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そうこうしているうちに学校に着いた。
僕たちはそろって二年三組の教室へと向かう。教室の前まで着くと中から楽しそうな話し声が聞こえてくる。僕はドアに手をかけ、開き、二人で教室に入ると、
「おっや~お二人で登校ですか~?」
聞き覚えのある、ふざけた声がした。
「おはよう、龍臣」
「おはよう、いつき」
目の前にいたのは僕の悪友、瀬田龍臣である。茶髪にピアスといういで立ちに、ナンパな性格も相まって、問題児の一人となっている。でも、根はいいやつで一緒にいると楽しい。
「おはよう、雨宮さん。今日もかわいいね。今度一緒にデートでもどう?」
「おはよう、瀬田くん。いつも元気だね」
「もちろん、瀬田龍臣はいつでも元気ですよ~…痛い、なにすんだよ~」
ドヤ顔の龍臣を、僕は一発殴り、席へと向かう。
隣の席には川島明人くんが座っていた。
川島くんは、端正な顔つきと寡黙さが、女子には人気となっている。僕とは席が隣同士ということもあり仲良くなり、ちょくちょく一緒に帰ったりする。
「おはよう、川島くん」
「おはよう」
僕は改めて川島くんの顔を見て、ぎょっとした。その顔には生気がなく、青白く、まるで死人みたいだった。僕は驚き、声をかける。
「だ、大丈夫?川島くん。顔色が悪いんだけど…」
「大丈夫」
「で、でも…」
そこに龍臣もやってきた。
「うわ、川島、大丈夫か?顔色すっごく悪いぞ」
「大丈夫」
「大丈夫じゃねぇよ」
僕は再度、川島くんの顔を見た。その顔は本当に生気がない。周りの人が心配になるぐらい顔色が悪いのだ。
「風邪でもひいた?川島くん」
「いや、…悪い夢を見たんだ……」
「…夢…?」
僕が再びどういうことか尋ねようとしたとき、ちょうど先生が教室に入ってきた。
「こらこら、席に着けよ~」
その声をきっかけに、生徒たちが次々に席に座っていく。僕も仕方がなしに席に座るが、僕の目線は川島くんのほうをちらちらと見つめている。友達だから心配なのだ。
「みんなに大事な話があるぞ~」
先生がうれしそうに話をし始めた。僕は川島くんが心配だったが、仕方なしに視線を先生のほうにむける。
僕の席は後ろから二番目の窓側の席なので、教室内をよく見渡すことができる。みんなまじめに先生のほうを向いて、その話に耳を傾けている。
「ええと、まず一つ目として、新しい保健の先生が赴任してきました。名前は夢野先生です。前の保健の先生だった山田先生が産休に入られたためです。
次に二つ目ですが、これはみんな驚くと思いますが、うちのクラスに今日、転校生がきます」
「ええ~」
みんなが驚きの声を上げる。クラス内がざわめきだった。それを聞いた先生は、どこか満足げにうなずいていた。先生はこういう反応を待っていたのであろう。すでに知っていた僕は、ただただみんなのことを観察していた。驚き、喜ぶものがほとんどだった。僕は隣の川島くんを見るが、まっすぐ前を向いたままで何の反応もない。やはり顔色は良くなってはおらず、いまだ青白いままであった。
「さぁ、入って」
先生が廊下にいるだろうその転校生を呼び出した。
コツコツコツ……
先生の言葉を受け、転校生が教室に入ってくる。その姿が目に入ったとき、教室のざわめきは一瞬でなくなった。静寂が教室内を包み込んでいく。
誰もがその姿に目を奪われた。
黒く長い絹のような艶やかな髪をなびかせて、みんなの前に立った少女に。
大人っぽい中にまだ少女のあどけなさを残した端正な顔立ち、よく見ると吸い込まれそうな黒く凛とした大きな瞳。姿や雰囲気、すべてが美しかった。制服もまるで、彼女のためにあしらったが如く着こなされていて、ただ素晴らしいの一言だった。
「夢野夢子です。よろしくお願いします」