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無限のナイトメア  作者: 高月望
三日目―増殖する夢
13/40

1-(1)


 目覚めは最悪だった。

 朝、目が覚めた時、まるで重労働したかのごとく疲れがどっとたまっていた。あんな夢を見たのだから仕方がないのかもしれないが、本当に最悪だった。寝た気が全くしない。

 そんな重い体を引きずりながら、学校に行かなくてはならないのは本当に辛いものがある。しかし、学校に行くのが学生の仕事だ。それに体がだるい程度では、母さんは学校を休ませてくれない。あいにく熱はなさそうだ。重い体を引きずり、一階に降りる。

「大丈夫なの?」

 母さんが心配そうに声をかける。昨日の今日だからなおさらだろう。

「大丈夫だよ」

「熱はないの?今日学校休んだら?」

 思いがけない言葉に僕は反応する。あの母さんがそう言うぐらいだから、今の僕の姿は本当にひどいものなのだろう。

「いや、いいよ。時間無いからもう行くよ。いってきます」

 僕はそう言い、朝ごはんも食べずに学校に向かった。ここで休めないのが僕である。熱もないのに休むと罪悪感が生じる、いわゆる根性無しである。


 僕は教室にようやくたどり着き、その重いドアを開ける。自分の席に向かう途中、自分の後ろの席を確認する。夢野さんはまだ学校には来ていない。

 自分の席に座り、一時間目の準備を始める。すると、教室の前のほうで話している、ある女子グループの話が声が耳に入ってきた。

「ねぇ、聞いてよ。今日さ、へんな夢を見たんだよね」

「へぇ~どんな夢?」

「それがね、真っ暗な部屋にいるの。何もなくて、本当にただの暗い部屋?しばらく歩いていたんだけどね、やっぱり何も無くてね。すると、いきなり大きな眼が目の前に現れたの。ものすごく大きくて、赤い眼をしていて気持ち悪いんだよ、これが。そしたら、その眼に見つめられてるの、ギョロッとね。それから眼が覚めたんだけどさ。なんか怖かったよ」

「へぇ~災難だったね。でもさ、そんな夢よく見るよ」

「そうだよねぇ~」

 僕は自分の耳を疑った。今、彼女が話した夢の内容は、まるっきり自分が見たのと同じではないか。僕が驚いていると、その話を聞いていたある男子が話に割り込んできた。

「その夢、俺も見たよ。暗い部屋で大きな眼が現れるんだろ。見た見た、それ」

「うそ~そんなことってある?」

「いや、マジだって。本当に見たんだよ」

 そんな会話がなされていると、また話を聞いていたほかの男子が話に割り込んでくる。

「それ、僕も見たよ」

「うそ~」

 それを皮切りに、たくさんのクラスメイトが、自分も見たと言い始めたではないか。

 それはまるで連鎖反応のように次から次へと。

「僕も見た」

「私も~」

「俺も、俺も」

 そんな光景に僕は、気味の悪さを覚えた。同じ夢をこんなにたくさんの人が見ることは、果してあるのだろうか。

 僕は、自分も同じ夢を見たとは言えずに、ただただその光景を眺めていた。クラスメイトのみんなは何も考えずに、今の状況を面白がっている。しかし、僕にとっては面白くもなんともない。ただただ、不気味なだけである。不思議で、そして不気味だ。

 気がつくと、後ろの席に夢野さんが座っていた。

 あの騒ぎに気を取られて気がつかなかった。

 夢野さんのほうをちらっと見る。すると、その視線は教室前で盛り上がっている集団にむけられている。同じ夢を見て、騒いでいる集団にだ。よく見るとその視線には軽蔑と意が込められているような気がした。そしてその表情は怒っているような感じである。これらは僕の推測でしかない。会ったばかりの女の子の表情なんて、そうそう、読み取れるものではないのだから。

 ガタン!

 突然、何かが倒れる音がした。みんなの視線が音のした方向にむけられる。その音は自分の近くでなったものだと分かり、あたりを見渡す。すると隣の席の川島くんのイスが倒れていた。見ると、川島くんは立ち上がっていた。きっと立ち上がった時に倒れたのだろう。僕は川島くんのほうを見ると、彼は驚き青ざめていた。そして僕が声をかけようとした瞬間、川島くんはまるで逃げるように教室を飛び出していった。周りは何が起こったのか理解できずに、ただただ川島くんの席を見つめていたのだった。


 そんな騒ぎのあった朝から、僕は自分の見た夢についてずっと考えている。あの暗い空間に大きな赤い眼たち。何を意味して、何を伝えたいのか。そんなことを考えてはいたが、答えが出るはずもなく、ただ何かを忘れているような気がしただけだった。しかも、忘れていることがなになのかも答えは出なかった。




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