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『ほろ苦いキス』

作者: 反兎



突然降ってきた雨。


多分、夕立だろう。


止むまでどこかで雨宿りをしようと適当に立ち寄った所に俺とほぼ同時に女もやって来た。


あまりにもタイミングが良かった為、お互い目が合った瞬間に笑ってしまった。

それもあり、人見知りの俺が彼女とは初対面とは思えない程普通に話せた。


彼女は柔らかい、ほんわかした雰囲気の可愛いらしい子だった。


話ていたら好きなものとかお互いどこか似た所が多く親近感が沸いてくる。

雨が止むまでの付き合いでしかないのが、少し名残惜しく感じている自分がいた。


こういう時に気軽にケータイの番号とか聞ければ苦労はしないのに…


俺はどうも一歩踏み出す勇気が足りない。


まぁ、もし聞けたとしても彼女と上手くいくとは限らない。

世の中そう上手くいくもんじゃない。


それにこんなに可愛いんだし当然彼氏もいるだろう−−−、いつもこうやっていい訳をして自分が傷つくのを避けている。


情けない


そう思っていると、雨が止みだした。



「あ、止んできましたね」

彼女が空を見上げながら右手を出して確認する。

「本当だ…」

俺も彼女と同じように手を出す。

「これならもう出て行っても大丈夫だね」

俺は心にもない事を言う。

「そうですね…」


お互い無言になる。

なんだか気まずい雰囲気が流れ出したような気がする。


この無言がどれだけ続いたのかは判らない。

多分、1分にも満たない程度だろう。


俺は見納めとばかりに彼女を盗み見ていた。


すると彼女が不意にこちらを向き、目が合ってしまった。

見ていたのがバレたかもしれないと思い俺は物凄く焦った。


「あの私……、雨も止んできたんで行きますね」

「え、あぁ…うん」


(良かった。バレていないみたいだ……)

バレたら確実に変なやつだと思われる。


すぐ立ち去るのかと思ったら、彼女は下を向いたままその場に立ち尽くしている。


俺は不思議に思い彼女を見つめる。


彼女はゆっくりと顔を上げ、そして目が合う。


その瞬間、まるで時が止まったかのようだった。

何もかもがゆっくりで、この世には自分達2人だけしか存在しないようなそんな感じだった。


お互いそのまま引き寄せられるようにキスをした。


お互い無意識の出来事で、我に返った時は物凄く動揺し俺は硬直、彼女は慌てて去って行った。

俺はその場に立ち尽くしたまま、彼女が去って行った方向をずっと見ていた。


さっきまでの雨が嘘のように空は晴れ渡り、空には虹が架かっていた。



彼女とのキスは、ほろ苦い珈琲の味だった。



あれからいったい何日経ったのだろう?


俺の足は勝手に彼女と出会った場所へと向かう。


もしかしたらまた彼女に会えるかも−−−と、どこかで期待している自分がいた。


だが、彼女と再会する事はなかった。



何故か忘れられずにいる彼女とのキス。



そんなつもりはこれっぽっちもなかった。それなのに−−−


今思い出しても最悪だ。


自分でも何であんな事をしてしまったのか解らない。

初対面の相手にあんな事してしまうなんて……


考えられない…。


でもあれは−−−、


あのキスは何だったのだろう?


彼女も俺と同じ気持ちだったのだろうか?

少なからず俺の事を想ってくれていたのだろうか…


いや、それはない。



だって彼女はあの場所に現れていない。




彼女が雨宿りの時に飲んでいた缶珈琲。

ブラックだった。

彼女とブラック珈琲の意外さに俺はそのまま

「意外だね」と口に出していた。

彼女は

「昔は激甘のカフェオレしか飲めなかったんですけど、今はブラックじゃないと嫌なんです」

と、はにかむように言った。

その表情がまた可愛いらしかった。


俺は普段まったく飲まない珈琲を飲むようになった。


さすがにブラックはキツイが、それでも我慢して飲んだ。


あのほろ苦い珈琲の味を忘れたくなくて−−−。




あれから俺は、

隙さえあれば毎日あそこに立ち寄っている。


もう彼女と出会ってから一月は経とうとしている。


「もう1度だけ会いたい」と思う一方、どこかで「これで良かった」と思っている自分もいる。


会っても気まずいだけかもしれない。

いや、確実に気まずいだろう。


だいたい会ってどうするつもりなんだ?


俺は−−−


そう思っていたら頬に冷たさを感じた。


触ってみると濡れていた。

空を見上げ、手を出し確認する。


「雨だ−−−」


俺は濡れないようにあの場所で雨宿りする。


結構降り出した。


(これは夕立だな−−)


止むまでここに居ようと思っていると視界に見覚えのある人物が入ってきた。


彼女だ−−−


彼女は傘もささずに立っていた。


彼女は時が止まってしまったかのように動かない。


俺は慌てて彼女の腕を引っ張り、濡れないように連れて行く。

それでも彼女の時は止まったままだった。


「何やってんだよ!!びしょ濡れじゃないか…」

自分の服の袖口で彼女の頭や顔の雨を拭う。


彼女は不思議そうに俺を眺めている。


小さく彼女の口が動いていた。何か言ってるみたいだが小さくて聞き取りにくい。


「−−−う−−て…」

「何?」

「どうしてここに居るの?」


彼女は何か訴えるように俺にそう尋ねた。



どうして−−?


