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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第二章:学校動乱編
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第百一話:想い想われて

 皆様、大変ご無沙汰しております。


 久しく更新してなく放置された状態で、誠に申し訳なく思います。重ねてお詫び申し上げます。

 少しだけ言い訳をさせて頂くなら、完全にリアルの私事で、昨年の三月ごろから生活環境ががらりと変わり、中々時間が取れなくなっていました。今年からは何とか執筆時間が取れそうですので、今後ともお見捨てなくお付き合いくだされば幸甚です。

 これからも『歴めろ。』ともども宜しくお願い申し上げます。




          ※※ 101 ※※




 箱根の山々を主峰とする山道を()け、国道1号線を三島方面に向かって下ってゆく。やがて全体的になだらかな丘陵(きゅうりょう)が見えた。山中城址(やまなかじょうし)公園である。箱根峠で小休止はしたものの、この旅行で最初の目的地だ。

 俺たちを乗せたバスは国道1号線から左折して更に下り坂を進む。その途中に『山中城跡』と書かれた看板が目に入った。


 「着いたわね」


 喜ぶ灼に、俺は笑みのまま答える。


 「ああ。意外とすぐだったな」


 バスは駐車場へと辿(たど)り着いた。




 

 『山中城跡』の全景は箱根山の西麓(せいろく)を切り開いた土塁(どるい)(ほり)で構成される典型的な山城である。

 そこは旧箱根街道を(はさ)むように、岱崎(だいさき)出丸と呼ばれる別名・岱崎(だいさき)城と、本丸を含め重要な拠点を()める山中城があり、後北条氏にとって甲斐の武田氏、駿河の今川氏との国境であることから関所としての機能も有していた。

 昭和48年から行った発掘調査と復元整備の(のち)、昭和56年の一般開放以来、多くの人の(いこ)いの場として、また平成18年に『日本百名城』に選ばれたことから全国の城館(じょうかん)愛好家に親しまれているのだ。

 そんな綺麗(きれい)に整備された公園の駐車場に、俺と灼は降り立った。灼は道の向こう側にある案内所兼売店と(ゆる)裾野(すその)(わき)にある歩道を見回し、


 「へえ、けっこう景色がいいじゃん。気に入ったわ」

 「そうだな。今日は天気も良いし、西櫓(にしやぐら)まで登ったら案外富士山が見えるかもな」


 灼の言葉を受けて、俺は看板と(のぼり)、そして清潔に清掃されているゴミ箱しか置かれていないスッキリした場所を好ましく思いながら言った。


 「ん――! いいッスね、富士山ッ」


 続いて降り立った尾崎は、気分が変わっていい感じで大きな()びを見せた。その後ろ、降り立って四字熟語が見るともなしに周囲を見渡し、大きな伸びをしたスレンダーな少女に声をかける。


 「風光明媚(ふうこうめいび)。駿河湾まで見えるかも」

 「それは()()()()ッスねッ! 楽しみッス」


 特別、どういうことでもない話で盛り上がる中、嬉しくて楽しくて仕方ないという感情がそのまま歩を弾ませ、軽やかに結衣さんが降り立つ。


 「せやッ! 絶景を利用してウチは愛を深めるんやッ」

 

 張り切って叫ぶ、ザンネン系超絶美少女に続いて降りてくる飯塚先輩は味も素っ気なく、


 「――と、その前に、()()()()を歩測調査してからだな」


 そして、不機嫌なわけでも意地悪でもなく、


 「もちろん、歩測調査の実習が長引けば、()()()()はないかもね」


 山科会長が納得の笑みで返した。結衣さんは(ふく)れっ面でそっぽを向き、最後に降りて来た部長は笑って溜息(ためいき)を一つ()く。(かたわ)らにいた茂木センセは困った笑みを()らし、


 「まあ、実習は岱崎出丸(だいさきでまる)の頂上から()りながら実施するし、その後で山中城址(やまなかじょうし)()()()()()()()()()はあるさ。まあ、とにかく――各々(おのおの)で荷物を持って、すりばち曲輪(くるわ)まで頑張(がんば)って登るぞォ」


 今度は少し、子供を行楽に連れて来たお父さんのように、楽しく(はず)んだ声で気勢(きせい)を上げた。 

 

 


