エピローグ
ジジッ……ジッ……
真っ暗な世界でノイズ混じりの音声が流れる。
痛み。
人はそこから何を得、何を失うのだろう?
繰り返される世界。そこで唯一"痛み"という変化を得た少年は、世界に最高の"ふくしゅーー
ブツッ……
ラジオはそこで途絶えた。
「お前が俺の何を知っている?」
少年が呟く。
「この"痛み"が俺に何を与えてくれる?そんなものがあるとでもいうのか?ほざけ!」
少年は叫ぶ。
「世界は俺に"痛み"しか与えなかった!!」
ぱりんーー
世界がひび割れた。
「……って、そんなこと言っても、誰かが答えてくれる訳じゃないか……ここは世界ですらないから」
少年が仄かに笑う。
ここは虚空。少年の他には何者も存在しない。
「でも、なんでラジオがあって、その上繋がるんだろう……おかしな空間だ」
「それはね、キミだからだよ」
返ってくるはずのない答えが、ラジオから来た。
「その声は、サイ!?」
「やあ、久しぶりだね」
ラジオから流れてきたのは、紛れもなくサイの声だった。
「なんでだ?消えてしまったんじゃないのか?」
「まあね、色々あるんだよ。王に気づかれないように色々仕掛けを残していたんだ。ただ、王が消えて、虚空が消えなかったのは誤算だったな」
「……それは、どういう意味だ?」
虚空が消えるはずだった?
「王を消すためにはどうしても虚空に来なくてはいけない。王はブランクには入れないからね。それからキミを元の世界……元々、王やボクが暮らしていた世界に返すために虚空を壊す仕掛けをしてたんだ。でも、消えなかったなあ……なんでだろう?」
少年はふと、白い筋を見つけた。筋というより、亀裂だろうか。
「サイ、あんたは、虚空を壊すためにどんな仕掛けをしたんだ?」
少年は訊きながら、亀裂に手を伸ばした。
「王とボクの存在が虚空を支えていたから、ボクは虚空の絵を描いて、二人とも消えたらすぐに壊れるようにぼろぼろにしていた。……何か心当たりでも?」
「ああ」
少年の中で全てが繋がった。
「俺、虚空の絵を描き直したんだ」
描き直された虚空はその寿命が僅かながら伸びたのだろう。
「でも、直に壊れる。空間に亀裂が入った」
「そっか。ならよかった。もうすぐ帰れるよ」
嬉しそうに言うサイに少年は悲しげな微笑みを浮かべた。
「本当は、あんたが帰りたいだろうに」
ラジオの向こうから苦笑いが聞こえた。
「ボクはあの世界に未練はないよ。っていうかもう消えてるし。……もしかして、行きたくない?」
「まあ……正直、気は進まない」
「そっか。なら……ずっとそこでもいいのかい?」
少年は
「結局、俺には帰る場所がない。なら、いい」
少年は手を伸ばした。何も見えないはずの暗闇の中で、少年の手はあっさりとラジオに触れた。
「だからもう少ししたらこれも切るよ。あんたは俺の幸せを最後まで願ってくれた。……ありがとう」
「いや……どう……た、まして」
サイの言葉にノイズが混じる。
「……らになれ……て、ごめ……ね」
別れの言葉。
ぴしっ……ぴきぴき……!
それが紡がれる度、虚空に亀裂が走っていく。
「ありがとう。そして……」
「うん」
そして
ぱりぃんっ……!
「「さよなら」」
びきっ、がしゃっ……ぁぁん……!
これは全てどこかの世界の遠いお話。
美しい絵画が綻びていくように世界にも終わりが訪れる。
世界が滅びてなくなるように物語も終わるのだ。
物語が紡がれるように人の生も綴られていく。
どれだけ不幸せだったとしても、自分が自分で生きられるようにーー
自分が自分の王であれ。王は二人も要らない。
不幸せだと思うのなら、叫べ。
Pain to the worldーーと。
謎かけを一つ。
この作品のタイトルである「Pain to the world」は直訳だと「世界への痛み」となりますが、もう一つ、意味があります。
なんてことはない洒落ですが、わかった方は是非メッセージを。
それでは、皆さんの過ごす世界が末長く幸せなものであることをお祈りしーーこの物語の後書きを締めます。
お読みくださり、ありがとうございました。