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無限のナイトメア  作者: 高月望
二日目―夢は何を奪うのか
12/40

3-(1)


 そして、目が覚めた。

 しかし、そこは自分の部屋ではなかった。

 いつもあるものがなく、ないものがある空間。見覚えのある光景。

 闇がそこにはあったのだった。

「どうして…またなのか……」

 呆然とする僕。同じ景色を再び見ようとは、だれが思ったであろうか。

 今朝見た夢が、再び僕のもとに現れた。

「同じ夢を見るなんて……」

 二度も同じ夢を見ることはありうるのだろうか。それは、僕の今までの人生の中では一度もなかったことである。無いわけではないのだろうが、気味が悪い。ただそれだけだ。

 僕はずっと立っているわけにもいかず、歩き始めた。

 どこに行こうとも、この闇しかない空間ではどうすることもできない。でも、同じ場所にとどまることだけは嫌だった。僕はひたすら歩き続けた。止まったら終わりだとでも言うように。

 しかし、歩いても終わりの見えない空間に、僕はめまいさえ覚えた。自分が小さく、無力に思えてならなかった。自然と足は止まっていく……

 すると、誰かの気配を感じた。誰だと思い、その人物がいるだろうと思う場所に目をやる。だんだんとその人物が近付いてくる。そして僕はあっと声をあげた。そこにいたのはよく知る人物だった。

「よ、いつき。こんばんは~」

 そこにいたのは龍臣だった。龍臣はパジャマ姿でこちらに近寄ってきた。ニコニコと満面の笑みだった。

「ど、どうして、ここに龍臣がいるの?」

「どうしてって夢の中だから、別にいたっておかしくないだろう」

 確かに夢のなかなのだから何が起こってもおかしくはない。夢とはそういうものだろう。夢の中ではいろんなことが起きる。空を飛んだり、悪者をやっつけたり、ありえないことが当たり前のように起きている。それが夢だ。だから友達が現れるなど、夢の中ではありきたりなほうだろう。しかし、僕は龍臣を目の前にして、どこか違和感があるように思えてならなかった。その違和感がどこからくるものなのか、説明することはできないのだけれど。

「ちょっと様子を見に来たんだけど…う~ん、やばいなぁ。川島のほうに行きたかったんだけれど行けなくてさぁ。やっぱり、何かあるよ絶対」

「どういうこと?」

「こっちの話」

 龍臣はきょろきょろしながら、こちらに近づいてきた。そして僕に真面目な顔で話しかけてきた。

「気をつけたほうがいいぞ。この夢は悪夢だ。俺的には、早く目覚めるほうをお勧めするよ」

「悪夢って…川島くんも言っていたような気がする。悪夢を見たって……」

「…そうか、やっぱり…」

 考え込む龍臣。心配そうにそれを見つめる僕。静寂がふたりを包む。口火を切ったのは龍臣だった。

「ハァ、考えても無駄か…俺の手が出せることではないしな~ハァ、いつき、帰るよ。突然来て悪かったな」

「う、うん。それはいいんだけど…」

 そう言うと龍臣は踵を返し、再び暗い闇の中に消えていった。僕は一体何が起こったのか、という風に呆然と龍臣が返って言った方向を見つめていた。まるで嵐が過ぎ去ったあとのようだった。

 しばらく呆然としていたが、見つめていた方向の空間が揺れたように思えた。

 その瞬間、無数の赤い眼が現れ、僕を一斉に見つめ始めた。あまりにも突然のことで僕は反応できずにいた。

 すると、声が聞こえ始めた。

『苦しめ』

『もっと苦しめ』

『もっともっと苦しめ』

 その声はまるで壊れたスピーカーの耳障りな機械音のようだった。それが四方八方から聞こえてくる。その声に、どうにかなったしまいそうだった。

 僕は耐え切れず、耳を押さえてしゃがみこんでしまった。心の中で早く消えろと願っても、世の中そんなに甘くない。ますますその声の勢いは増していく。

 しばらくして、僕は耳を押さえるのを止め、立ち上がった。どうしてそんなことをしたのか自分にもよくわからないが、そうしてしまったのだ。

「は、は、ははははははははははは」

 急に僕は笑いだした。

 笑いが止まらなかった、だから口を大きく開けて笑った。何かが壊れたかのように。

 抗うことに疲れた僕は、抗うことを止めたのだ。

 抵抗から無抵抗へと。

「ははははははは、は、は……」

 急に笑うのを止め、我に返った僕。

 疲れがどっと押し寄せる。精神的な疲れが僕を襲う。

 僕はそっとまぶたを閉じた。

 そして、そのまま僕の意識は遠のいていったのだった。



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