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徒然シリーズ

徒然チャットと彼の日々

作者: aー

徒然チャットシリーズ・リアル編!

飲酒のシーンが出てきますので、一応R15指定させていただきます。




 彼女は美人だと思う。一見柔らかな雰囲気と声に騙された相手はどのくらいいるのだろうか。

 優秀で品行方正。誰もが憧れるお嬢さん。きっと幼少はそんなふうに言われていたに違いない巨大な猫かぶりだ。別にそれが悪いとは思わない。俺も相手によって態度を変えることは多々ある。

 しかし、彼女は規格外だった。




 彼女と初めて顔を合わせたのは、出張先だった。

 5人の外国人の相手をしてほしいとのことで、中には英語を話さない者もいるので、日本語・英語・フランス語・中国語が話せる(日常会話のみ)俺に白羽の矢が立った。

 そこは戦国武将で有名な土地だった。どの町に行ってもファンなら誰もが知っている名前が必ず出てくるほどで、実は少々浮かれていた。

 必ず時間を作って観光してやる!

 そう、彼女に出会うまでは決めていたのだ。

 俺の後ろには二人の外国人。一人はドイツ人で、名前は確か、アルベルト・ヴァイデンフェラー。彫の深い顔に短い金髪は地毛だろう。ブルーの瞳と、少し着崩したスーツがどことなく色気を感じて、道すがらすれ違う女性は彼に必ず目を向けていた。ゴツゴツした体系が少し威圧的だが、落ち着いた雰囲気があってそう怖くはない。

もう一人はイギリス人で、名前はギルバート・T・コーネル。ミドルネームのTは何を表すのかはわからないが、まるで絵画に出てくる天使のような綺麗な顔立ちの男だ。背はアルベルト・ヴァイデンフェラーよりも頭一つ分小さいが、俺よりは高いし、なんだかとても良い匂いがする。どうしてこんなに頭が小さいんだ。しかもふわっとした茶髪が時々金色っぽくみえている。濃い緑の瞳も綺麗だ。グレーのスーツの下にはきちんとベストを身につけており、ポケットにはハンカチがのぞいている。さすが英国紳士、お洒落だ。道すがらすれ違う老若男女問わず熱い視線を受けてもなんのその。

自分に自信があり過ぎる彼はどこ吹く風。

羨ましい。一度でいいからそんな視線を受けてみたいものだ。いや、ちょっと怖いけど。

 彼女は、そんな俺たちを見てわずかに笑みを浮かべる。

「ええと、はじめまして」

「はい。初めまして、わたくし、本日案内を務めさせていただきます、筒井青羽と申します」

 ふんわり、おっとりという擬音がつきそうな人だと思った。

「大河内響です。本日はお世話になります」

 それぞれ名刺交換をすると彼女は興味深そうに俺の名刺を見つめ、それからまたそっと笑みを浮かべた。素直に可愛いと思った。

「筒井さん、彼は・・・」

 次に彼女は俺の隣に立っている高身長の男を見上げた。

【こんにちは、久しぶりね。元気?】

【やあ、アオバ。俺は元気だ。君はどうだい? 君は今日も美しいね】

 我が耳を疑ったのは、その男は真面目で女を口説くように見えない堅物のドイツ人に見えていたからだった。

【ありがとう、私は元気よ。ようこそ日本へ。日本語は上達した?】

「アオバの、おかげで」

 ちょっと待て、喋れたのか!?

 というか知り合いか!?

「あなたのためにバナナケーキを焼いたのよ。後で食べましょう」

「アオバは本当にスバラシイ」

 彼女はその言葉に笑顔を浮かべるだけで何も言わない。

俺は次にもう一人を紹介することにした。

「筒井さん、こちらは英国からいらした方で、コーネルさんです」

後ろに控えていた紳士の国の人が彼女にスッと手を差し出した。くそ、良い男は握手するだけでもスマートなのか!

