているであろう一年部員を呼ぶ。新庄の、勢い込んで殺意すらも零(こぼ)れ出すほどの逆上に、会長は理解というより、感得に近しい気持ちで長い溜息を漏らした。


 「双月さん。私も参加するわ。こ(・)れ(・)は(・)私(・)の(・)ケ(・)ジ(・)メ(・)で(・)も(・)あ(・)る(・)み(・)た(・)い(・)だ(・)か(・)ら(・)」


 灼も同じことを思ったのだろう、異なる生き方や価値観が僅かに揺らぐ。


 ……心が、痛かった。

『歴』がなく『めろ。』が少ない回が続きまして申し訳ありません。

次回はスポコンの予感です。。。。


『歴』も『めろ。』も早急に復活させるべく進めて参ります。

お楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 灼スペック高すぎ
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