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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
58/108

第五十七話:みんな『エース』を狙っている

大変ご無沙汰しております。

この度、評価ポイントおよびブックマークを頂きました。

本当にありがとうございます。

拙作をお楽しみいただいております事、嬉しく思います。

大変励みになります。


これからも皆様にお届けできたらいいなと思います。




        ※※ 57 ※※




 「その勝負、あたしも加えてちょうだいッ」


 灼が威風堂々と登場した。

 パイピングが黄枯茶きがれちゃ色で施され、綺麗にのり付けされたキャメルブラウンのセーラ・ボレロに、マドラスチェックのスカートが冷たい風でひるがえる。

 しかし足取りは軽やかに。乱れた細めのプリーツを押える仕草は少し恥ずかしに。

 背後から遅れて辿り着いた、背の高い男子……諏訪野君はレベルを肩で担ぎ、有元が肩を大きく上下に揺らしながら息をしていた。


 「双月さん。あなた、状況が分かって言ってるのかしら。生徒会として決して受け入れられない事態ことだわ」


 灼は、最初から無かったかのように、会長の言葉を聞き流し、新庄の前に立つ。


 「あんた」

 「あ、あんたって……一年のくせにッ! どういうつもりでッ……」


 見た目は年齢よりも遥かに幼い顔立ちだが、凛々しさが見る者を圧倒させる。新庄は怯みの色を見せて言葉を失った。強烈な存在感を持った小柄な身体からだがズイッと前に出る。自然、新庄は後ずさりした。


 「あんたにとってテニスは()()()()()()()があるのね?」

 「そ、そうよ。あたしにとって高校生活の全てだわ」


 たじろぎつつも、新庄の力強い双眸そうぼうが灼を見る。にらみ合うこと一瞬、少し険しい顔になった灼が言う。


 「わかったわ。あたしと、あんたと……庭球部の誰か。そっちはペアでいい。テニスで勝負しましょ」


 新庄は怒れるおもてを黙ったまま僅かに伏せた。やがて恥辱に耐える低い声で、

 

 「……いつもいつも、いつもッ。そうやって……見下して」

 

 と猛烈な怒気をつぶやき、憎体にくていを投げつけた。


 「生徒会って何も分かってないッ!」

 「あんたも生徒会でしょ」


 にべもなく斬って捨てた灼の言葉に、やり込まれた新庄はこれ以上にない程の激昂げっこうを見せていた。


 「双月、あんたって有名だわ。勉強も運動も料理も出来て、ちょっと可愛くて……()()にいつも引っ付いて。知ってる? あんた……女子の中では、かなり嫌われてるのよ?」 

 「だから何?」


 灼の周りだけ急に冷え込んだ平静な声。ただしけば爆発しかねない、そうと分かる平静な声だった。

 幼さを隠す凛然とした姿とあくまで無表情な整った容貌から、新庄は強豪選手と競った時と同様、心底からの寒さに震えた。

 灼はさらに歩を進める。微笑わらっていない、怒ってもいない……ただ、薄あおく光る大きな瞳を細め見上げている。


 「あんたみたいに()()()()()()()()()()()()スポーツ推薦が貰えると思ってる人はたくさんいるわ。あんたの部長はそれが分かってたから、『妖狐ようこ』なんかに預けたんだろうけど」


 言いつつ、灼は目線を会長に移し、再び新庄に戻す。戻した時、すでに別段変わりない、見かけ通りの幼い少女の顔がそこにあった。新庄は心中、安堵した。


 「……まあ、正直あたしも会長のやり方は気に食わないし、あんたが納得できる方法ならば一番良いと思う。ただし……」


 新庄は先程の安堵を激しく後悔した。灼の顔にあったのは、憤慨ふんがいや敵意でない。感情の底に直隠ひたかくされた厳しさ。間違いを犯した者が本能的に恐れる叱咤しったの表情だった。

 灼の唇から、痛撃つうげきの前置きが放たれる。


 「ただし、条件があるわ」


 新庄は自身が不利な形勢にあることへの認識、次に続く灼の言葉に嫌な予感を覚えた。


 「あたしが勝ったら、()()()()()()では好きにさせない、山科会長みたいに甘くはないわよ。我儘わがままは絶対に許さないわ」

 「あ、ああ……たしが勝ったら?」


 受けた衝撃しょうげきに、新庄はうなるような声をらした。灼はあっさりとした口調で言う。


 「好きにすれば。もちろん生徒会はあんたのスポーツ推薦を教師サイドにしてあげる。合格するか不合格かはあんたの実力次第だけど」


 さらに灼は言葉を継ぐ。


 「もし、あんたが()()()()()()()()全力でやり切ったら、あたしも平良もきっと全力で応援するわ。でしょ? 平良」


 蚊帳かやの外という単語が相応ふさわしい俺は、ようやくの溜息とともに口を開いた。


 「あ……ああ、灼の言う通りだ。そうなると()()は勝負ではなく、特訓だな。生徒会の新庄を、同じく生徒会の灼が特訓するということで問題ないよな? 会長」


 会長が諦めというより呆れに近い嘆息をく。


 「色々問題あるけど……まあ、いいわ。ところで根本的な質問だけど、双月さんはテニスが出来るの?」


 意味のない質問に、意味のない反応。しかし、誰かが言わなければならない答え。多分、会長も全て分かった上で聞きたかったのだろう、灼の実力を確認するために。


 「灼。おまえ、テニスは小学校以来だろう。誰かと組んでダブルスにしたほうが良くないか?」


 俺は婉曲的な表現で遠慮がちに言う。だが全く予想外の、一年グループの中から驚嘆きょうたんの声が上がった。


 「そうよッ! 思い出したァ!! 双月灼ァ! 全日本ジュニア選手権12歳以下女子シングルスの優勝者ァ!!」


 突然、テニス部員がざわめき始めた。「何?」あるいは「誰?」の疑問が「実力者?」「すごいの?」という怪訝に取って代わる。その質問を代表して新庄が灼にく。


 「どういうこと?」

 「あたしがテニス経験者ってことよ。小学校低学年までドイツでテニス習ってたし、多少ブランクあるけど、あんたには負けないつもりよ」


 もはや言い返す気力もなく、新庄は黙って灼を見る。そして静かに敵意が沸々と湧いてきた。目の前の少女が急に煩わしく見えた。自分が欲しているものを全て持っている……ともすれば、プロテニスプレイヤーへの道だって開かれていたというのに。

 ごく少数だがいるのだ。血の滲む努力の末、辿り着いた先で得る勝利を、平然と掠め取る奴が。『天才』と呼ばれる、それらの人種が。やっぱり新庄にとって灼は嫌悪の対象なのだ。


 「双月。あたし、あんたをテニスでブッ潰さないと気が済まなくなったわ。早く始めましょ」


 踵を返し、灼を見知っているであろう一年部員を呼ぶ。新庄の、勢い込んで殺意すらもこぼれ出すほどの逆上に、会長は理解というより、感得に近しい気持ちで長い溜息を漏らした。


 「双月さん。私も参加するわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 灼も同じことを思ったのだろう、異なる生き方や価値観が僅かに揺らぐ。


 ……心が、痛かった。

『歴』がなく『めろ。』が少ない回が続きまして申し訳ありません。

次回はスポコンの予感です。。。。


『歴』も『めろ。』も早急に復活させるべく進めて参ります。

お楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 灼スペック高すぎ
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