【初めまして、英国から来ました。ギルバート・T・コーネルです。よろしく】

【初めまして、アオバです。アオバ・ツツイ。本日はよろしくお願いします】

 流れるような英語に、彼女の有能さが表れているようでなぜか嬉しい。俺はこんな女性と仕事ができるんだと思うと元気が湧いてくる。俺も負けないようにしないと。

「アオバ、他は?」

「グレンが先に到着しています。応接間へ案内しますね。どうそ、こちらへ」

 グレン? 誰だ? 首をかしげる俺を無視して、彼女の小さくて白い手が少し先の薄暗い廊下を示した。

「すみません、節電であのあたりの電灯は普段つかないんです」

 どこも節電対策は大変だよなと頷いていると、横の二人が驚いたように目を見開く。

【流石日本。良い対策だ。資源は有限ではない】

【ええ、小さなことでも出来ることをするべきですから】

 コーネルが彼女を真剣な瞳で見ている。あ、これは・・・

【あなたを、アオバと名前で呼んでも?】

【はい、どうぞ。あなたのことはなんとお呼びしましょう?】

 おっとりと首をかしげる彼女が何だか無防備に見えてしまう。

【ティムと。ミドルネームなんです。親しい者はそう呼びます】

 いや、初対面だよな、いつ親しくなったんだ?

【わかりました、ティム。ではご案内します】

 しかし彼女はにこりと笑って案内を再開した。

 あれ?

「心配は必要ない。アオバは、愚かな女ではない」

 小声で俺にささやいたのは、ドイツ人の彼だった。

「でも彼、とても見た目が良いですし・・・女性なら誰だって舞い上がりそうなものなのに」

 流暢な英語は話し慣れた証拠だ。軽く流すことが出来るということなら、なぜミドルネームを平然と呼ぶのだろうか。なんだかあべこべな気がした。

「アオバは、頭がいい」

 それはどういう意味なのか、俺はしばらく理解できなかった。



 案内された部屋にはスーツ姿の黒人がいた。すらっとしていて多分隣のドイツ人よりも背が高い。

 短い髪にメガネ。切れ長の瞳はわずかに緑がきらめいていて、スーツよりも軍服が似合いそうな雰囲気だ。無駄な脂肪なんてない体がよけいにそう思わせるのかもしれない。

「お待たせしました、グレン」

「やあ、グレン」

 グレンと呼ばれた彼は二人に頷き、俺たちを見た。

「グレン、紹介するわ。彼は英国から来たミスターギルバート・T・コーネル」と彼女が日本語で説明し、コーネルには英語で説明をした。

【ティム、彼はアメリカから来たミスターグレン・W・アルフォードです】

【初めまして、英国から来ました。ギルバート・T・コーネルです。よろしく】

 コーネルがスッと手を差し出した。グレンはその手をじっと見て、すぐに握り返す。

【・・・・・・・あの?】

 が、なぜか固まったように口を開かない。握られたままの手を見下ろすギルバートは落ち着かない様子で時折彼を見上げる。ギルバートよりグレンの方が頭二つ分大きいのだ。

「グレンったら、緊張しているの? ティムが困ってるわよ」

 え?

「がんばれ、グレン」

 グレンが一つ頷いた。

【グレン・W・アルフォード】

 それが名前だと気付くのに時間を要した。

 彼はそのすぐ後手を離したと思ったら、そっと彼女の肩に手を置いて、まるで恋人にするように顔を近づけた。

「え? ああ、彼がそう呼んでっていったのよ。他意はないわ」

 どうやら二人で会話しているらしい。

「・・・グレン、距離が近すぎる。彼女が驚いているだろう」

 この三人はもともと知り合いなのか、ドイツの彼もグレンにさりげなくボディ・タッチをこなしている。

 すると、ふと彼女が携帯端末を取り出した。

「あら大変。また誰か到着したみたいね」

「では、私たちはこちらで待たせて頂きます」

 彼女は柔らかな笑みを浮かべ頷くと、グレンに何事か囁いた。グレンが俺をじっと見る。

 え、なに、なんて言ったんだ!?

「では、少々席を外します。皆様こちらでお待ちください」

 彼女はそう言って本当に部屋を出て行ってしまった。

 応接室は広くもなく、狭くもない普通の部屋だ。イスとテーブルがあって、壁には綺麗な雪化粧の写真が二枚。北に大きな窓があって、南の天井付近には黒い壁掛け時計が収まっている。出入り口がある東には壁に電話が引っ付いており、そのすぐ下に電気のスイッチがあった。

「えっと・・・」

 彼は俺をじっと見ている。

【は、はじめまして大河内響です。本日はよろしくお願いします】

 彼は頷いた。それだけだった。


 数秒後、悲鳴のようなものが聞こえ慌てて部屋を飛び出した。別に彼との間の沈黙が痛かったから逃げたかったわけではない。断じて違う。

 悲鳴は恐怖からくるものではなく、むしろアイドルを前にした女のような悲鳴だった。疑問に思いながらも走る俺に、なぜか三人もついてきた。

【やあアオバ、相変わらず美しい君にときめいてしまうよ】

「・・・・・こんにちは、シリル。お洋服が汚れますよ?」

 え。なに、あれ?