 俺たち一行は駐車場から旧東海道に当たる石敷(いしじ)きの山道を渡り、簡単な木材で(しつ)えた(ゆる)やかな階段を()()()(のぼ)る。

 途中の案内図を横目に(なが)めつつ(のぼ)り切ると、基本的に山上公園である岱崎出丸(だいさきでまる)には大きな緑地エリアが広がっていた。

 荷物の大小あるいは重さによって男子組と女子組に分かれ、緩やかなスロープを描く広大な緑地エリアを女子組が茂木センセと楽しく談笑しながら先行して歩く。

 俺はさり気なく山科会長が茂木センセの(となり)にいることに気が付いた。

 しかし、ただ(そば)にいるだけで話題に参加しているようには見えない。

 俺と一緒に三脚(さんきゃく)の入った長箱を持って登山する市川さんが微妙(びみょう)な違和感に気付き、黒縁メガネのブリッジに中指を()えた。


 「そういえば、谷君が山科(やましな)から生徒会長の信任されたんだって? せっかく南総(なんそう)研修の時、『あいつには近づくな』って助言してやったのに……って、まあ今だから言うけど、山科(やましな)を信任したのは俺だけどな」

 「並木さんにも、あの時『山科会長に目を付けられて御愁傷(ごしゅうしょう)様』的な事を言われましたよ。確かにファーストアプローチは最悪でしたし、嫌悪も(いだ)きました。

 結局なし(くず)しですが、生徒会に入って役員同士の確執(かくしつ)や暗部を知って、無理矢理に手伝わされましたけど、孤軍奮闘(こぐんふんとう)してる会長を見て『まあ、いいか』って気持ちになりましたよ」


 俺の全く好意が感じられない諦念(ていねん)に似た言葉に、市川さんは口元に薄い笑みを浮かべて()み渡る箱根の山々に視線を送り、


 「……そっか。じゃあ、谷君は()()知ってしまったんだな」


 (つぶや)くように嘆息して、再び俺を見た。


 「山科(やましな)は人の感情を忖度(そんたく)しない。いや、多分苦手なのだろう。それは俺も分かってたさ。高橋や藤川と対立することもな。

 当時、高橋を信任しようと声も大きかったが、あいつが有力運動部と癒着(ゆちゃく)してたのは俺も感づいてた。更に山科(やましな)を追い出そうとしてたこともな。

 高橋は、やがて山科(やましな)が茂木センセに恋慕(れんぼ)してることに気付き、(うわさ)を流したんだ」

 「……」


 不快な表情を浮かべて押し(だま)る俺から視線を(はず)した市川さんは、先を歩く山科会長に向けて寂しく鼻で笑う。


 「ふっ……。とにかく教師と生徒との恋愛感情が噂が立ったという事実に学校側が杞憂(きゆう)した。茂木センセは大事にならない前に非常勤講師を()めて大学に戻った。だが山科(やましな)にとってあながち『出鱈目(でたらめ)』ではなかったんだなァ……」


 俺も視線を前に移す。茂木先生の(となり)を歩いて、どこか寂し()な山科会長の背中が視界に入った。沸々(ふつふつ)と怒りが込み上げる。


 「高橋の野郎ッ……」


 無知な富樫(とがし)を巻き込んだ()り口といい、茂木センセを追放した汚い手口(てぐち)といい、憤怒(ふんぬ)(ののし)りとなって()き出した。

 眉根(まゆね)()せた市川さんは、俺をちらりと横目で見て、すぐに向き(なお)る。


 「山科(やましな)は他人の感情も忖度(そんたく)できないが、自分の感情にも鈍感(どんかん)だ。ぎこちない行動と表現できない気持ちは見ててもどかしいよ。誰よりも愛してるのに、周囲の人間は気付いてるのに、愛されてる本人だけが全く気付いてない」

 

 言葉を()まらせる俺を、市川さんはそのまま声を出して明るく笑う。


 「ははは。山科はなかなか難しい性格をしてるが、気に入った人物を見つけたら執着心が強い。だから谷君と双月さんの話を聞いた時は、ややこしい事に巻き込まれるかもしれないと思って忠告したんだがな。

