夢であって欲しかった残酷
目が覚めて初めに、木村飛鳥の目に映ったのは、レンガに描かれた謎の模様と腹部が血塗られうつ伏せに横たわった礼装の男の姿だった。しかし飛鳥は悲鳴を上げず無言でその光景を眺めるだけだった。
その理由は彼の状況を知れば理解できるだろう。飛鳥はそれ以上に考えなければならない問題を抱えているからだ。
「……え、どこ?」
起きた場所がどこか分からないのだ。信じられない状況に右手の平を額に当てて思考を巡らせる。
「待って確か、事務所にもう少しだけ休養が欲しいって話をして、溜まった小説を読んで、それから寝て、変なこと言う女と話す夢を見て……で、今ここかあ」
思い出しても何故ここにいるのか、シャツスウェットと明らかに場違いな飛鳥には分からない。思考は巡らせるが状況が突飛すぎるせいで隣の異常事態を放置して放つ一言。
「これも夢だ」
という珍回答をポンと手を打ちながら呟いた。分かってはいるが、現実を認めたくないが故に逸らした虚言だった。
だが悲しい事に、そんな逃避は長く続かない。熟考したせいでドアが開いた事に気づかず、飛鳥の耳には突如男の怒号が耳に入る事になる。
「緊急事態! 援軍を呼べ!! 謎の侵入者に負傷者がいる!!」
はっとそちらを見るとそこには日本には似つかわしくない鎧を装備した兵士が槍を持ちながら動揺して立っていて誰かに話しかけている。飛鳥は夢だからと安心しきりながら悠長に話しかける。
「お、落ち着いてください。これはきっと映画かドラマの撮影で」
「黙れ侵入者!」
男は駆け寄り反対方向に持ち替えて飛鳥の腹部を突いた。あまりもの痛みに膝から崩れてしまう。手加減はされているのだろうが、信じられないほどの痛みが日本人を襲う。さらにそこから追い討ちをかけるようにのしかかり拘束されてしまった。
そして複数もの怒鳴り声が飛鳥を囲み槍や剣の刃先を首元に突きつけ、内の一人が指示を出している。
腹部の痛みが、のしかかられた重みが、偶然指先に触れた血溜まりの冷たさが、一つの真実を解明する。
「これ、夢じゃないんだ」
嘘は優しく、真実は残酷。そんな言葉が脳裏によぎり涙が一粒目に浮かんだ。




