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お母さんの後に着いて二階に上がる。奥の部屋に通された。そこは雨宮さんの部屋だった。女の子らしくベッドカバーやカーテンはピンクで統一されたかわいらしい部屋だった。雨宮さんのイメージと違ったので僕と龍臣は物珍しそうににあたりを見渡す。まぁ、女の子の部屋に入るのが初めてだったということもあるが…
そして見つけたのだ、奥のベッドに横たわる雨宮さんを。その姿は本当に眠っているだけで何ら変わらなかった。ただ少し顔色が悪いかなということだけで。
「目を覚まさないんです。お医者さんにも見せたんですけど、眠っているだけでどこもおかしいところはないとおっしゃって。私もどうしたらいいか…」
僕たちの後ろから、お母さんが悲しそうに言う。その声には覇気がない。当り前だろう、自分の娘が目を覚まさないのだから。どんな親でも心配でたまらないはずだ。
僕たちは雨宮さんに近づいていった。ベッドのそばに行き、しゃがみこむ。そして雨宮さんの顔を覗き込む。スースーという鼻息だけが聞こえてくる。本当に眠っているだけのようだ。
夢野さんはというと、険しい顔で雨宮さんの顔を見つめている。
「どうかした?」
僕は夢野さんにだけ聞こえるような声で、彼女に問いかけた。
「まずい、これはまずい」
「まずいって、まさか」
「えぇ、あまり時間がないわ。このままだと…」
「じゃあ、どうするの?」
「そうね、作戦を実行するわ」
「作戦?」
僕たちはあまりこそこそしゃべるのも失礼だと思い、ここで会話を止めた。そして、夢野さんはさりげなく、ごく自然に雨宮さんの枕元から何かを取ったのを僕は見た。
「ありがとうございました」
こうして僕たちは、お母さんにお礼を言い。雨宮さんの家を後にしたのだった。
その帰り道、僕はどうしても気になっていることを夢野さんに聞いた。
「さっき、雨宮さんの枕元から何か取ったけど何だったの?」
すると、夢野さんは立ち止まり、こちらを振る向いた。そして、目の前に腕を突き出してきた。よく見ると、その手には一本の長い髪の毛が握られていた。
「髪の毛?」
「そうよ、雨宮さんの髪の毛よ。きれいな髪ね」
「そんなものどうするの?」
「作戦に必要なものよ」
「さっきから作戦、作戦って言っているけど何なの?」
もったいぶらすかのように、すぐには夢野さんも答えない。まるで今から重大なことを言うかのような間である。そして、夢野さんは僕を見据えて、言った。
「雨宮さんの夢の中に入るわ。彼女は今とても危険な状態だから、早く救出しないといけない。そのためには、彼女が囚われているだろう夢の中に入る必要がある。そこで必要になって来るのが、この雨宮さんの髪の毛よ。特定の人物の夢の中に入るには、道しるべ的なものが必要なの。その道しるべには体の一部が、一番ふさわしいのよ。そこで手に入りやすいのは髪の毛ってわけ。分かったかしら?」
「よ、よくわかったよ」
夢野さんは話し終えると、また前を向いて歩きだした。僕もそれに黙ってついていく。
「俺も行っていい?雨宮さんの夢の中に」
龍臣が夢野さんに聞く。夢野さんは振り返り、龍臣を見つめる。まるで値踏みするかのごとく。