記憶喪失に認定されました
リリアに案内されたその町は『サック』と言った。
「ここは小さい町だけど、この国の中じゃ結構有名な町なのよ」
現在、俺とリリアは『サック』の大通りを歩いている。
「有名?」
「この町ね、とある人の生まれ故郷なの」
「どんな人?」
俺がそう聞くとリリアは、よくぞ聞いてくれたとでも言うかのように胸を張って言った。
「騎士王カトレア様よ!」
「…………」
そんな風に胸はって言われても、俺はこの世界の人をリリア以外知らないんだよな~。
俺の態度にようやく気付いたリリアは、記憶喪失の男を見る目で(そんなものがあるかは知らんが)俺を見て、
「……まさか、カトレア様を知らないの?」
「うん、知らない」
まあ凄い人なんだろうな、興味ないけど。
「カトレア・ヴィヴァイン様!ヴィヴァイン家の御令嬢にして帝国騎士団副団長、この前の『ゲートレイン事変』の功績が認められて今世紀の『剣王』の称号を手にした英雄よ!さすがに『ヴィヴァイン家』とか『剣王』は知ってるわよね?」
「……いえ」
ここは記憶喪失気味な設定になっていろいろと情報を得た方が得か?
ふと、そう思った俺は正直に答えた。
「はぁー……あなた何者?記憶喪失なの?」
「多分……」
どうやら呆れられてしまったらしい。
でも、これで記憶喪失として接してくれるだろうからいろんな事が分かるだろう。
「いい?ヴィヴァイン家はここ第八コーカ帝国の貴族。当主はジュダ・ヴィヴァイン公爵。公爵は貴族階級の1番目よ」
「公爵の下は侯爵、伯爵、子爵、男爵でいいの?」
「ええ、そこは知っているのね」
どうやら、貴族階級は元の世界と変わらないようだ。
「で、『剣王』って言うのはこの国の国王に剣技を認められた人に送られる称号。『槍王』『斧王』『槌王』『弓王』『盾王』『徒手王』、それに『剣王』を加えた七人を『七王』と言うの」
「『七王』……、その中に魔法使いはいないのか?」
「魔法使い?……ああ、魔術師は『七王』じゃなくて、『七帝』っていうのがあるわ。『七王』、正式名『非術の七王』は別名『武闘王』、術にたよらずに戦う者の頂点。で、対する『術の七帝』は魔術戦闘での頂点。『炎帝』『水帝』『風帝』『地帝』『雷帝』『氷帝』が居る」
ん?ちょっと待って……
『炎帝』『水帝』『風帝』『地帝』『雷帝』『氷帝』
「あれ?七人目は?」
「ないわ」
「ない?」
『七帝』なのに六人しかないのか?
「正確にはできていない、ね。魔術とは元々魔獣たちが使う魔法を研究した結果生まれたものでしょ?炎術、水術、風術、地術、雷術、氷術の六つが体系化された。でも、一部の高ランクの魔獣が使う、光を操る魔法は体系化出来なかった。七つ目の称号『光帝』は事実上無いのよ」
「へ~……。そうか」
うーん……、なんか今の俺ならできそうな気がする。体系化された魔術とか知らなくても出来たし。
今度、いつかやってみよっと。