表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴めろ。  作者: 武田 信頼
第一章:設楽原編
3/108

第二話:きっかけ

               ※※ 2 ※※



 部室のカギを職員室に返還する道すがら。


 下校途中の俺と部長は校庭の並木道を歩いていた。


 「しっかし、飽きないよな……お前ら。毎度毎度の夫婦喧嘩」

 「夫婦じゃねェ!」


 俺は間髪入れず全面否定する。


 「それに歴史検証を痴話喧嘩みたく言うな」


 もっともらしいことを言ってみる俺。

 灼とセットにされるのは全く嬉しくないからだ。


 「内容はあれとして……やってることは立派に痴話喧嘩だわな」


 俺の言い訳をさらりと受け流して、「とりあえず」と、メガネの奥がキラリと光った。


 「……協調性ゼロのお前たちをダシにして、ダシだけに文化祭の出し物にする。いやー平良VS双月『長篠ながしのの合戦』を題材にした夫婦痴話喧嘩ガチンコ・デスカッション。満場一致で可決して良かったァー」


 「おいッ! 全然うまくねェ!!」


 「いいじゃないか。お前たちの歴史考証とやらで決まったことだろ? やりがいあるぜ、武田軍の双月が馬防柵を突破して大将のお前を打ち取ったら、武田の勝ち。陣中を突破できずに全滅したら織田の平良が勝ち」


 「それって全然実験考古になってないしっ!」


 俺は、とにかく反対なのだ。


 「文化祭だぜェ~? 気軽に行こうじゃん。火縄銃は水鉄砲で代用するとして、問題は馬かぁ~? 女子モトクロス部に参加してもらおうかな」


 「おいおい……」


 部長の脳内にはすでに構想があるようだ。一体俺たちに何をさせるつもりなんだ?


 俺の不満顔を見た部長は、不敵に笑う。


 「今年は東葛山祭の歴史に名を残す、素晴らしいイベントになりそうだな。ほかにも参加者を募るつもりさ。まあ、生徒会の仕事もあるらしいが、四字熟語もノリノリだし」


 「……あの鉄面皮のどこがノリノリなんだよ」


 さすがにそこはツッコミを入れさせてもらう。


 「それはそうと……」


 部長がいきなり顔を寄せてくる。一瞬、たじろいだ。


「双月は一年女子の中では、かなり有名人らしくてな……。学校中の運動部が欲しがるくらいの運動神経の良さ。おまけに可愛いから男子にも人気が高いッ! 成績優秀! 容姿端麗!!」


 「……天真爛漫、自己中心」


 いつの間にか、そばにいた四字熟語が話に加わる。


 「……容赦ないな、お前」

 「そう? 直言直行」


 部長の苦言にもひるまない四字熟語。

 俺は嘆息し、話を切り上げようとする。


 「他はともかく、最後の自己チューは認めるぜ」


 俺が去ろうとすると、四字熟語が袖を引く。


 「三釁三浴さんきんさんよく。彼女が待ちわびてる」

 「やべッ!!」


 すっかり忘れていた、灼のことを。


 「おっそォーい!!」と叫びながら走り寄る灼を前に俺は頭を抱え込む。


 「いつまで待たせる気!? ありえないッ!」


 「無理往生……、あなたの代わりに世話してた」


 「俺はこいつの飼い主じゃねェ!!」


 四字熟語にはしっかり俺たちの関係を伝えておく必要がある。

 ……一体俺たちをどういうふうに見ているのだ?


 「帰ったら文献整理があるから、さっさと行くぞ!」


 とりとめのない気持ちを灼にぶつけて、先を急ぐ。


 「回心天意。明日も会議を開く」


 四字熟語の言葉に、俺は振り向き言う。


 「言っとくが、灼と設楽原の再現をするという議題は賛成しない。なんせ畑が違いすぎて成立しないぜ?」


 「あんた、まだそんなこと言ってるの!?」


 隣で騒ぐ灼はあえて無視する。


 「平良」


 部長が言う。


 「お互い好きな事に本気で議論できる相手がいることを『仲がいい』っていうんだよ」


 俺の無然とした面持ちに、不敵に笑う部長。


 「誰かに取られても知らないぞ」


 俺は何も言わずに踵を返す。

 これ以上は付き合いきれないぜ!!


 

 ずんずん先に進む俺の後を追いかけるようについていく灼は、急に駆け戻り、四字熟語の手を取り囁く。


 「あいつの説得はまかせてちょーだい」


 「……心機一転、期待する」


 「うん! じゃあ、また明日ね」



 灼は俺の背中目指して走り出した。その灼の笑顔を見て四字熟語は呟く。


 「相思相愛……。でも当人たちはまるで気づいてない」

 「……ああ、まったくだ」


 部長は大きく頷き同意した。 


 


 


  


  


  

 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ますます面白いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