草尾 昌が残した記録
小説ではありません。
はじめまして。相沢雄作といいます。
始めにお詫びを申し上げます。
この作品は小説ではありません。
私の友人である「草尾 昌」が失踪時に残して行ったメモ書きとボイスレコーダーの中身を公開したものです。
草尾は今回の企画に出展する為、実際の怪談を探して調査取材を繰り返していたようです。
彼の失踪により小説は完成しないままとなりましたが、今回このような機会があったので、彼の努力を無駄にしない為にも彼の調査の結果を発表したいと思います。
私自身は物書きとは縁の無いもので、文章に拙い部分もある事をご了承下さい。
◇ ◇ ◇ ◇
7月9日のメモ書き。
作品提出日は8月6日まで。
テーマ「学校の怖い話」
21時に高橋と会う。
質問内容。学校の怪談。怪談に詳しい人物。奥さんの事。
ボイスレコーダー
「よう、久しぶり。何の用?
……怪談?お前、まだそんな事やってんのかよ。
俺達もう38だぜ?……ああ、悪かった、悪かった。
学校がテーマねぇ……無いだろ、そんなの。
大体ずっと同じ学校なのに、お前に覚えが無い事を俺が知ってる筈無いだろ。
他にか?
ああ、タッツンは?タッツンってのも久々だな。はは。
あいつ確か(割愛します)高校の近くに住んでたろ。そうそう、加藤。
あいつの家からなら、夜の学校とか見えてたんじゃ……。
え?ああ、そう言うんじゃなく、もっと『学校の怪談』みたいなのか。
トイレの花子さんとか、そう言う?
幽霊の噂とかか……。
悪い、やっぱり知らない。
え?加奈?元気だよ。何で?
ああ、そう言えばお前ら、昔付き合ってたな。
気にすんなよ、俺だって気にしないから」
7月10日のメモ書き。
午前中、失業保険の受給。
明日20時に加藤達也と。
今の住所は(割愛します)
夜に何か見てないか、学校にまつわる怪談を知らないか。
ボイスレコーダー
「……誰?ああ、草尾?何?勧誘とかだったら……学校?何でだよ。
マジで?お前、変わらないなぁ。ちょっと上がれよ。
(数分経過)
……え?いいよ、そんな事。俺も、ちょっと仕事が煮詰まっててさ。
今?(割愛します)社で製品企画部。
そう(割愛します)作ってるところ。
そんな大したもんじゃないよ。上には煩く言われるし、下は生意気言うし。
ん?……そう、あれ仕事の企画書。
残業手当が出るわけでも無いからさ。家でも仕事だ。
怪談か。面白そうだな。
……昔、あの高校で幽霊騒ぎがあったの、覚えてるか?
そうそう数学の前田がコケて骨折ったのが幽霊見たからだとか言われてた奴。
前田本人は否定したけど、あれがマジな話だったらしいって。
……幽霊は何度か話があっただろ。
声を聞いたとか、文化祭の時、白い何か見たとか。
前田が文化祭の前の夜に見回りで、あいつ……そうだ、お前と付き合ってた横井だよ。
あいつの教室で前田がコケて骨折って、夜の内に救急車で運ばれただろ。
あれ傑作だったな。
あの後さ、横井の教室って文化祭の準備が終わってるのに、態々何で見に行ったのかって話したじゃん。
……あー、まぁ昔の話だからな。
で、俺達の間じゃ、前田はあのクラスの誰かと裏で付き合ってたんじゃないかって話してたんだよ。
そうそう。
……ああ、分かってる。怪談だろ。
実はな。
俺らが卒業した後も、この幽霊話が終わってなかったんだよ。
前田、俺達が卒業した後の春休みの間に自殺したんだ。
……知らないだろうな。
新聞にも出ないし、学校内でも表沙汰にしないようにしていたし。
当時の生徒も、知らない奴が結構いたんじゃないか?
親の世話で急に学校を辞めなきゃならないって話で丸め込んでいたから。
……いや、本当の話だって。
そもそも、通報したの俺だからな。
早朝、教室で首吊ってたんだよ。
遺書に死んだ事で生徒に迷惑を掛けたくないから辞めた事にしてくれとか書いてあって、俺も言うなって警察から言われてたから。
嘘だと思うなら学校に行って聞いて来いよ。
ついでに夜の学校でも見て回って。
……ああ、もう大丈夫だろ、20年近く前の話なんだから」
7月12日のメモ書き。
(加奈と書き消した跡)高橋の奥さんとカモミール(地元の喫茶店)と。
ボイスレコーダー
「……はい。じゃあそれで。
久しぶりね。この前、旦那と会ったんだって?
……そうね。でも最近お腹が出てきたみたいよ?
で?久しぶりに呼び出して何の話?
……なんだ、つまんない。ホント変わらないわね。
前田先生?
あー……。ま、いっか、昔の話だしね。
あの時、あたしと会う事になってたのよ。
やだ、そんな顔しないでよ。若かったのよ。フフッ。
前田先生もしつこくてさぁ。
まぁ一回くらいならイイかなって。
……何よ。
何も無いわよ。って言うか、何も無かったの。
だって、あの時あたしが来た時には、もう倒れていたんだから。
……だから、あたしじゃないって……疑り深いのは変わらないわね。
知らないわよ、そんな事。
もう、態々呼び出されて、なんでそんな昔の事……え?うそ!?自殺!?
知らなかった……ううん。あの後、もう会うような事無かったし……。
……そう言われても。
……怪談?
……呆れた。そんな事の為に呼び出したの?
てっきり……ううん、何でも無いこっちの話。
幽霊ねぇ……。
雅子先輩覚えてる?そう、演劇部の。
あの人今何やってると思う?
