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無限のナイトメア  作者: 高月望
五日目―眠り姫の夢
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1-(3)


 昼休みになった。

 今、僕は龍臣と夢野さんとともに屋上にいる。屋上はめったに人が来ないので、話をするには好都合な場所であった。天気はいいが、屋上にはまだ冷たい風が吹いていた。風で夢野さんの長い黒髪がなびいている。それをうっとしそうに髪をかき分ける彼女の表情は、どこか硬かった。

「どういうことなんだろう?」

「いきなりね」

 僕がポツリとつぶやいたことに、夢野さんが丁寧に答えてくれた。機嫌が悪いということではなさそうだ。

「目が覚めない人が出てきているってこと。やっぱり悪夢のせいだよね」

「そう考えて間違いないでしょうね。エネルギーを吸われすぎたのよ。感受性が強い人などは影響を強く受けるわ。急がないとまずいわね、このままだと…」

「このままだと死んじゃうってこと?」

「そういうことね」

「…妹も悪夢を見たって言っているんだ…」

「広がり始めているのね、学校外にも…」

 それで僕たちは黙ってしまった。風は相変わらず強く吹いている。

 そんな沈黙を破ったのは、夢野さんのほうだった。

「雨宮さん、休んでいたわよね。お友達じゃないの?」

「と、友達だよ…ねぇ、龍臣」

「当たり前だろ。あんなかわいい子、友達じゃなかったら何なんだ!でも、一回もデートしてくれないけどな…」

 しょんぼり顔の龍臣にあきれる僕。だが次の瞬間には、真剣な顔に戻っていた。この切り替えの速さにはいつも感心してしまう。龍臣は話を続ける。

「万が一に風邪だったらいいなぁと思ってさ、女の子たちに話を聞いたんだけど、やっぱり雨宮さんも目が覚めないらしいぞ」

「なら心配ね、雨宮さんのこと」

「あぁ、とても心配だよ…」

 風は少しも止むことなく、強く吹き続けている。僕は、休んでいる雨宮さんのことを思う。しかし、考えれば考えるだけ不安になってくる。もしものことを考えてしまう。

「お見舞いに行きましょう」

 夢野さんは唐突に行った。いきなりすぎて、僕は一瞬理解できなかった。

「お見舞いに行きましょうと言ったのよ」

「いきなりどうして?」

「このまま考えていてもどうしようもないでしょ、何か行動に移さないと。それに心配なんでしょ?」

「それはそうだけど…」

「それなら決定ね。放課後に行きましょう」

 淡々と問答無用に決めていく夢野さんに、僕ははいとしか言えなかった。それに雨宮さんが心配なのは心配だから、ここで断る理由もない。こうして僕たちは放課後、雨宮さんの家に向かうことになったのだった。


 放課後になり、僕たち三人は雨宮さんの家を目指し歩いていた。

 僕は、雨宮さんの家がどこにあるのか知らないのだが、夢野さんは迷いなく僕の前を歩いている。しっかりした足取りだ。僕は気になって聞いてみた。

「夢野さん、雨宮さんの家知ってるの?」

「先生に聞いたのよ。お見舞いに行きたいから教えてくださいって。そしたら快く教えてくれたわ。あなたもそれぐらいのことはしたらどうなの」

「…すみません」

 僕たちは足を止めることなく、進んでいく。何の変哲もない閑静な住宅街だ。近くの公園からは子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。そこで、夢野さんが急に立ち止まった。急に立ち止まったので僕は夢野さんにぶつかりそうになり、あわてて足をとめた。夢野さんが見つめる先に会ったのはありふれた家だった。表札を見るとそこには雨宮と書かれていた。ここが雨宮さんの家かと眺めるが、別に変ったところがあるわけではない普通の二階建ての家だった。

 夢野さんはためらうことなくインターホンを押す。僕はというとまだ心の準備が出来ていなかったので、あたふたしてしまった。夢野さんにとってはそんな僕の様子もどこ吹く風だ。

 すると、インターホンから女の人の声が聞こえてきた。

「はい?どちらさまですか?」

 その声はどこか疲れ切ったように憔悴した声だった。雨宮さんのお母さんであろう。

「私たちは美雨さんと同じクラスのものです。お見舞いに来ました」

 夢野さんが答えると、ガチャと玄関のドアが開く音がした。見ると疲れた様子の雨宮さんのお母さんがそこに立っていた。

「わざわざどうも。でも美雨はいま、会える状態ではないので、お気持ちだけで…」

「それでもいいです。一目だけでも会わしてはもらえないでしょうか?」

 雨宮さんのお母さんはやんわりと僕たちを帰そうとするが、夢野さんは食い下がらない。その気迫に負けたのか、

「……では、どうぞ」

 雨宮さんのお母さんに招き入れられ、僕たちはお邪魔することとなった。



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