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無限のナイトメア  作者: 高月望
三日目―増殖する夢
14/40

1-(2)


 放課後、たまたま雨宮さんと帰りが一緒になった。龍臣は昨日と同じく何も言わずに帰ったようだし、川島くんは朝出ていったきり帰ってこなかったのだ。

 もちろん話すことは今日に朝の出来事である。頭の良い雨宮さんが、今回のことをどう思っているのかは大変気になるものである。

「朝の出来事覚えてる?たくさんの人が同じ夢を見たってやつ」

「ああ、あの朝、騒いでたやつだよね。あれは不思議だったね。みんながみんな、同じ夢を見たって騒いでたよね」

「あれどう思う?本当にこんなことってありうるのかな?だってみんながみんな、同じ夢を見るなんてありえないよ」

「でも、そんなありえないことが実際起こっているのだから、ありえないことじゃなくなっているよね。聞いた話によるとね、その夢、ほかのクラスでも見ている子がたくさんいるみたいなの」

「うそでしょ……」

「本当だよ。だからありえないことではないんだよ、もう」

 ありえないことではなくなっている。確かにそうかもしれない。ありえないことでも起きてしまえばありうることになるんだ。しかし、今の状況は本当に気味が悪い。

「…夢って何なんだ…なんかすごく怖くなってきたよ」

 僕は不安げにぼそっとつぶやく。今までは夢を見ることに何の抵抗もなかったし、見て当たり前だと思っていた。それでも今は違う。今は夢を見ることが怖かった。それに、今まで生きてきた中で、これほどまでに夢について考えたことがあっただろうか。

 夢、ゆめ、ユメ……

 僕の頭は混乱してきた。

「夢とは、睡眠中にもつ幻覚。ふつう目覚めた後に意識される。多くは視覚的な性質を帯びるが、聴覚・味覚・運動感覚に関係するものもある。広辞苑第六版より」

 雨宮さんは夢とは何だという心の底から出てきた僕の質問に対してそう淡々と告げた。というか、広辞苑の内容を覚えているのかこの人は。それはそれで恐ろしい。

「…ありがとう、よくわかったよ」

「いいえ、どういたしまして」

 笑顔の雨宮さんに、僕は苦笑いで返す。

「高原くん、夢ってね、いまだ解明されていない現象なんだよ。私としたらこのまま解明されないでほしいかな。そのほうが夢があるっていうか、夢だけにね」

「…別にうまいこと言ってないよ、雨宮さん」

「そうだね、ごめん」

 少し照れている雨宮さん。それを挽回するかのごとく雨宮さんは、真剣身を帯びた表情で話し始める。

「あ、それでね、夢のことなんだけど、私が聞いた話によると、夢は浅い眠りに陥るレム睡眠に見るとされていてね、深い眠りのノンレム睡眠時には発現されないと考えられていたの。でも、最近ではノンレム睡眠時でも夢を見ることが確認されているんだって。

 それにね、夢を見る理由については現在のところ不明なんだって。でも、夢の存在意義として言われている説には、無意味な情報を捨て去る際に知覚される現象であるという説と、必要な情報を忘れないようにする活動の際に知覚される現象である説の二つが有力とされているんだって」

「へぇ~」

「本当に夢って不思議だよね」

 僕は夢の摩訶不思議よりも、雨宮さんの知識に感心してしまった。やはり学年トップはどこか違う。

「雨宮さんはいろんなこと、よく知っているよね」

「たまたまだよ」

 そう言いのける雨宮さんに僕は感嘆のため息を漏らす。やはり超人か、雨宮美雨。

「本当はその夢、僕も見ているんだよね…」

「そうなの!?それは、不安だよね…」

「うん……気味が悪いよ、本当に」

 そんなこんなで話しこんでしまい、時間もあっという間に過ぎた。そして、分かれ道に入り、僕は雨宮さんと別れることとなった。


 これは僕の知らないもう一つの放課後の風景。

 そこは学校の屋上だった、そこに二つの影がある。本来なら学校の屋上は立ち入り禁止となっている。どうやってこの二人が入ったかは定かではないが、秘密の話をするにはうってつけの場所であることは間違いない。

「だ・か・ら~俺じゃないよ。だからそんな目で見ないでよ」

 影の一つが大きな声で何かを否定している。もう一つの影は微動だにしない。

「やめてよね、夢野さん、俺を疑うの」

 影の一つである夢野夢子は、相手をまっすぐ見つめている。その目は俗に言う、疑いのまなざしであった。表情に乏しい夢子からこう読み取れるのだから、本当にその相手を一点の曇りなく疑っているのだろう。もう一つの影はそのまなざしにたじろぎながらも、強く弁解する。

「本当に俺じゃないって。分かっているでしょ、俺の正体も立場も」

「えぇ、わかっているわ」

「だったら俺じゃないことは分かるはずだよね」

「念のために聞いておきたかっただけよ、瀬田龍臣」

「それにしては、疑っているよね~」

 疑われているもう一つの影である龍臣は、大きくため息をつく。疑われても仕方がない自分の立場を考えると、夢子のこの行動は決して間違っていない。間違っていないがやりきれない思いを感じる龍臣だった。

「それにしても、俺じゃないことはそっちのほうがよくわかっているはずだけど。だよね、俺を監視している夢管理委員会のメンバーの夢野さん」

「……」

「だんまりはいけないよ、夢野さん。こんなことをしている間にも被害は拡大するぞ。犯人はほかにいる、それだけは間違いないことだ」

 屋上なので風が強く吹く。その風は冷たく龍臣は首をすぼめる。夢子の絹のような黒髪が風で舞い上がっている。しばらくの間、沈黙が続いた。

「分かっているわ、今夜中にでも犯人を見つけるわ」

 そう言って夢子は屋上を出ていった。一人取り残された龍臣はフェンスに体を預け、空を見上げる。空は夕焼けに染まり、黒い雲がまだらに浮かんで、きれいなコントラストだった。

「はぁ~いつきは大丈夫かな?…」

 龍臣のつぶやきは、だれもいない屋上に静かに消えていったのだった。





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