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無限のナイトメア  作者: 高月望
三日目―増殖する夢
15/40

2-(1)


 これで三度目だ。

 さすがの僕もここまでくると慣れてくる。

 慣れもするし、飽きてもくる。

 僕は、すっかりおなじみのあの暗い空間の中にいた。

「はぁ~またか……」

 ため息もつきたくなる。

 雨宮さんと別れてから、まっすぐ家に帰った。あんまり遅くなるとなぎが心配するからだ。なぎは、いつもは生意気だが、かわいいところもあるのである。前に寄り道をして、帰りが遅くなったときは、涙目で迎えてくれたこともあった。そんなこともあり、あまり遅くならないように心がけている。だからこの日もまっすぐ帰った。

 あとはいつも通りの生活だ。家族と食事をして、なぎと言い合いをして、お風呂に入って、あとは寝る。勉強は?と聞かれても、そこはスルーしてくれるとありがたい。

 そう、いつも通り寝たのである。しかし、朝の学校の件もある。嫌な予感がしなかったわけではない。でも気にしていてもきりがないので、普通にベッドに入って寝たのだ。最初は寝付けなかったが、それでもがんばって寝たのだ。

 そして、その結果がこれだった。

「はぁ~」

 先ほどから何度ため息をついたか分からない。ため息をつく前に怖がるのが普通なのかもしれないが、僕自身このとき、何の恐怖も感じていなかった。こうなることが分かっていたかのように。でも、僕はこの時、気づくべきだったのかもしれない。いつもと違う雰囲気にだ。

「仕方ない、歩くか。まぁ、歩いてもいつもと同じように何も無いんだろうけど…それにどうせ、またあの赤い眼が現れるんだろうな」

 僕は分かりきったような口調でそう言い切り、歩み始めた。

 歩きながら僕は考えていた、この夢をほかの人も見ているんだろうなと。そう思うと、なぜか歯がゆい気持ちになった。ほかの人と同じ夢を見るのは、どこか気持ち悪いものがある。夢というのは、すごくプライベートなもののように僕は思う。だから、夢を話のネタにする人の気持ちが分からない。

 夢の内容を話すことで、僕自身の内側をさらしているような感覚になるからだ。世の中には夢占いというものがある。見た夢の内容で、その人の深層心理が分かるというやつだ。だから、僕のこの考えは、あながち間違ってはいないのかもしれない。でも多くの人はこういうだろう、考えすぎだと。

 雨宮さんとも話したが、夢とは不思議なものだ。本当に心からそう思う。今こういう状態になっているから、ますますそう思ってしまう。

 こうやって考えながら歩いていると、人は当然ながら周りに目がいかなくなるものである。それは僕も例外ではない。

「あれ?何かいる……」

 僕は目の前に何かを見つけた。

 しかし、この暗いなかではっきりと確認することは不可能だった。だから何かあると言っても、視覚で見つけたというよりは感覚で見つけたというほうが正しい。周りを流れる雰囲気は目の前に何かあることを物語っていた。

「なんだろう。今まで何もなかったのに。それに今日はあの赤い眼が出てこない」

 僕は慎重に、慎重に、歩を進める。

 でも、僕は間違っていたのだ。ここで前に進まず逃げればよかったのだ。いや、逃げたとしても、ここではどこに逃げようと同じだったかもしれない。

 慎重に歩を進めていた僕は、何かにぶつかった。

「痛っ、なんだ?」

 僕はぶつかった額をなでながら、ゆっくりと顔をあげる。

 固まった。

 僕の動きは止まった。完全なる静止。

 自分の目を疑った。

 そこにいたのは、黒い大きな影。この暗い空間でも浮かび上がり、その存在感を示す。その形は二メートルを超す大男のようないでたちに、手には大きな斧らしきものが握られていた。さらに驚きなのはその頭はオオカミのような獣の形をしていた。例えるならそれはエジプトの神で頭は獣、体は人間のあの神に似ていた。

 僕の思考は完全に停止してしまった。自分が見ているものが信じられなかった。だが、次の瞬間、僕は我に返った。この影が声を発したのだ。獣の口から洩れる声は低く、体の芯に響くものだった。

『ご主人様の命令どうりに』

 一体どういう意味なのか、僕には理解できなかった。でも、本能でやばいことが分かった。逃げなくてはと思ったが、今頃になって状況を理解し怖くなったのか、足が震えて動かない。動けと命じても足は動いてくれそうもない。

 そんな動かない僕に、影は手に握っている斧を振りおろそうとしているではないか。絶体絶命である。夢の中とは言え、殺されるのはごめんだ。でも夢の中だから、殺されても大丈夫のように思えるが、僕自身そんなことを考えている余裕はない。普通ならここで目が覚めそうなものだが、そうはいかないらしい。

 斧が振り下ろされる。まっすぐ勢い良く、僕に向かって。

 僕は目をつぶった。



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