2-(1)
夢野さんと一緒に帰っている。
もちろん今日も夢野さんの家に向かうこととなっている。二日連続の外泊は少々気がひけたが、仕方がない。妹のなぎがぐずって、心が痛んだが、そこは心を鬼にして耐えるしかない。親も二日目となると不審がっていたが、そこはなんとか丸く収めることができた。そう、今夜は夢魔との決闘のときである。大事な時だ。こんなところでつまずいてはいられない。
夢野さんの家が近づいてくるたび、僕の心臓はバクバクと悲鳴を上げてくる。しかし、歩みを止めることはできない。
「なに、緊張してるの?」
僕の心を読んだのか、そうたずねてくる夢野さん。
「緊張なんかしてないよ」
僕は強がって言う。
「争う。右手と右足が一緒に出ているけれど…」
そういうことか…僕は、自分が思っている以上に相当緊張しているらしい。
「やっぱり、緊張するよ。だって、今夜ですべてが終わるんだから。勝っても負けても、すべてが終わる。あっ、負けるなんて言葉、縁起でもないよね、ごめん」
「別に気しないけど、負けることなんてないわ。絶対勝つもの」
「思うんだけど、その自信はどっから来るの?怖くないの?」
彼女がこれまでに弱気になったところを見たことがない。いつも自信たっぷりで『絶対勝つ』と言い切る姿は、見ていてすがすがしいぐらいだ。僕にはこんな自信ない。いつも後ろ向きな僕にとって、まぶしすぎるくらいだ。
「馬鹿ね。言葉の通り自分を信じているから、自信が生まれるのよ。私は私を信じているもの。必ず勝てるってね。
でも、怖くないと言ったらウソになるわね。小さいときから、夢管理委員会にいて夢魔を狩っていたけど、怖くなかったときはなかった。それでも、自分を信じて突き進んだわ」
夢野さんは迷いも曇りさえもなくそう言い放った。
「僕には到底まねできないな。僕は僕を一番信じていないから」
僕はうつむきながらこう言った。
僕は僕自身を信じていない。今まで生きてきて何度、自分自身に裏切られてきたか。でも、それは単なる甘えでしかないことも分かっている。でも一度こう考えると、抜け出すことはなかなかできない。一度張ったレッテルをはがすのは難しい。
重い空気が二人の間に漂うが、それを夢野さんが取り払う。
「…馬鹿ね。あなたが信じていなくても、私はあなたを信じているわ。それでいいじゃない、とりあえずは」
「夢野さん……」
「自分を信じるには勇気がいるわ。だから無理に信じようとしなくていい。でもね、あなたが信じていないあなたを、信じている人がいることは忘れないで」
「……ありがとう、夢野さん」
「わかってくれたら、それでいいわ」
それから僕たちは無言で歩いた。
もう大丈夫。僕の緊張もだいぶましになった。一人じゃないことが、こんなにうれしかったことは今までにないだろう。だから大丈夫だ。
そうして、夢野さんの家に着いた。
「心の準備はいいかしら?」
夢野さんは、すべてを見透かしたような顔で僕に聞いてくる。
「大丈夫、行こう」
僕は自信たっぷりに答えたのだった。