そんなの決まっている。


「また君に会いたかったから……」


彼女は俺の言葉を聞き驚いたように目を見開きそして何かに堪えるように辛そうな顔をした。


「私…」

彼女は意を決したように何か言おうとするが、言い淀む。

「何?」

俺が聞き返すと彼女は言いづらそうに顔をしかめる。

「大丈夫だよ。どんな事でも受け止められるから」

俺がそう言うと彼女は申し訳なさそうに言った。


「私……婚約してるの」


そう言う事で、俺と距離を置こうとしているようなそんな感じがする。


「じゃあ何でここに来たの?」


別に責めている訳ではない。

俺と距離を置こうと思うならここは避けて通るべきだった。

なのに彼女はあえてここに来た。


しかも雨が降っている時に−−−。


「どうして?」

俺が再度そう聞くと彼女は困ったように顔を背ける。


適当に言い繕えばいいのに彼女は押し黙る。


彼女の態度が言葉よりも雄弁に語っていた。


「俺に会いに来たの?」


彼女の視線がもう何も言わないでと訴えている。


「婚約は取り消せないの?」


「……いい人なの」


やっとの事で絞り出した言葉を言う彼女の頬は、拭いたはずなのに濡れていた。


「じゃあ何でここに来たんだよ……」

俺はもどかしく、どうしようもない思いを口に出していた。

「どうしたいんだよ!!」


彼女は泣き崩れる。


「ごめんなさい……

ごめんなさい、自分でも解らないの……

雨が降り出して……気が付いたらここに来てて……そしたらあなたが居て、どうしたらいいのか解らなくて−−−


一生懸命に自分の気持ちを伝えようとする彼女をどうしようもなく愛おしく感じ、抱きしめる。


彼女は俺を受け入れ、


多分…会いたかったんだと思う……」


強く握りしめる。



それからは無性にお互いを求め合った。

堰を切ったように溢れ出す想いがお互いを貪る。


何度と身体を重ね何度絶頂に足そうが、果てるまで繋がり続けていた。


こんなにも満たされた気持ちは初めてだった。



気が付いたら朝で、彼女の姿はどこにもなかった。

俺が寝ている間に帰ったのだろう。


置き手紙も何もない。


彼女とはこれでもう会う事は2度とないだろう。



ブーブー


携帯が鳴る。母親からだ。


「何?」

「何って言い方ないでしょう。準備は出来てるの?」

「は?何の?」

「何のじゃないでしょう!今日まぁ君の結婚式でしょうが!!全く……、電話して良かったわ。本当−−−


(そうだった…、従兄弟の結婚式だった)

そんな事すっかり忘れていた……。


母親がまだグダグダ言っているが、

「ごめん!俺今から用意するから」と無理矢理切った。



結婚式場は俺のアパートからバスで5分も経たない所にある。

歩いて行っても間に合うだろう。

そう余裕こいていたら式が始まるギリギリに着いた。


式場に着くと母親がこっちこっちと手招きしている。


恥ずかしい…、

本当にそういうのは止めて欲しい。

まだ大声で名前を呼ばないだけマシかもしれないが、恥ずかしい事に変わりはない。


式が始まった。

新婦が父親と入って来る。


アイツの結婚なんてどうでもいいけど、どんな女と結婚するのか気になって見てみた。


ベールがあってよく見えない。


誓いのキスが終わり新婦の恥ずかしそうな顔が見えた。


俺は息が止まりそうだった。


そこには彼女がいた。


純白のドレスに身を包み少し困ったように、それでも幸せそうに笑う彼女がいた。


電話での母親の言葉が甦ってくる−−−


「でもこの結婚考え直した方がいいと思うのよね〜。何でも新婦の子、今日結婚式だっていうのに昨日連絡が取れなくなってもしかしたら結婚を前に逃げたんぢゃないかって一悶着あったのよ。結婚前に不安になるとしても結婚式前日に居なくなるなんてこれから先不安よねぇ〜」


彼女の事だったんだ。


婚約してるとは言っていたが、まさか今日が結婚式だなんて思いもよらなかった。


彼女はどういうつもりだったのだろう?

結婚前の単なる遊びだったのだろうか?

最後のハメ外しだったのだろうか??


世の中ってのは狭い。



こんな所でまた彼女に再開するなんて……

思いもよらなかった。



披露宴になり、俺は挨拶に行った。


「おめでとう」

「おぉ!!ありがとう。お前も早くいい人見つけて結婚しろよ」

コイツは何も知らずに幸せそうに笑っている。


彼女は友達と話していて俺の存在に気付いていないみたいだ。


マサキが何か言っているが耳に入ってこない。

早く彼女がこっちに気付いてどんな顔をするのかが見たい−−


彼女の周りに友達が居なくなりマサキが彼女に話しかける。


「これ俺の従兄弟のユウタ。で、こっちが俺の可愛い花嫁さん。こいつおとなしくってさぁ〜積極性がないから彼女いないんだよ。誰かいい子紹介してやってよ」



彼女は俺を見て驚愕の顔をしていた。

そして、何か覚悟を決めたようだった。


ここで会う事さえなければ俺達の関係は終っていただろう。

俺達は逃れられない運命なんだ。


あの時あそこで出会ってしまった時から−−



こうして彼女と俺の関係は続いていく


ほろ苦いコーヒーのように。





これはコーヒーを飲んでてふいに思いついた。


コーヒーを飲んだ後に口の中に残るコーヒーの味。

コーヒー飲んだ後にキスをしたらコーヒーの味がするのかなと思って妄想したのがこの話です。


思いついても私に纏める力がなくて…m(__)m


完成するのに時間がかかりました。


読んで下さってありがとうございます。

他にも書くので良かったら読んで下さい♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはこれで駄目だー。 てかある意味一番ダメだー。 でも、それがいい。 そんな感じです。 またオチもそっちに行きますかと いい意味で期待を裏切られました。 [気になる点] せっかくいいとこ…
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