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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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第四十二話:生徒会の暗部

皆様、ご無沙汰しております。


とある日、『劇場版ハイスクールフリート』を観て来ました。


四隻による46センチ三連装砲の斉射音が腰まで響き、圧巻でした。。。。






           ※※ 42 ※※




 ようやく追い付いて隣に並びかけた時。

 灼が引き戸のガラスを砕きかねない勢いで開け、その衝撃が鼓膜を貫く。たった今まで静謐せいひつだった生徒会室には、幸いにも会長しかいなかった。

 まさに嵐の如く駆け込んだ灼を、会長は平常通りの表情で見つめる。


 「双月さんを呼んだ覚えはないわ」

 「勝手に来ただけよッ! あたしも呼ばれた覚えはないしッ」


 噛みつかんばかりの剣幕で、ズンズン進み、執務机にこぶしを置く。


 「生徒会に手を貸そうって言ってんのよッ! 早く未決済書類を渡しなさいッ!」


 会長が小首を傾げ、灼と俺を見比べる。その視線、僅かな挙措きょそで、俺は助け舟に気付き補足した。


 「……今朝のヘルプの件を話した」


 俺の発言で、意味もなく灼がふんぞり返る。


 「ふ、ふんッ。よくも平良を騙してタダ働きさせてくれたわね? 『歴史研究部』は損害賠償請求として、『部室整理令』の優遇を主張するわ。と、言ってもそれだけでは弱いから、あたしも生徒会を手伝ってあげる。平良には甘い言葉が通じたかも知れないけど、あたしには無理だわ。これは純粋な取引よッ!」


 灼の長い主張に、会長は同じくらい長く嘆息した。さっさと不適当な部分を指摘する。


 「言葉の齟齬そごがあったのは認めるけど、私は『善処する』と言ったわ。現時点で詐欺に問われるいわれもないし、ましてや谷君の手伝いについては事前に合意も取ってる。不法行為に基づく損害賠償は発生し得ない……でも、まあいいわ。双月さんが『歴史研究部』の代表として交渉するというのなら、生徒会としても異存はない。前向きに検討しましょう」


 この時点で、俺は当事者にも関わらず、完全に蚊帳かやの外だった。灼は、強烈な意思を大きな栗色の瞳に宿らせ、抜身ぬきみの刃のように見据える。


 「つまり、交渉成立ということね」


 不敵に笑う灼を、会長は軽くなした。


 「私は前向きに検討すると言ったのよ?」

 「は、はァーん……ということは、あんたはつまり、平良との交渉を『善処する』前にコキ使ったということになるわ。これって不法行為にはならないのかしら?」


 ズイッと双眸そうぼうを光らせ詰め寄る灼。対して会長は全く怯まない。

 そして俺は実感した。女子を怒らせると、途轍とてつもなく怖ろしいのだ、と。

 やがて、会長が肩をすくめて立ち上がった。


 「双月さん、あなたには負けたわ。交渉成立……優遇措置は約束する」


 と、半ば諦めた表情で苦笑しつつ、


 「ただし、二人には生徒会の役員候補として働いてもらうわ」

 「役員候補……って何だ?」


 怪訝な顔をする俺と、僅かに口元を緊張させる灼。会長が意地悪く笑い、補足する。


 「私が二人を次期生徒会役員に推薦すいせんするってことよ」

 「あたしが知る限りでは、文化祭後に行われる通常定例会で、各委員会やクラス委員、実績のある部から()()()と思う人を生徒会が推薦するって話だけど?」

 「そうなのか?」


 俺の質問に、灼は隠さず不満を漏らす。


 「あんたって、興味がないことに関して、とことん無知ね」

 「オヤジが公務員だからな。政治には関与しないんだ」


 的外れな抗弁こうべんに呆れ顔の灼。会長は未決済書類を長机に並べながら、話の間を取る。


 「興行利益132億2001万円……正直、一学校の校長は元より県の教育委員会でも、この案件を持て余してるのが現状よ。学生の本分を逸脱してるという学校意見と、地域に絶大な貢献を果たしたと賛辞を贈る地元企業と政治家たち。しかも贈賄容疑のある『歴史研究部』の部長が、完璧な貸借対照表と損益計算書を提出して、自主停学したもんだから余計に稚児ややこしくなってる。これに生徒会は中立な立場を取ってた」


