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学校にはぎりぎり間に合った。
夢野さんと二人で登校したため、クラスメイトがこそこそと、僕たちを見ながら噂話を始める。まぁ、そんなもの気にしていても仕方がないので、無視して自分たちの席に座る。そこでクラス内を見渡すと、驚いたことに半数以上が空席となっていた。生徒はちらほらしかいない。ほかのクラスでもこんな感じなのだろうか。僕は後ろの夢野さんに話しかける。
「夢野さん、たくさん休んでいるけど、やっぱり夢魔の仕業で…」
「そうでしょうね。こん睡状態の人がこれだけいるということでしょう。やばいわね…」
「急がないとまずいよね」
「急ぐにしても、今夜にはすべての決着がつくわ。今は焦ってもどうにもならないでしょ」
「そうだね……」
「犯人とは今日の放課後に接触するわ」
「放課後…わかった」
僕は前をむき、心を落ち着かせる。焦りは禁物だ。夢野さんの言う通り、今夜にはすべてが終わるのだ。いまだに知らされていない犯人の正体。放課後にはすべてわかるのだろうか。
僕はもう一つ気がついたことがある。それは、前の席に雨宮さんがいることだ。昨日までこん睡状態だったのに、もう学校に来ている。その根性に僕は感嘆する。雨宮さんの様子はというと、別に変った様子はなく、顔色もいい。そんな様子に僕は少しほっとする。
そうこうしている内に先生が教室に入ってきた。そして授業を始める。人数が人数であるため、先生もどこかいつもと違う感じに思えた。
そして休み時間。
僕が次の授業の準備をしていると、誰かが近づいてくる音がする。顔を上げるとそこには雨宮さんが立っていた。
「おはよう、高原くん」
「おはよう、雨宮さん。体調はどう?休んでいたから…」
「うん、もう平気」
一通りの会話を終えると雨宮さんは、何かを言いたそうにこちらを見てくる。言おうとして、そのかわいらしい口をあけるが、ためらい、また閉じる。それを何度も繰り返す。その姿はとても見ていてもどかしく、そしてかわいらしかった。僕はそんな様子を見て、優しく問いかける。
「どうしたの?」
「えっと……あ、ありがとう」
「うん?」
いきなりお礼を言われた。僕は心当たりがあるにはあるが、そのことなのか、少し戸惑ってしまった。首をかしげる僕を見て、あわててる雨宮さん。
「えっとね、なぜかわからないけど、高原君にお礼を言わなくちゃいけない気がして…ごめん、わけわからないよね。私もいまいち、よくわからなくて…なんでだろう?」
「そんなことは…まぁ、とりあえず、どういたしまして」
「ふふふふ、ヘンだね」
「そうだね」
「あっ、そうだ、高原くん。お見舞いに来てくれたんだね。お母さんがそう言っていたから。私は眠っていて気がつかなかったけど」
「うん、そうだよ」
「ありがとう。そうか、だからお礼が言いたくなっちゃったんだね。あっ、夢野さんも一緒に来てくれたんだってね、ありがとう」
そう言って雨宮さんは、僕の後ろの夢野さんにお礼を言う。
「別に、お礼を言われることではないわ。…でも、治ってよかったわね」
ぶっきらぼうに言う夢野さん。でも、彼女なりに心配していたことが分かる。
「うん、ありがとう」
雨宮さんはうれしそうに答える。そして、ふと思い出したかのように僕に話しかける。
「あ、そうだ、眠っているときにね、高原くんの夢を見た気がするの。あまり覚えていないけど…でもね、なんかかっこよかった気がするんだよね、高原くんが」
「へ、へぇ~そうなんだ…」
「うん、そうだよ」
思い当たる節があるので、どぎまぎする僕。雨宮さんにはばれていないだろうか。
「二人とも本当にありがとう」
再度、雨宮さんは僕たちにお礼を言い、今度は龍臣の席のほうに向かっていった。龍臣にもお礼を言うのだろう。龍臣は照れながら何かをしゃべっている。どうせまたデートにでも誘っているのだろう。
「少しばかり覚えているみたいね」
級に後ろから声がしたので、振り返ると夢野さんは何かを考えているような感じだった。
「やっぱり、助けに行った時のことだよね」
「そうでしょうね。別にいいじゃない、ほとんど覚えていないのだから」
「それはそうだけど…」
「かっこいいってさ」
「からかわないでよ」
僕にしてみれば、雨宮さんが覚えていなくて正解だったと思う。やっぱり戦っているあの姿を誰かに見られるのはどこか照れくさい気もする。あの時はただただがむしゃらだったから、きっとかっこ悪かっただろう。だから、これでよかったのだ。と言いつつも、頑張っている自分の姿を見てほしかった僕もいることも確かだ。いわゆる複雑な男の心理というやつだ。
チャイムが鳴り、次の授業が始まる。
こうしてその日一日が終わっていった…
そして運命の放課後。