5の続き
恋人の腕に捕らわれて、俺は身動きが取れずにいた。
後ろの彼を見ることは出来ない。
見たら、いけない。
なんだかこれ立場が逆であったなぁ、とかくだらないことを考えて、考えて"会いたかった"だとか言っちゃうのを堪えて
「離してよー」
そうやって演技被って、ちょっと声は掠れ気味だったけど上手く言えたつもりだったのに全く離す気配がなくって。
力が緩んだと思ったら頬に当てられた手に無理矢理後ろを向かされた、瞬間目が合う。キスをする。
あぁ、懐かしい瞳だ。唇だ。
軽く触れて離れた吐息にもどかしさと若干の不安を感じる。
やっぱり怒ってる?
そうやって聞こうと唇を開いたのに、声になることなくその言葉は閉じ込められた。
唇と唇に。
ずるいってば
そのずるささえも懐かしいんだから自分もどうかしてる。
今度の口付けは前みたいに、ううん、前よりも深くて長い、全部溶けちゃうんじゃないかってキスだった。
しばらく会わなかっただけの寂しさも、いま溢れてしまいそうなこの気持ちも、全部、全部。
時間だって溶けたんじゃないかって思ったら煙草の味を残して唇が離れた。
「離さねえよ」
いつの日かの仕返しだろうか、言うのが遅いよ。
もう、なんだかなあって、今更かっこつけようもないじゃないか。
厄介な蜘蛛に捕まった、なんてそれも今更だ。