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無限のナイトメア  作者: 高月望
二日目―夢は何を奪うのか
8/40

1-(1)


 僕はベッドからび起きた。

 全身から汗が噴き出しているのが分かる。そして、その汗が次第に冷え、全身の体温を奪っていく。寒気を覚え、自分の肩を抱き、身を縮める。

 しかし、その寒気はおさまることはなかった。僕自身、この震えが寒さだけによるものではないことを、一番よくわかっていた。

 起きた時に跳ね飛ばした布団を、自分の肩まで手繰り寄せる。そして、落ち着こうとゆっくりと深く呼吸をする。深呼吸は僕をある程度、落ち着かせてくれた。

 僕はあたりを見渡す。薄暗いがそこはよく知っている自分の部屋だった。教科書が山積みになっている勉強机に、マンガが並んでいる本棚、どこも変わったところはない。いつもの自分の部屋にいることが分かり、ホッと胸をなでおろす。

 カーテンの隙間からは朝の日差しが漏れている。加えて、チュンチュンと小鳥の鳴き声が窓越しに聞こえてくる。こういうのを清々しい朝というのだろうが、今の僕の状態ではその清々しさを感じる余裕はなかった。

 ―――何だったんだ、あの夢。すごくリアルだった……

 僕は先ほどまで見ていた夢を思い出す。思い出しただけで身震いするほど怖い夢ではあった。しかし、高校生にもなって、怖い夢の一つや二つでここまで怖がる自分もどうかと思うが。それでも、ただの怖い夢とは根本的に違う何かを感じたのだ。

 僕は気を取り直し、今何時だろうと疑問に思い、目覚まし時計を探す。

 目覚まし時計がさしていたのは六時前だった。

 さすがに二度寝するには遅い時間であり、起きるには少し早すぎるような、そんな微妙な時間帯であった。ただ、あんな怖い夢を見た後では、どうも、もう一度寝ようという気にはならず、起きることにした。

 怖い夢を見た、そのせいで目が覚めるなんて、幼稚園のころ以来ではないかとそう考えながら僕は一階へと降りていく。

 一階では母さんが台所に立ち、朝食の準備をしていた。

 包丁がリズミカルにまな板をたたく音がリビングに響き、みそ汁の優しい香りが部屋全体に広がっている。

 その音と香りは僕の気持ちを落ち着かせてくれた。

「あら、おはよう、いつき。どうしたの?いつもよりだいぶ早いけど…いつもはもうちょっと寝ているくせに。今日、何かあるの?」

 母さんは、僕のいつもよりもだいぶ早い起床に驚いている。そこまで驚かなくていいだろうに、僕がどれほど寝坊の常習犯が分かるではないか。

「あぁ、おはよう。ちょっと怖い夢を見たからさ、いつもより早く目が覚めちゃったんだ」

「怖い夢って…小さい子じゃないんだから。高校生にもなって何言っているの。お母さん、本当に恥ずかしいわ」

「大人だって怖い夢ぐらい見るだろ。年齢関係ないと思うんだ・け・ど!」

「……ダサいんだけど~」

 自分でも恥ずかしいと思いながらも必死に母さんに応戦している最中、まるで水を差すような生意気な声が僕の後ろから聞こえてきた。僕は声の主が誰なのか分かっている。込み上げてくる怒りを抑えながら後ろを振り向くと、そこには、ダイニングで椅子にすわり、朝食ができるのを悠然と待っている妹の姿があった。

 名前は高原なぎ。小学校四年生だ。髪を横に束ねているが、兄弟げんかのとき、それは凶器にもなる。口も達者で本当に生意気な小学生だ。年の差もあり、今のところ兄妹げんかの成績は全敗である。でもこれはお兄ちゃんとして当然だろう。小学生相手に本気になったら、本当に大人げないではないか。

「本当にダサいよね~うちのお兄ちゃん。マキちゃんのお兄ちゃんはかっこいいのに…」

「マキちゃんのお兄ちゃんは知らないが、僕だって十分かっこいいお兄ちゃんだろうが」

「寝言は寝てから、言ってほしいな」

「なんだと」

「朝っぱらからやめなさい」

 母さんの怒号が台所から聞こえる。水を差されたので妹との口げんかはここで終了となった。世の中には妹萌え~とかがあるらしいが、そんなもの幻想だ。マキちゃんのお兄ちゃんがどれほどのものかは知らないが、僕はマキちゃんが妹だったらと思う…こんな妹はいらない……

 そんなやり取りをしていると父さんが起きてきた。さっさとみんなに朝の挨拶をすませると席に着いた。うちの父さんは、寡黙な人なので、いつもこんな感じではある。そしてダイニングには家族全員集合となった。

 家族全員がそろい、みんなで朝食を食べ始めた。

 これが、我が家のいつもの光景なのだ。

 そんないつもの日常が始まった途端に、僕の頭の中からは、朝のあの悪夢のことなんて、きれいさっぱりとまでは言わなくても、気にはならない程度にはなっていたのだった。

 そして、朝食を食べ終えた僕は学校へと向かう。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 母さんの優しい声が、天気のいい朝の中元気に響いたのだった。




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