しぬ
しぬ瞬間があっけないものでなかった事に、ことさら感謝した。呼吸器をつけてはいるが、痛み止めを打ってはいるが、周りに家族がいる。少なくとも唐突な死でなく、良かった。
「おじいちゃん死んじゃうの?」
孫娘は言う。
(大丈夫だ)
そういい、手を伸ばし、頭を撫でてやれれば、どれほど良かっただろうか。しゃべれもしない……。
こんなに意識がはっきりしているのか、薬の影響かもしれないが、ここ数年濃霧の中でものを考え過ごしているようなものだったから、寝た状態であるとはいっても、こんな風に若い連中を見れる日が、例え最後だとしても、それはとても幸せな事だ。
「泣いているのですか? 意識は?」
娘はせんせいに顔をむけた。
「おそらくはただの生体反応と思われます。目にゴミが入ったのでは」
そうだ。死ぬんだ、俺は、
きっとこれは、最後の夢だ。こうあって欲しいと言う。
そして、本を閉じるように意識が途切れた。
目を覚ますと俺は、俺で。
あー、そうか。
「ママ」
俺がはじめて発した言葉に、彼女は洗濯物を畳む手を止める。
俺は抱きかかえられると、反射的に笑った。「ママ」
頑張れ俺。次の俺。
……。