 俺とコーネルはぽかんと口を開けて固まり、グレンともう一人の彼が全速力で駆け出した。その先には彼女と、その前に跪く一人の外国人が居た。

 二人は全力で相手に飛び蹴りをしたが、相手はさらりとそれを交わしてしまった。

 あいつすげーな!

【なんだい、全く! 彼女との逢瀬を邪魔しないでくれよ。久々なんだよ!】

「黙れ! コウシュウのメンゼンでなにをしている!」

「・・・・・」

 二人に睨まれても男はにやりと笑うばかりだ。

「あの、大丈夫ですか? 大きな声が聞こえて」

「・・・ええ、大丈夫です。なんでもありませんよ」

 いや、今男に跪かれて右手にキスされていたのに、どこが何でもないって?

【シリル、ちょっとどいて】

【ああ、すまない】

 更に、男の後ろから小柄な青年が現れた。小柄と言っても175センチ以上はあるだろうに、あのメンバーの中では小さく見えてしまう。もちろん彼女とは10センチ以上も背が高いのだが・・・いかん、この状況が全く理解できない!

【久しぶり、blue元気だったかい? ここは少し暗いね。でも君は相変わらずキラキラしていて綺麗だ】

【ありがとう、ジャン。元気です。また会えて嬉しい】

 驚いた! 彼女はイタリア語もわかるのか!?

「ジャン、ところで彼等を止めてくれないかしら?」

 あれ、日本語に戻った。

【嫌だね、冗談じゃない】

【いじわるな人ね】

 もう、しょうがないなぁと言いながら頬をふくらます彼女はどこか可愛くて、男達は動きを止めた。

「さあ皆さん、一度会議室にお集まりください」

 男達を確認した彼女は新たに来た二人にネームプレートを手渡し颯爽と歩き出した。

「ジャン、ドアを開けて頂戴」

【やれやれ、困ったお嬢さんだ】

 イタリア人は文句を言いながらもどこか楽しそうに笑っていた。

 それが、俺達の出逢いだった。



今俺達は居酒屋に来ている。外国人メンバーが居酒屋に行きたいと言ったので仕事帰りに歓迎会も兼ねているのだ。ちなみに資金は豊富にある。本来ならどこかのホテルで優雅なディナーを楽しむはずだったので、居酒屋で良いのかと驚いたくらいだ。しかも彼等のホテルは安いビジネスホテルで、本当にここで良いのかと再三確認した。ちょっと不思議そうな顔をされた。

目の前に座った彼女に酒を片手に問うた。

「筒井さんは前回の試験を受けられたんですよね?」

「・・・え? ああ、いえ、実は受けたことがないんです」

 試験というのは大学図書館員が受ける、IAALという機関が行っている実務能力認定試験のことで、年に二度、春と秋に行われる。そう難しい試験ではないが、実務に関わらなければわからないことが多いのも事実だ。俺は基本的に実務にそう深くかかわる立場ではないので試験勉強にはたくさんの仲間に協力してもらった記憶がある。

「どうしてですか? あなたなら確実に・・・」

「私はもともと公共図書館出身なんです。大学図書館に来たのは今年でまだ三年目で、ぎりぎりやれている感じなんですよ。そうですね、次の秋の試験は受けても良いかもしれません。でも秋は色々と忙しいですから」

 信じられなかった。

 的確な表現で綴られるこの人のレポートは、誰よりも辛辣かつ熱烈に、そして悲しいほどに正確に図書館の未来をうたう。まるで何十年も業務に関わって来たかのように詳しく、そして憂いと喜びに満ち溢れている。

 そうか、忙しいからか。この人はきっと頑張りすぎているんだろう。

「お忙しいのはわかります。でも、これも一つの称号というか、あなたを表すために必要なんだと思います。あなたはとても優秀です。努力と実力を持っている。あなたにはもっと、多くの人に実力を認めさせるべきです!」

 い、いかん。ちょっと熱くなりすぎた。全員が一斉に俺を見ている。冷静を装うために箸を動かす。ちょっと恥ずかしい。

「たたみ、やはり良いな。我が家にも欲しい」

「奇遇だね、俺も思うよ」

 隣に座るドイツ人とイタリア人が日本語で畳を褒めている。

【IZAKAYAという場所には興味がありました。あなたは良く来られるのですか?】

【ええ、この国には色々なIZAKAYAがあって、それぞれ趣向を凝らしていて面白いんですよ。あと、日本のカフェもたくさんの種類があって面白いです。そうそう、季節によって限定のお茶もあるんです。桜やチョコレートなど、ぜひご賞味ください】

