エピローグ
あのあと、僕たちはすがすがしい朝を迎えることができた。
そして、僕は起きてすぐに事の顛末を夢野先生に聞かせた。しかし、僕はその時すべてが終わったことに対してうれしく、興奮していた。そのため、話していてもうまく伝わらない部分もあったが、そこは夢野さんが補足してくれたので、夢野先生はすぐに理解してくれた。
「よかったね、高原くん。全然足手まといじゃ無かったよ。むしろ君がいなかったら勝てなかった戦いだった。夢魔も高原くんの能力を侮っていたのが幸いだったね。夢魔もきっとびっくりしたはずだよ。でも、疑問なのは高原君のその能力だよね。夢の中で物体を具現化する力。不思議だなぁ」
夢野先生はそう言い、僕を見つめる。
そんなに見つめられても、僕自身答えを出せるわけではない。こっちが逆に聞きたいぐらいなのだから。ただわかるのは、僕は普通の人とは少し違うということぐらいだ。
「そんなの分かりませんよ。僕もあのときは無我夢中だったから…」
僕はそう先生に告げる。
「そうだよね。ごめんね……あっ、そろそろ学校の時間だよ」
夢野先生はそう言って時計を指す。本当にいい時間だった。
こうして、僕と夢野さんは急いで学校に向かった。
そして学校に着くと、校内は大騒ぎだった。
何をそんなに興奮しているのかと思いながら、自分たちのクラスに向かうと、同じようにみんな騒いでいた。席に着き、その騒ぎのほうに耳を傾けると、
「ねぇ、例の夢、見なかったんだけど」
「私も!ここ最近ずっと見てたのに、昨日の夜はみなかったよ」
「知ってる?ずっと眠っていた人、目が覚めたんだって」
「えぇ~本当?」
そんな会話がなされていた。
僕は後ろの夢野さんに話しかける。
「これって、夢魔を倒した結果かな?」
「そのようね」
「なら、よかった~ね、夢野さん」
「ええ、よかったわ」
「本当によかった~」
すると龍臣が笑顔いっぱいでこっちにやってきた。そして僕の首に腕を回し、このこの~と言いながらつつきまわした。僕は痛い、痛いと言って必死に逃げようとした。そんなじゃれる僕たちを、夢野さんは無表情ながら優しい感じに見守っていた。
隣の席に川島くんがやってきた。川島くんは、騒いでいる人たちを見て、今回の事件が終息したことに気づいたようだ。川島くんは僕たち三人のほうを向き、こういった。
「ありがとう」
それからは、例の悪夢を見る人もいなくなり、こん睡状態だった人たちも無事学校に出てきた。幸いにも死者は出なかった。こうして、学校内の悪夢騒ぎは終結したのだった。
そして数日がたったころ、僕は夢野さんの家の前まで来ていた。
今回の事件のことできちっとお礼を言いたかったからだ。
僕はチャイムを鳴らすと、すぐに夢野さんが出てきた。
「なにかしら?」
どうやら寝ていたらしく、目をこすりながら出てきた。そのため少し不機嫌そうでもあった。でも、不機嫌そうなのはいつものことなのかもしれない。それとうれしいことに、夢野さんは私服だった。白のワンピースを着ている。その姿はかわいらしく見とれてしまう。
「あっ、寝てた?ごめん、起しちゃって」
「別にいいわ。それで何の用かしら?」
「こないだのお礼が言いたくて…」
「お礼なんて…私は何もしてないわ。むしろお礼を言うのはこっちのほうだわ」
「でも今回、夢野さんがいなかったら僕は何もできなかった。夢野さんがいたから、ここまで出来たんだ。だから、ありがとう」
「そう…なんだか照れるわね」
「じゃあ、それだけだから。おやすみ、いい夢を」
「また学校で」
そう言って夢野さんはドアを閉めようとした。そこを僕は思い出したかのように、閉まりそうなドアに手をかけた。
「何かしら?」
「言い忘れたことがあった」
「うん?」
「今回の事を経験して、自分なりに変わったような気がするんだ。今までは自分に自信なんてなかったし、ただ周りに合わせて生きているだけだった。でも夢野さんが来て、知らない世界を知った。そして僕にも、人を救える力があることを教えてくれた。それにはとても感謝しているんだ。だから、これからも…」
「そう…それで?」
「僕が一番言いたかったことは、これかもしれない。夢野さん、僕と友達になってくれませんか?」
僕は夢野さんを見つめる。僕の心はまるで、告白の答えを待つ人のようにドキドキしている。時間がたつたび、これで断られたらどうしようと、だんだん不安になってくる。夢野さんは一向に答えてくれない。
「返事は?」
待ち切れず僕は、夢野さんに答えを催促する。
「……」
「嫌なら嫌って言っていいから」
そこで夢野さんは耐え切れずに急に笑い出した。その初めてみる笑顔はかわいかった。
「ふふふふふふ、なにその顔。まるで捨てられた子犬のようだわ」
「…子犬って…」
「答えはイエスよ。というか、もう私たち十分に友達じゃないかしら?」
笑顔の夢野さん。僕の心は舞い上がる
こうして、僕たちの関係は始まったのだった。