 俺と灼が同時に愁眉を見せたので、「クックックッ」と声を上げる。


 「生徒会長である私が、貴方たち二人を生徒会役員に推薦する意味が分かるわよね?」

 「生徒会に『歴史研究部』の部員を推薦することで、()()()()部と認め、『部室整理令』から優遇措置を取る。さらに生徒会が『歴史研究部』の擁護に回るので、部長の嫌疑も晴れ、自主停学の必要も無くなるってわけか」


 ……そして、俺たちを利用して分裂しかけてる生徒会を立て直し、且つ自分の息の掛かった後輩を後継者に仕立て上げる。恐ろしいことを思いつくもんだ。……でも、そう思い通りになるかな?


 俺は唸り、会長を見据えた。灼は人差し指を小さな唇に当てている。こいつが思考を巡らす時の癖だ。


 「あんた」


 幼い顔立ちに静かな気迫を宿し、会長を睨む。


 「もし、あたしたちを手駒にしようってなら無駄よ」

 「クックックッ。そんなつもり毛頭ないわ。いずれにしろ、定例会までに誰を推薦するか決めなければならない。私にとって同じことだわ」


 執務机に向かい、座り直した会長はメガネを掛け、ノートパソコンのキーボードを弾き始めた。俺と灼も無言で倣い、未決済書類の前に座った。





 再び、静寂な空間へと戻った生徒会室に、プリントをめくる音とキーボードを叩く軽やかなプラスチック音のみが響く。

 時々、灼が立ち上がる椅子の音と、会長が給湯器で湯を沸かす音が混じるが、それが小一時間ほど続いた。

 遠慮がちに戸が開き、二人の男子生徒が入ってきた。見知った顔ではないので、恐らく上級生だろう。二人の先輩は胡乱うろんな目で俺を見て、隣の灼が視界に入ると露骨に驚愕してみせた。


 「何でここに一年の双月が?」

 

 包み隠せない小声の上級生たちが、憧憬しょうけいを込めた視線を灼に送っていた。当の灼は、人が入室してきたことすら気付かないくらい、大量の領収書を食い入るように見ていた。


 「藤川」

 「な、何かな?」


 会長の澄んだ声に呼ばれて、上級生は恐恐きょうきょうと進み出た。そのうかがうような視線と質問に、鋭い瞳と冷たい表情で返す。


 「貴方の総勘定元帳、13億4312万3002円合わないわ。転記ミスの可能性があるから確認して頂戴。定例会まで日がないわ。明日までに原因を追究すること、いいわね」


 藤川の顔が無残に歪んだ。


 「い、いや、これで三度目だぜ。転記ミスじゃなくて、仕訳ミスの可能性だってある」

 「高橋。仕訳したのは貴方だったわね。明日まで報告して頂戴」


 冷淡に容赦なく告げられた、もう一人の上級生、高橋は恨めしそうに藤川を見るが、それに勝る敵意で会長に向き直る。


 「僕も何回も見直したッ! そもそもクレイジーな『歴史研究部』が途方もない収益を計上したばっかりに、余計な仕事増やしやがってッ」

 

 吐き捨てるように罵る高橋を一瞬、灼は見上げるが、すぐに興味を失って仕事を再開する。俺も彼の言動に怒りを覚えたが、無視を決め込んだ。


 「数字の大小関係なく、単なる足し算と引き算よ。貴方たちが文化祭決算報告書を作成できないというのなら、二年の雑務を手伝ってもらうわ」


 会長の言はどこまでも冷ややかだ。二人の先輩は、俺を憤怒の形相で一瞥した後、激しく戸を開け去っていった。


 その駆け去る足音が遠く消え行くのを聞きながら、俺は本日、二度目の出来事に嘆息した。

 やはり、会長は平然と業務にあたっていた。 

今回は全く『歴』も『めろ。』もなく申し訳ございません。


次回は復活いたしますので、どうぞお待ちくださいませ。。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいんじゃないでしょうか?元せーじヲタクとしては楽しく読めました♪  一般的な学園物語でも、この手の「生臭いハナシ」は読者の賛否が分かれるトコロでしょうが、「歴」ですから、「祭」だけでな…
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