 彼女は男達に囲まれても物おじせず、ビールを飲みながらも丁寧に言葉を返していく。

【それは楽しみです! ぜひ、今度二人で楽しみましょう。おっと、残念だ。うちの図書館長から連絡です。少し席を・・・】

 イギリス紳士が言う。

【あの、よければホテルまでタクシーを呼びますが】

 さりげなく女を誘いつつも時間を気にしているような彼に、彼女は笑みを浮かべてやんわりと言う。

 なんだこの人、すごいお嬢様育ちか。俺だけ場違いな気がして心苦しくなってくる。

【本当ですか? それは助かります。毎日レポートを送らなければならないんです。この国にいる間は、学べることは全て学びたいんです】

 感心する姿勢だ。なんて真面目な紳士だろう。いや、紳士だからか。ちょっと軽い気もするが、根は凄く真面目なのだろう。

「外でタクシー呼びます」

 俺は思わず二人に言って外に出た。すぐにタクシーを用意する。紳士が残念そうに彼女を見つめ、そして別れの挨拶をすると帰って行った。

 ところで他のメンバーは良いのかと顔を向ければ、酒に弱いのか黒人の彼はコップを持ったままうとうとしている。

「だ、大丈夫ですか?」

 俺が慌てて駆け寄ると、彼女が呆れた様に言う。

「あら、彼に呑ませたの?」

「おいしいミルクだと言ったら素直に飲んだよ、相変わらず冗談の通じない奴だ」

「そこが彼のいいところだがな」

「何回目? いい加減学習するればいいのに」

 え? フランスの彼はニヤニヤしながら、ドイツの彼は困ったように笑い、イタリアの彼は興味なさそうに。

 え、なに、こいつら日本語ペラペラ?

「日本語の上達率が半端ないわね。凄いわ」

「毎日君と話していたからね。君だって発音完璧じゃないか」

 フランスの彼が彼女の手を取ってそっと撫でる。なんだ、どういう関係なんだ!?

「ジャン、日本酒頼んで。辛口の冷ね」

「ああ、俺も頂こう」

「俺も貰う」

「ちょ、三人とも・・・もー。でも俺はレイシュの方が好きなんだけどー」

 俺、酔っ払ったのか? さっきまで時々母国語で話してなかったか? 今は完全に日本語しか聞こえないんだけど・・・

「ひ、冷と冷酒の違いは何ですか」

 思わず聞けば、呆れた様にイタリアの彼に睨まれた。え、なに?

「あんた、そんなことも知らないの? 日本人のくせに」

 この人こんな人だった!?

「冷は常温保存。冷酒は冷蔵庫などの冷たい場所で保管された酒の事だ。日本人の給仕係りでも知らない人はいるんだから、そういう言い方はよせ」

 ドイツの彼がかばってくれた。

「大河内さんは普段ビールばっかりですか?」

「あ、俺はあまり苦いのが好きでなくて・・・チューハイとかが・・・」

「俺もチューハイ好きだよ。でも日本人なんだからこのくらいは知っといて」

 イタリアの彼に怒られました。なんだこの状況!

「す、すみません」

 彼は俺の事なんて見向きもしないで給仕に酒を人数分頼む。完璧な日本語と甘いマスクに給仕の女の子はメロメロだ。あれ、メロメロって死語か?

「シリル、そっちのキュウリの漬物頂戴」

「しょうがないな、honey」

 は、はにぃ!?

「・・・・darlingこっちのザワークラウトもいけるぞ」

 ザワークラウトってたしか・・・キャベツの漬物のことか? 日本とドイツでは味付け違うだろうに、いや、そういう風に言葉を覚えているのかもしれない。しかしだーりんはないだろう、だーりん!?

「アル。どうせなら本場のが食べたい」

「いつでも大歓迎だ」

 ど、ど!?

「あの、つかぬ事を伺いますが!」

 その時ようやく俺の存在に気付いた面々は、あれこいついたの? みたいな顔をしていた。いたよ!

