第0話:独白
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「信長公記にあるように、設楽原の合戦における勝敗は鉄砲だ。敵の攻勢を削ぐには有効だからな」
俺は努めて冷静に言う。
「馬の機動力は伊達じゃないわ! 火縄銃なんかで間に合うわけないじゃん!」
対して、目の前のコイツは闘志むき出しで反論してくる。
ここは、公立東葛山高校、歴史研究部。
ただ今、文化祭の出し物について会議を開いていたのだが……。
「……三段撃ちとか、言われてるけど、そんな効力はない。あんただって知ってるでしょ? 実験考古の結果がどうなったかを」
それは、知っている。
たしか、騎馬軍団が圧倒的な力を見せたよな……。
「こっちだって、文献を考察したうえで言ってるんだ」
俺の反論に容赦なく、コイツは罵倒を浴びせてくる。
「あんた、一体何年、あたしと歴史見てきたの? ずぇーたい、ありえないっ!」
……また始まった。
何かにつけ『ありえない』を連呼する少女。
コイツ……双月灼は、俺こと谷平良と仲が良い幼馴染だった。
親の気まぐれで出かけた博物館の展示物に、いつの間にか魅了されてしまう。
気が付けば、古文書を貪る強烈な文献学マニアの俺と。
遺物・遺産を探求する鮮烈な考古学マニアの灼が出来上がっていた。
結果……。
文献学と考古学が過去の考証に対して、論争を繰り返す毎日に至ってしまったのだ。
正直に言おう……。
俺はもうこんな生活に辟易しているのだ。