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歴めろ。  作者: 武田 信頼
第一章:設楽原編
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第九話:爆ぜろ! 武田鉄騎馬隊




              ※※ 9 ※※




  やや冷たい土の感触を寝袋越しに感じた俺は半身を起こした。


  文化祭当日。


  快晴。朝日の光が眩しい。まさに決戦日和である。


  「お? 朝か?」


  ともに空堀、いや塹壕に寝ていた富樫も起きる。その他十余名も起き始めた。


  当日ギリギリまで塹壕戦を訓練していた我々の士気は高い。仕上がりも上々だ。


  「乾坤一擲けんこんいってき。今日で全てが決まる」


  四字熟語が俺にアルミコップを手渡した。中身はミルクティーだ。


  さすが、よくわかっているじゃん。俺は一口すすり、身体の中からほっこりと暖かさを感じた。


  「刀光剣影とうこうけんえい。皆よく頑張った。今日の決戦は必ず勝つ」


  四字熟語は織田傭兵団全員にコップを渡し、キャンプ用の簡易コンロで沸かしたミルクティーを注いで回った。


  なんだか、俺よりも指揮官っぽい? 今では傭兵団十五名も完全に四字熟語を心酔している。


  ……厳しい訓練、色々あったからなァ。


  俺は寝袋を脱ぎ、高らかにコップを突き上げる。


 「みんなァ!! 今日は絶対勝とうぜッ!!」


 「おうッ!!」


  四字熟語は小さく、傭兵団全員は大きくコップを突き上げた。



  



  俺は一旦、教室へ戻り、制服に着替えて開会式が行われる講堂へと向かう。


  途中の渡り廊下で見慣れたツインテールの後ろ姿を見た。


  「よう、おはよ」


  「……ちょ、あんた今日家にいなかったけど?」


  「ん? ああ、昨日から夜通し、今日の訓練してた」


  「バカじゃんッ!」


  頬を餅のように膨らませ、小さな手で、俺の背中をポカポカと叩く。


  ……なんか腰がほぐれて気持ちいい。


  「そういえば、今お前、俺んち来たって言ってたけど?」


 小さな手が急に止まる。白い頬がたちまち赤くなった。


  「こ、ここ……、んとこ、あんたのお母さんに会ってなかったしィ……、心配かけたら悪いなァと思って……。って、あんたの部屋には入ってないわよ!! あんたのお母さんに聞いたんだからねッ」


  「へいへい……」


  なんだ。俺を心配していたわけではないのか。


  「あ……ああ、たし、もう行くからねェ!!」


  走り出す灼は、ポケットから小さな包みを取り出し、俺に投げる。


  「?」


  「腹が減っては戦も出来ぬでしょ? ちゃんと朝ご飯食べなさいよ」


   優しく睨み去っていく灼を見送り、包みを開けると、小さなおにぎりがふたつ入っていた。


  ひとつを頬張る。中身は焼きサバを梅肉で絡めたものだ。相変わらず灼の手作りは独創的で凝っている。


  「美味い……」


 灼の思いを噛みしめた。




 ついに来た。

 

 設楽原に両軍が陣を張る。


 『大』の文字が見える大きな旗はきっと灼だろう。やっぱり凝り性だ。


 轟音を無秩序に響かせながら鉄騎馬が丘の上に居並ぶ。



 その威圧感は凄まじく、思わず俺は生唾を呑む。


 『えー…と、これから歴史研究会による長篠の戦いの再現を行います。協力して頂けるのは女子モトクロス部、ならびに地元の土建会社様です。ほんとに有難うございました』


 部長のアナウンスが戦場に響く。


 『ルールをご説明します。武田の騎馬隊である女子モトクロス部が織田陣営の本陣にあるフラッグを取れば武田の勝ち。逆にそれを阻止し武田を戦闘不能にすれば織田の勝ち。歴史は繰り返されるのではありません。人間が歴史を繰り返すのです。その実験にどうぞお付き合いください』


 部長の演説が終わると、ホラ貝がなる。


 うーん、演出だな。


 しかし、そんな感慨に浸ってはいられない。


 灼が率いる鉄騎馬が轟音を鳴り響かせて丘を降りてきたのだ。


 その重厚な布陣に俺は慄いた。


 

    


  

  

  

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