「皆さんはどういうお知り合いですか!?」

「チャット仲間」

 眠っている一人を除いて、全員が声を揃えた。



 頭が痛い。

 別に飲み過ぎたわけではない。淑女だかお嬢様だかと思っていた彼女が実は女王様だったことに驚いたわけでも、日本語ペラペラのくせに仕事中はわざと母国語を使って喧嘩しているメンバーに疲れたわけでも、現実逃避にいそしみたいわけでもない。

 ただ純粋に疲れただけだ。

 思えば初対面から彼等の様子はおかしかったのだ。

 いくら女性大好きフランス人だからといえ、初対面の女に跪くわけがないし。

 いくら真面目なドイツ人だからってそんな様子を見て飛び蹴りするはずないし。

 全然喋らないアメリカ人も飛び蹴りしてたし。

 イタリア人は嫌味を言いつつ彼女の言いなりだし!

 そうだよ、おかしいよ。なにこの状況!?

 彼女はいったい何者なんだ!?

 頭が痛い。

 というかお嬢様どこ行った。

 今は3件目の居酒屋だ。時刻は午前2時2分。

 彼等はとうとう日本語をやめて母国語で何やら言い合っている。時々笑ったかと思えば喧嘩を始め、しかしまた笑いあう。なんだこれ、意味が分からない。どうしてドイツ人は踊ってるんだ!? イタリア人も笑顔で歌うな!

 彼女はアメリカ人の彼の隣で静かに目をつむっているし、え、何これ俺が監督者的な?

 無理無理、もう無理!

「おい」

「え?」

「もう飲まないのか?」

 いつのまにか、踊っていたはずのドイツの彼が、俺に新しいビールを渡してきた。

 地獄はまだ終わらない。




 翌日。酷い二日酔いに悩まされた俺は、二日後彼女たちと再会した。それぞれ休暇を楽しんだらしく、とても楽しそうな様子の写真を自慢げに見せられた。

 なんで日本に来てわざわざディズニーランドで遊んでいるんだよ・・・

「あの、皆さんはもともとどこでお知り合いに?」

「・・・チャットですよ?」

「いえ、そんな都合よく図書館員ばかり集まるチャットがあると思えないんですけど。かなりグローバルですよね!?」

「・・・・・大河内さん。今夜一杯どうです?」

「行きませんよ」

「遠慮しなくても、仲良くしてあげてください。彼らちょっと変わっているから母国でも友だち少ないんですよ」

 そんな情報聞きたくなかった。

「あなたは、その、彼らとどういう関係なんですか? 彼らはまるであなたにつき従っているように見えますが」

「日本以外の国の男は結構紳士ですよ?」

 そりゃあ、まあ、先進国の殆どが女性を大切にするように教育を受ける。例外もあるけど、それは理解できなくはない。

でも。

「でも、イタリアの彼はドアを開けたりオーダーを取ってくれたり」

「彼、実はドMなんです。命令されるのが好きなんですよ。悪態をつくのも本当は構ってほしいからです」

 ・・・そういう情報は欲しくなかったです。

「ドイツの彼はあなたを、だー・・・りん・・・と」

 言えない。恥ずかしくて言えない!

「ああ、あれはシリルに反抗したんでしょう。彼は女性より男性が好きなので間違いなく冗談ですよ。むしろ女性は嫌いというか・・・恐怖症?」

 いや、それこそ冗談だろう!

「あなたにはとても近い距離にいるじゃないですか」

「同志だからですよ」

 は?

「なんのですか」

「さあ? 大量のバナナを使ったパフェを食べる彼の話を聞いていたら知らない間に同志になっていました」

 意味がわからない!

「あ、アメリカの彼は?!」

 彼女はふと黙り込んだ。しばらく考えて、それから困ったように笑った。

「いや、なんか面倒くさくて放置していたら懐かれた・・・みたいな?」

 どんな関係だよ本当に!

「じゃあ、フランスの彼は?」

「彼のお喋りは始まったら新幹線並みのスピードで続くんです。それはもうフランス人ですら聞き取れなくて友だちはかなり少ないです。あと政治よりも図書館のことに熱を持っているようで本当にうざ・・・いえ、感心するくらい語ってくれます」

 今うざいって言った。絶対言った!

「どうして彼らと友だちなんですか?」

「面白いからです」

 今までで一番まぶしい笑顔を頂いても困りますが・・・

「じゃあ、俺は?」

 これならまともな答えが返ってくると思ったのに、彼女はしばらく固まった。あ、しまった、いきなり距離の近い質問をしてしまったか。

「・・・良い友人になれたらと思っていますよ」

 しかし彼女は次の瞬間、とても穏やかな顔でそう言った。優しい人なんだろう。

「ありがとう・・・ございます」

 自分で聞いておきながら照れるとか・・・いやもう、本当に恥ずかしい。

 


 それが、俺たちの出逢いだった。


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