3-(1)
目を開けるとそこは真っ暗な世界だった。
それは見慣れた光景だったはず…
しかし、そこはいつもとは違った。暗い真っ暗な世界なのだが、その暗さが尋常ではない感じがしたのだ。それは禍々しい黒の世界、ドロドロとした感じだった。
僕はその光景に一瞬たじろいだが、すぐに気を立て直す。ここには雨宮さんを救いに来たのだ。こんなことで、いちいちたじろいではいられない。この先、何が起こるか分からないのだから。それに今は一人ではないのだ。
僕は、ちらっと右側を見る。そこには夢野さんの姿があった。
「なに?」
「いや、なんでもない。ただ、心強いなぁと思っただけ」
「なにそれ、ヘンなの」
「それより右手に持っているの、何?」
「あぁ、これ?」
そう言って夢野さんは右手を上げる。そこにはひと振りの剣が握られていた。銀色にあやしく光るそれは、まぎれもない本物であるといことを告げていた。
「本物…だよね」
「当たり前でしょ。こんなところにニセモノ持ってきても役に立たないでしょ」
「だよね」
「これは夢野家に伝わる聖剣なの。あの伝説のエクスカリバーに匹敵するくらいの代物だそうよ。なんてお兄様は言っているけど、こればかりは私も信じていないわ。いくらお兄様の言うことでもね。だから、ただの頑丈な剣よ。それなりに使えるはずよ。何が起こるか分からないんだもの、武器は必要よ」
「僕には何もないんだけど……」
「あなたはいいわよ。あっても使えないだろうし…それにあなたは私が守るから、大丈夫よ」
女の子に守ってあげる宣言をされてしまった。これは男としていいのだろうか?でも、少しドキッとしてしまったことは内緒にしてもらいたい。
すると、大きな声が聞こえてきた。
「遅いぞ~十時って言ったよな~」
そこには龍臣がいた。龍臣は前に会ったときと同じくパジャマ姿だった。その姿はどこか真剣味が足りないように思う。
「その格好、何?」
「なにって、パジャマだけど。動きやすいじゃん」
その場でピョンピョン飛び跳ねる龍臣を、僕はあきれた目で見る。本当に大丈夫なのだろうか。不安になってくる。
「でも、龍臣はどうやってきたの?雨宮さんの髪の毛とかなかったけど」
「夢魔に不可能はないのだよ、いつき。ましてや、夢に関することなら」
自慢げに言う龍臣を横目に、夢野さんは無表情だ。何を考えているのだろうと顔を覗き込むが、分かるはずもなかった。でも、そのきれいな顔はいつもよりは硬い感じがした。
「そんなことより、行くわよ」
夢野さんは僕たちを促した。
「行くってどこに?」
「ここにずっと突っ立っているわけにはいかないでしょ。ともかく行くわよ。それにあっちのほうが怪しいわ」
そんな夢野さんの勘を頼りに、僕たちは進むことにした。
どれくらい進んだろうか、急に周りの空気が重くなったような気がした。僕たちの足取りも重くなる。ここから先は進んではいけないようなそんな感じである。
「どうしたんだろう?急に体が重くなったんだけど…夢野さんは大丈夫?」
僕は夢野さんを気遣い声をかけるが、当の本人は完全無視である。どうしたのだろうと思い彼女のほうを見ると、目を細めて遠くのほうを凝視していた。
「何か見えるの?」
夢野さんは僕の問いにはすぐには答えず、指をさす。
「あそこ、あそこに誰かいるわ」
「えっ、どこに!?」
僕は、夢野さんが指さしたほうに目を向ける。確かに何かが見える。目を凝らすと、それは人のように思えた。
「行ってみよう」
僕は夢野さんと龍臣を促す。僕たちは駆け足で、その見えたもののほうに向かって行った。
「ウソだろ…」
「……」
たどり着いた先で見たものは、信じられないものだった。