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最初はみんなだんまり状態だった。なかなかこのメンバーで帰ることがないので、話す話題もどうしていいか、お互い分からないでいた。しかし、この沈黙を意外な人物が破った。川島くんだ。あの無口で寡黙な川島くんが、だ。
「…悪魔っているのかな?」
最初はみんな、何を言っているのか理解できないでいた。それはあまりにも突拍子のないことだった。
「いきなりどうしたの?」
僕は川島君に聞き返す。すると真面目な顔で彼は同じ言葉をつぶやいた。
「…悪魔っているのかな?」
「悪魔は実在しないよ。人が作り出した空想の生き物だよ。そうだよね、雨宮さん」
「いるかもしれないよ」
「どういうこと?雨宮さん」
すると雨宮さんは、大真面目に話し始めた。
「私、こう見えてオカルトにすごく興味があるの。科学では解明できないことがこの世の中にはたくさんあると思う。悪魔もその一つで、現にバチカンでは今でも悪魔払いを行っていると言われているし」
「雨宮さん…」
「ご、ごめんなさい。確証があるわけじゃないものね…」
「いや、いいんだよ。趣味は人それぞれだから」
「…悪魔はいるわ」
夢野さんがぼそりとつぶやいた。その声はとても小さかったのだけれど、はっきりと聞こえた。僕には、その言葉から何だか確証めいたものが感じられた。そう、まるで悪魔を見たことがあるかのような、そんな感じが…
何だかんかんだ本当に今日は疲れた。今日は本当にいろいろあったと思う。川島くんが倒れるわ、夢野さんと一緒に帰ることになるわ、大変な一日であった。そう思うと家に着いた途端、どっと疲れが押し寄せてきた。
「ただいま」
リビングに入るとそこには妹のなぎがいた。つまらなそうにソファの上でごろごろしている。なぎは帰ってきた僕に気付いたのか、こちらのほうを振り向き、けだるそうな視線を送ってくる。
「おかえり」
その声も本当にけだるそうだ。まだ小学生のくせにその態度はいかがなものかと思う。
「何、ごろごろしてるんだよ。小学生はもっと活動的じゃないとダメだろ」
「なにしてようと私の勝手でしょ。お兄ちゃんこそ顔色悪いよ。学校で何かあった?」
「いろいろあった」
「ふ~ん……」
そこで僕たち兄妹の会話は終わった。年の離れた兄妹の会話などこんなものだろう。
しかし、妹に顔色の悪さを指摘されてしまったではないか。そんなにひどいのだろうか。そう思うと余計に疲れが増し、自分自身病人のように思えてきた。病は気から、まさしくそんな感じ。
僕は台所にいる母さんに声をかける。あたかも病人のごとく。
「母さん、体調悪いからご飯はいいや。先寝るよ」
「大丈夫なの?」
「寝たら治るよ、きっと」
そう言って僕は自分の部屋に上がった。
部屋の扉を閉めると気が緩んだのか、ずるずると座り込んでしまった。
大したことをしたわけではないのに、こんなことで疲れている自分もどうかと思う。川島くんのがうつったのかなと思いつつ、だらだらと座り込んでいるわけにはいかないので、僕は這いつくばるようにベッドへと移動を開始した。その様子はきっと何かの不思議生命体に見えるだろう。
ベッドにようやくたどり着き、潜り込んだ。ひんやりとシーツの温度が伝わってくる。そのひんやり感に気持ちよさを覚えながら、僕は寝る態勢に入った。
だが、なぜか急に違和感というかなんというか、言葉には表せないもやもやとした気持ちが押し寄せてきた。まるで、眠ることを体が拒否しているかのようなそんな感じ。
僕はその感覚に戸惑いながらも、気のせいだと言い聞かせる。
しばらくの間、ベッドの中で寝つけずにいた。だが、やはり疲れていたのであろう、自分でも気付かないまま、眠りに入っていった。
次に目が覚めるときは、必ずと言っていいほど明日を迎えるものである。
しかし、そうじゃないこともあることを僕は知ったのだった。