 まさか生徒会――『部室整理令』にまで君が首を突っ込むとは考えなかったよ。しかし――」


 ひとしきり笑った市川さんが、


 「まあ、せっかくの旅だし……。()()とうまくいけば良いけどな」


 俺の耳に届かない様に、空を見上げ破顔(はがん)した。





 ごく短いハイキングコースを(のぼ)った先、芝生(しばふ)の丘になっている馬場曲輪(くるわ)()けると(かたわ)らに立つ木の奥に緑地エリアが見える。中心部がすり鉢のように低く、周囲が高く見えるように作られた場所が目的地である『すり鉢曲輪(くるわ)』だ。

 日差しは(やわ)らかく、山の中腹にあたるこの公園に冷たい風が吹き降ろしているものの、辺りを見ると親子連れや恋人同士が(いこ)いの場として過ごしていた。

 木陰に荷物を下ろし、全員が(そろ)ったところで、


 「これから、実習するが――」


 茂木センセは声の調子を落とし、教育者としての声を響かせる。その響きに俺は総身が引き()まる思いを感じた。隣にいる灼も真摯(しんし)な表情を見せる。


 「今回の研修のテーマは『発掘』と『調査』だ。みんなには、その場所で生きてた人間が何を目的として生産し、(ある)いは社会生活を構築(こうちく)してきたのかを考えてもらいたい。

 ()ず、それを知るための『発掘』は、しっかりとした『調査』にあるということだ」


 と、今度は声に笑いの声を乗せて、


 「まあ、掘っても金銀財宝が出るわけでもなく……、当時のゴミを(あさ)って貝殻(かいがら)胡桃(くるみ)などの食べかす、トイレの土中に(ふく)まれる糞石(ふんせき)や寄生虫の卵、または植物花粉を調べるのも『考古学』の一分野だが。

 ようするに、その時代に生きた人間の行為を感じてもらえれば嬉しいかな」


 (ゆる)んだ顔をそのまま並木(なみき)さんに向けた。向けられた本人は嘆息(たんそく)をついでのように、言葉を()ぐ。


 「これから考古研修する『発掘』チームと、実測調査する『調査』チームに一旦(いったん)分けるけど、事前に決めてた班分けで――」

 「急ですいません。俺、山科(やましな)会長と(かわ)わって実測の方に移りたいんですが、いいですか?」


 遠慮がちに手を()げる俺を、灼はほとんど(にら)み返し、


 「あんた、突然どうしたのよッ! 考古研修を一緒にって前から決めてたじゃない」


 断固(だんこ)とした言葉で俺の意思を確かめる。俺はその刺々(とげとげ)しさに(わず)かに(ひる)みながら、弱々しく答えた。


 「いや……そうなんだが、大学生の先輩方を見てると、これから大学生になる()()()()たちの事を考えてさ。部長と四字熟語(よじじゅくご)神道(しんとう)関係の学部で、結衣(ゆい)さんは観光まちづくりの学部だろ? 歴史学が必要なので『発掘』チームは当然として、山科(やましな)会長は文学部で史学科だ。

 『調査』チームで実測調査より、『発掘』チームで茂木センセの研修を受けた方がいいと思ったんだ」


 飯塚(いいづか)さんが思い出したかのように山科(やましな)会長を見て、俺に振り返る。


 「確かに。俺は法学部だからどっちでも良いけど、山科(やましな)は谷の言う通りだな」


 ようやく山科(やましな)会長自身も俺の言う意味を理解し、こくんと軽く(うなず)く。逆に灼はどこか()ねたような鼻息でそっぽを向いた。そういう理屈や配慮が説得力を持っていることは重々(じゅうじゅう)承知の上なのだが、それ以外のところで胸の奥に(いだ)く感情、


 (やだな)


 そう思わざるを得なかった。せめてもの抵抗と期待を込めて、視線だけで灼は俺を見る。


 「すまんな、灼」


 結局、感情では理屈の正しさを(くつがえ)せない。灼は渋々(しぶしぶ)、同意するしかなかった。

●灼のうんちく


 本当にお久しぶりです。皆様はお変わりありませんでしたか? 

 しかし、平良の奴、何を考えてるのかしらッ! あたしと一緒にいたくないのかしらねッ。


 平良の事はほっといて、『あたし』だけを応援してくれると嬉しいわ。


 次回も『歴』というよりは『めろ。』よりかな。お楽しみ下さい。。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 灼のことほっとくと暴走して夜這いかけられるぞ [一言] エタッたとおもった ツヅキヨメテナニヨリ
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