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ヤクザってほんとしょうに合わない。
ちょっと大きな抗争が起きたらしくて、呼び出されたその現場に行った瞬間に吐き気がした。
殴られた人は壊れた人形のように吹っ飛び、
蹴られた人は折れた木のように地に伏し、
まるで地獄絵図。
敵味方関係なく入り交じって、ただ目の前の敵を殴り倒すことしか考えない。
呼び出されたはいいが無理だ、これは。
どさ、と砂埃をたてて倒れた敵か味方かもわからない、散々弄ばれて使えなくなって捨てられたぬいぐるみみたいな男が虚ろな瞳で俺を見る。
「......ちっ」
言いようもない吐きそうな光景に嫌気がさしてその場から静かに、誰にも言わずに消えた。
大事な恋人は大丈夫だろうか。
なんて考えるだけ無駄だ、そこらの奴らなんかよりも絶対的に彼は強い。
そういえばさっきの男を絞めてたのも彼だったっけ、とちょっと離れた静かな路地裏で壁にもたれかかって考える。
考えてた、そしたら
「やっと見つけた、りす君」
大好きな声がして、そっちをみたらやっぱり大好きな彼がいた。
ほんのり鉄の匂いがするけどまるで無傷みたいで安心してから へらっ、て笑って
「あはっ、見つかっちゃったー。」
そうやって抱きついて、平気を装ってたのに
「やっぱりああいうのは苦手?」
りりりちゃんにはバレバレみたい。
あはは、ちょっとね。って笑うけど脳裏にはさっきの男が浮かぶ。
ボロボロの、身体。
虚ろでがらんどうみたいな、瞳。
噎せ返るような鉄の、匂い。
嫌悪感で眩みそうだったその時に息ができなくなった。
「ん、んぅ...?」
キスされてる、気づくのに時間がかかった。
唇の隙間をこじ開けるように舌が入り込んできて俺の舌と絡まる。
煙草の味に酔いそうになる。
だって、いつもは俺がする側だから。時々こうしてしてくるのはなんというか、ずるい。
口腔を幾度も舐め回ってからやっと唇を離して、それでもまた唇がくっつきそうな距離で彼は
「俺といる時に他の野郎のこと考えるなんて酷いね?李助。」
なんて言うから、謝って文句を言うついでにお返しのキスをした。