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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
105/109

第百四話:そこにある答え

いつも拙作を読んで頂き、大変うれしく思います。


相変わらず不定期更新で申し訳ございません。それでも何とか進めていく所存です。








            ※※ 104 ※※


 


 「ふん。何の事かしら?」


 言いながら、流し()えた髪の(あわ)が足元に()まってゆくのを見つつ、おもむろに両手で(たば)ねて、セミロングの余分な湯水を(しぼ)る。

 やがて(いど)むように、灼は(りん)とした大きな栗色の瞳を(すが)めて、妙に落ち着いた山科(やましな)会長の視線に応対した。

 が、すぐに山科(やましな)会長は視線を外し、

 

 「……まあ、いいわ。()ずあなたには謝ろうと思ってたのよ。わざわざ測量組から考古研修組に()わってくれたことを」

 「それは平良がしたことで、あたしじゃないわ。謝礼を言うならお(かど)違いよ」


 灼は眉根(まゆね)強張(こわば)らせ、言葉で容赦(ようしゃ)なく、ぴしゃりと(たた)いた。その勝ち(ほこ)っている姿ですら、山科(やましな)会長は平然と受け入れている。


 「そうね……その通りだわ。でも、()()が原因で双月さん、あなたが不機嫌になったというのなら、やっぱり私は謝るべきね」


 謝罪の態度と真摯(しんし)な言葉の裏にある本当の意味。

瞬時(しゅんじ)にそれを(あわ)れみと(さと)った時、灼の心中が怒りでいっぱいになった。

 鋭い瞳で彼女の顔を見る。

 しかし、そこにあったのは同情や感傷ではなく、間違いを(おか)した者を叱咤(しった)する(かな)しみと(つら)さだった。

 

 (山科(やましな)会長はやはり察してた)


 受けた衝撃(しょうげき)に、視線を()らして思わず(うな)るような声を()らす。


 「不機嫌? あ……あ、あんたに、あたしの何が分かるのよッ」


 反抗することで、動揺(どうよう)を無理矢理に(かく)そうとした。自分は今、追い込まれていて、次に向けられる言葉が痛撃(つうげき)の一言になることを自覚ながら。

 対する山科(やましな)会長は再び灼を見据(みす)えて、静かに、平静に言葉を()ぐ。


 「分かるわ。()()()()()()()()()()()()()()のでしょ?」


 (山科(やましな)会長はやはり知ってた)


 「そ――」


 否定の言葉で返そうとしたが、声を()まらせて咄嗟(とっさ)に出ない。山科(やましな)会長は気付いている。そして灼も気付かされた。

 灼にとって平良は一体どんな存在なのかを。

 山科(やましな)会長は厳しさの表れとして構わずに言う。


 「勢いとは言え、暴言を()いた自分が許せない――(ちが)うと言えるのかしら?」


 灼は(わず)かに顔を伏せて(だま)ったまま。

 

 「だからこそ――」


 声だけは(おだ)やかに、(かな)しみを全く純粋でない笑顔に変えて山科(やましな)会長は、


 「だからこそ、誰かに背中を押してもらえないと前に進めなくなってる情けない自分に気付かされたわ」


 さらに続ける。


 「今度は誰にも(あま)えず、自分から進んで、自分の力で本当の想いを()に伝えるわ」


 灼は()せていた顔を上げる。

 正面にある笑顔と向き合う。

 そこには恐怖でもなく、感嘆でもない、(なご)やかな、厳しい覚悟を決めた少女の笑顔。

 灼が長年、あえて明言しなかった想いへの答えを正面から見せつけ、先にある甘く(つら)く、しかし()けては通れない道を(しめ)した笑顔。

 その笑顔が、心に痛い。その(まぶ)しさから目を(そむ)けたくなった。


 「……なんで、そんなに簡単に言えるの?」


 山科(やましな)会長は、瑠璃(るり)色の瞳を(ほそ)め、少し困った顔で言う。


 「簡単じゃないわ。今日まで二年も()かったのだから。でも決めてしまえば簡単。だから、双月さんもさっさと決めてしまいなさい」


 この()(およ)んでも()え切らない灼の手を取り、


 「――『ずっと好きでした』って言うより『ごめんなさい』って谷君に謝るほうが、とても簡単だと思うわ。

 (ちな)みに私の勝率はかなり低いことも自覚してる。()られたら(なぐさ)めてくれるのかしら?」

 「ふ、ふんッ! もしも()られたら、あたしがあんたの為にイタリアンのフルコース料理を作ってあげるわ」


 悪戯(いたずら)っぽく笑う山科(やましな)会長に対し、負け()しみの(ののし)りを放つ。思いを(めぐ)らせながら、


 「山科(やましな)センパイ……ありがとう」


 灼は小声で(つぶ)いた。






 女子たちが温泉を楽しんでいる頃。

 