霊能者よ、れーのーしゃ。びっくりでしょ?
実は、演劇部の中では結構有名だったのよ。見える人?って言うので。
まぁあたし達は話半分で、本気で相手にしてた訳じゃないんだけどね。
当時の幽霊騒ぎの事とか……うん、前田先生の事とかも、何か知ってるかもしれない。
あ。あたしが教えたって言わないでよ?」
7月15日のメモ書き。
新沼雅子。霊能者?
確認事項。
幽霊は居たのか?
前田先生の死因に幽霊は?
ボイスレコーダー
「覚えていますよ。草尾さんでしょ?
いいの。言わなくても分かる。
前田先生を襲った幽霊の話ね?
私が霊能力に目覚めたのは、そう……私が小学生の頃。
祖母が私の側に立って……。
……失礼ね、分かってるわよ。今、霊視するから。
……貴方、ホラー作家目指しているんでしょ?
霊視と言うのは霊とコンタクトを取る事で普段私達が見えない物を見る……。
ちょっと待って……。
……えーっと。いい?
最近、普段行かない所に行った?
学校?学校で、何で……。
ちょ、ちょっと待って……こんな……に……。
あ、あのね。急用を思い出したから、これで失礼します。
御免なさいね、力になれなくて」
7月16日
ボイスレコーダー
「もしもし?高橋だけど。
お前さ、加奈と会っただろ。
その後、どうした?
加奈が帰って来ないんだけど。
聞きたい事もあるから、すぐに連絡くれ」
草尾の声
「警察が来る。
色々聞かれたが、正直覚えていない。
か……高橋加奈と会ったのは、五日も前だ。
今更、その時の事を思い出せと言われても、うろ覚えなのは勘弁して欲しい。
だが、もしこれで加奈の身に何か起きればネタになるのでは?と思ってしまう自分がいる。
……不謹慎だったな。加奈の無事を祈ろう」
7月18日のメモ書き。
加奈が遺体で発見される。
自殺。
(割愛します)高校の旧校舎、三階で首を吊っていた。
(何かを消した跡。読めませんでした)
何故、俺達が使っていた校舎が使われなくなったか。
7月21日のメモ書き。
20時に高橋と会う。
ボイスレコーダー
「よう。
お前、本当に何も知らないのか?
お前と加奈が昔付き合ってたのはいい、それはもう昔の話だ。
……何か話さなかったか?
あいつが自殺するなんて……お前、何やってんだ?
(ノイズ)何だよ、これ。
こんな時に何やってんだよ!
貸せ!……テメェ!逃げるな!」
7月22日
ボイスレコーダー
「……本を正せば、そもそも学校が始まりだ。
俺達が学生の頃から幽霊の話はあった。
話を聞くと、(ノイズ)……から言われていた、今は使われていない旧校舎。
あそこでは、以前から事故や自殺があったらしい。
幽霊が出ると言われていた場所は、三階の奥の二つの教室。
一つは加奈達の教室。
出る幽霊は様々で、昔噂になっていた白い影のような幽霊の他、小さな子供、軍服を着た兵士や形の無いモヤのような物まで。
幽霊騒ぎが頻繁になり一連の事件が問題視されるようになると、学校側は校舎の強度に問題があると閉鎖。
新校舎を作り、旧校舎は立ち入り禁止となった。
それ以降、幽霊騒ぎは少なくなったが、そこは若い学生達。
時々忍び込んでは、悪さをしていた……らしいが。
(数分経過)
そうか……あれは、お札が貼ってあった跡か」
7月24日
ボイスレコーダー
「高橋が死んだ。
あそこで自殺。
……どうなっているんだ」
7月25日のメモ書き。
新沼雅子に電話。
霊道、霊の通り道。
気をつけろ?
7月27日のメモ書き。
20時に新沼雅子に会う。
ボイスレコーダー
「(ノイズ。コォーッという低い音か声が被っています)
新沼雅子に会う予定だったが、予定が変わる。
変わるというか……まぁ、本当の事を言っておくか。
……新沼雅子は、俺を見るなり悲鳴を上げて逃げた。
最近耳鳴りが酷く、気分が悪い。
最近?いや、ここ数日か。
もう一度、あの校舎に行って、あの札の剥がれたらしい場所に何があるのか確認するつもりだ。
俺に死ぬ気は無いけど……。
万が一、俺がどうにかなった時には……友人に、この資料を託そうと思う。
……馬鹿馬鹿しい。死ぬわけ無いだろ」
7月30日メモ書き。
25時に旧校舎へ。
ボイスレコーダー
「(ノイズ。コォーっと言う低い音か声が常に被っています。良く聞き取れませんでした。すみません)
……に入る。(草尾の声だと思います)
(ノイズ。数分続きます)
……かな?
(ノイズ。遠くに悲鳴。おそらく草尾。引きずるような音。足音が複数人数)」
◇ ◇ ◇ ◇
以上です。
本来はもっと資料が豊富でボイスレコーダーの時間も長かったのですが、主要な部分と思われる所だけ抜き出してみました。
私自身は、草尾が死んだとは思っていません。
彼に最後に会った日、彼の顔色の悪さに驚いたところもありましたが、自殺を考えている様子は無く、寧ろ、この話をまとめる事で自分の生活の区切りにしようと考えていたようです。
彼は失業中で生活も苦しかったようですが、努めて明るく今回の取材を話してくれていました。
彼が早く戻って来る事、そしてこの調査を生かしたホラー小説を書き上げてくれる事を期待しています。
追記
この記録を公開するに辺り、様々な人達にご心配をお掛けしました。
まことに申し訳ありません。
謹んで相沢雄作のご冥福をお祈りします。