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「あそこに眠っているのはね、今回の夢魔のせいで目覚めなくなってしまった子たちなんだよ。あの夢を見たことによってエネルギーを吸われすぎて…このままいくと本当に目が覚めなくなってしまうかもしれないんだ」
僕ははっと息をのむ。そして今回の事件の重大さを改めて認識する。
「僕に何が出来るんでしょうか…?」
「それはまだ分からない。でもそういう気持ちが、僕は大事だと思う。そうだよね、瀬田くん」
「急に話を振らないでよ~まぁ、先生の言う通りだと思うよ。いつきががんばるのなら、俺も今回はがんばってみようかな~」
龍臣はそういうと立ち上がり、大きく伸びをした。そして僕は思った、龍臣はいったい何者なのだろかと。一連の話を聞いていると。夢野先生と龍臣は知り合いのようだし、獏関係の話をしても驚いた様子がない。では、龍臣も獏なのだろうか?僕は恐る恐る、龍臣に聞いてみた。
「龍臣は何者なの?今回の事件にどうかかわっているの?」
一瞬、空気が止まったかのように感じられた。やはり聞いてはいけないことだったのだろうか。僕は少し後悔しつつ、龍臣のほうをうかがうと、そこには笑顔の彼がいた。
「やっぱり聞きてくると思ったよ~いや、聞かないほうがおかしいか。先生、話してもいいよな」
「君がいいならね」
龍臣は一つ咳ばらいをし、まじめな顔になった。
「では、言います。俺はだな、いつき……なんとあの、夢魔なのだ~」
「…はい?」
きっと、ふざけているわけではないだろう。でもなんというか龍臣の言い方が、まるで真剣味を帯びていない。僕は、不安げな目で夢野先生のほうを見る。先生もため息をつきつつ、僕の視線を感じ取ってくれたようだ。
「あんな言い方をしているけどが事実だよ。彼は夢魔なんだ」
「そう俺は夢魔~地上に堕ちてきたかわいそうな悪魔なのだ~どうだいつき、驚いたか?しかも夢管理委員会に監視されている。さらにかわいそうな俺」
「…夢管理委員会って?」
そんな僕の疑問を受け取った夢野先生は、丁寧に説明してくれた。
「夢管理委員会は、人々が健全に夢を見られるように管理している組織だよ。僕や夢子もその一員なんだ。だから今回の夢魔の討伐も僕たちの仕事のうちなんだ。夢魔は人々が健全な夢を見るのを邪魔する一番の要因だからね」
「だから俺は監視されているわけ。何か悪さをしないかをね」
「監視しているのは夢野さんや夢野先生?」
「違うね。もっといかつい奴ら。人じゃないのは確かだな。だからといって、何かはわからないけどね」
「そうなんだ…」
「だから、今回の事件の犯人じゃないぞ。疑ってただろう~いつき」
「そ、そんなことないよ」
焦る僕にヘッドロックをかます龍臣。はたから見ると仲良しに見えるだろう。でも事実は…やっぱり仲良しである。龍臣が何者であろうと、僕には関係のないことだ。龍臣は龍臣である。僕は何か吹っ切れたように感じた。
「先生、僕は今回の事件を解決したいです。僕一人じゃ何もできないだろうけど…」
「そうかい。なら僕たち夢管理委員会は、高原くんを歓迎するよ。がんばってみようか」
「もちろん俺も手伝うぞ」
そうして僕たちは手を取り合って、お互いの意思を確認しあった。そして古臭いが手を重ねて、小さな声でエイエイオーといった。恥ずかしかったのか、みんな照れ笑いを浮かべている。そんなとき、保健室の扉が開いた。