 俺を(ふく)めた高校生男子は、体育の授業であれば恐らく熱意も闘志も()くべくもない、しかし温泉地なればこそ熱血漢となれる球技――卓球を興じている最中だった。


 「部長。この勝負、俺が終わらせてやるぜ」


 浴衣(ゆかた)がはだけた俺は、肩だけで息をしながら腰を()えた。


 「いいだろう。だが、お前に勝利はないッ」


 右手のラケットを下段に構え、ピンポン玉を(てのひら)()えたその先に俺を見る。蒼白(あおじろ)く光る双眸(そうぼう)が見開き、渾身(こんしん)の思いを込めて振り抜いた。

 その裂帛(れっぱく)な気合に反して、ピンポン玉は俊敏さと規格外な軌道(きどう)を見せることなく、単純な放物線を(えが)いて俺のコートに(せま)る。


 「くぅッ!」


 自陣のコートに着地したと同時に、俺はラケットに全力を込めて振り抜いた。しかし極度に速度が遅いピンポン玉は、ラケットを越えて、俺の背後で(むな)しく床を数度ほど跳ねた。


 「ま、負けた……」


 俺の項垂(うなだ)れる姿に、


 「これが『実力』というものだ。うはははッ」


 部長は王者の顔で勝者の笑みを浮かべた。辛酸(しんさん)()める結果に終わり、敗者の境地を受け入れざるを得ない俺はがくりと膝を折る。


 「平良ァ……」


 情けない顔で振り向けば、俺以上に憐憫(れんびん)な表情を作っている灼が立っていた。


 「なんて、レベルの低い試合なのかしら」


 見かねた新庄(しんじょう)めぐみが、眉間(みけん)を指で(おさ)えながら、ひらひらと手で追い払うような仕草を見せ、箱からラケットを持ち上げる。テニス部らしく『ペンホルダー』だ。


 「わーいッ。あたしもやりたいッス! ダブルスするッス!」


 諸手(もろて)()げてコートへ寄って行った尾崎も、箱から『シェイクハンド』のラケットを取り出した。後から結衣さんと有元花散里(かざり)も続く。俺と部長は苦笑いを浮かべて肩を(すく)めた。


 「まあ、俺たち男子は汗を流しに温泉にでも行くか」


 審判をしていた飯塚先輩が、キリが良いとばかりに提案する。部長は首肯し、俺に促したところで急に顎を(しゃく)った。その先にある俺の背後にいつの間にか灼が立っていた。


 「俺たちは先に行ってるぞ」


 着替え袋を提げて別館へ向かう二人に、了解の意思を込めて手を挙げ、その手を軽く灼の頭に乗せる。結われていないストレートロングの髪を優しく()でた。


 「どうした?」


 灼は、はにかみながら弱い笑みを見せて、みるみる内にその顔が紅潮してゆく。


 「……え、と……」


 視線を泳がしていたが、すぐに意を決して俺を見据えた。


 「……今日のこと、ごめんなさい。あんたが山科センパイのために気を利かせてたの分かってて、(ひど)いことを言ったわ。反省してる」

 「(ひど)いこと?」


 言葉の意味が分からず、俺は首を(かし)げた。その態度に少し苛立(いらだ)ちを感じたが、声には乗せずに続ける。


 「あたし、あんたに言ったじゃん。『この旅行の間、あんたとは違うグループで研修するべきだわ』って。意味のない嫉妬(しっと)なんかして、だから謝ったの」


 (平良が(そば)にいない……それはやだ。でも、あたしのせいで平良がいなくなるのはもっとやだ)


 長年、(かたわ)らにいることが当然と思っていた平良が他の女子の為に自分から離れてしまう。その恐怖から逃げるために虚勢(きょせい)を張った自分に嫌気がした。

 本当は平良に謝る形で、みっともなくて恥ずかしい自分を猛省(もうせい)したいだけなのかもしれない。


 (それでも……)


 大きな栗色の瞳をまん丸に広げ、必死に気持ちを言葉に変えようと頑張(がんば)る灼の頭を、俺は激しく()でた。


 「い、痛ァ! なにするのよッ」


 顔を(しか)める灼に、俺は申し訳なく笑い、


 「お前も俺の事を色々と気にしてくれてたんだな。有元にも『もっと自覚しろ』って注意されたし……気が付かなくてゴメン」

 

 自分でも気が付かないうちに声が()れ出ていた。灼は耳たぶまで真っ赤に()めて、乱暴に俺の手を(はら)いのける。


 

 「そういえば……」


 事実の確認というほどではないが、俺はふと冷静な物言いで問う。


 「さっき、お前が言った『意味のない嫉妬』って何だ?」


 言って瞬間、灼の(ひじ)が見事に俺の脇腹にめり込んだ。

 

●尾崎のうんちく


 はれェ~? 今回『歴』があるって言ってたけど、なかったッスね。。。。。


 最近『めろ』の恋バナ続きで、カレシ無しのあたしには荷が重いッス。

でも、タンデムは憧れるッスよ、もちろんあたしがドライバーでカレシはうしろ。日本の最北端から最南端までバイクで走りたいッスね。。。。


 次回こそ『歴』だそうです。お楽しみに。。。。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] これで少し進展はするかな [気になる点] なぜにテニス部だとペン? シェイクのほうがテニスっぽい [一言]  歴はは何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す
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