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夜が更けて、僕たちは前回と同じく布団に横になっていた。僕たちの手の中には川島くんの髪の毛が握られている。隣には笑顔を浮かべた夢野先生がいる。きっと僕が緊張しないように気を使ってくれているのだろう。
「大丈夫かな?」
夢野先生が聞いてくる。
「大丈夫です」
「今回は、川島くんの夢の中だ。前回の雨宮さんのときと同じだから、いつきくんはただリラックスして寝てくれるだけでいいからね」
「はい」
「じゃあ、二人ともおやすみ。幸運を祈っているよ」
そうして部屋の明かりが消された。こんな状況だから寝れるのかなとも思ったが、案外すんなりと眠りに入っていったのだった。
……………
目を開けるとそこは暗い空間だった。
見慣れた風景、そしてこれが最後になる風景。
「ちゃんと眠れたのね」
後ろから声がする。振り向くと夢野さんが立っていた。その右手にはあやしく光るひと振りの剣が握られていた。すでに臨戦態勢だ。
「僕も寝れるとは思わなかった。このまま寝れずに一日中起きているんじゃないかと思ったよ。案外神経図太かったんだな、僕」
「それは良かったわね。で、そろそろ準備したら?夢魔が来るかもしれないわよ」
「わかった」
僕はそう言い終わると同時に、自分の右手に集中し始めた。ひと振りの剣を創造する。そうすると、自分の右手の中に何か物体の感触が現れる。さらに強く想像すると、その感触は確かなものとなった。右手を見てみると、ひと振りの剣が握られていた。どうやらこの具現化の力を使いこなし始めたみたいだ。これで準備万端だ。
そのときだ。
「やはり来たか…」
むこう側から声がした。それはよく知った声だった。目を凝らして向こう側に目を向けると、人影がこちらに近づいてくる。
コツコツコツ……
足音がだんだんと大きくなる。
その人影が姿を現した。
「やあ、会うのは久しぶりだね、少年。獏の娘は初めてだね」
夢魔は手を挙げ、気さくそうに話しかけてきた。その姿は黒い帽子に黒いコートといった全身黒づくめの姿だった。その手にはステッキが握られている。僕が最初に会ったときと、まったく同じ姿だった。
「あれは、はったりではなかったようだね。犯人は分かっているというのは。困ったものだよ、まだまだ人のエネルギーを吸いたかったのだが…ここで謝れば、見逃してくれるということはないかな、ないだろうね~その顔は」
夢魔の問いかけに、僕たちは力強く答える。
「あぁ」
「えぇ」
夢魔はそれを見て、微笑する。その笑い顔に、少し苛立ちを覚えたものの、僕たちは気を取り直し、夢魔に対峙する。相手がどう動いてくるかわからない以上、こちらからも動くことはできない。しばしのにらみ合いが続く。そして、
「はぁ~やっぱり、戦うしかないのか。しかし今の私は強いぞ。エネルギーをたくさん吸ったからな…」
「それでも、あなたを倒さなければ、みんなを救うことはできないわ」
「しかし、二対一は不公平だろう」
そう夢魔が言うと、指を鳴らした。
パチン!
その音と同時に夢魔の背後から、例の影たちがたくさん姿を現したではないか。
「それでは、行きますか」
その言葉を夢魔が発すると、影たちが一斉にこちらに飛びかかってきた。それをよける僕たち。僕は近くに来た影に切りかかる。影は切られ、霧散する。そして、また飛びかかってくる影を切る。それを繰り返しているときだ。
「あとはまかせたわ」
夢野さんはそう言い、たくさんの影たちを飛び越しながら、夢魔に一直線に向かっていった。取り残された僕は、たくさんの影に囲まれてしまった。ピンチであるが、どうしようもない。何匹かが一斉に飛びかかってくるのを、剣を大きく左右に振り、なぎ払う。影たちは切られ、黒い煙となり霧散していく。
夢野さんはというと、夢魔に戦いを挑んでいた。それはすごい、剣での応酬であった。




