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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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愚かなる籠城戦

作者: 天の惹
掲載日:2025/10/10

 籠城戦は膠着状態だった。もう、1年以上もこの戦況が続いている。両軍とも、突破口を見つけられず、厭戦気分が続いていた。士気は目も当てられなかった。


 そんな中、我々攻撃側は前哨戦に徹していた。敵は籠城しているから、そのうち、食糧が尽きることはわかりきっていた。小競り合いで敵の体力を徐々に削りつつ、最後に敵が無謀な作戦を遂行してくることを狙っていた。


 それから、我々は敵を外部から完全に遮断することに徹していた。敵は必死に外部とのコンタクトを試みていたからな。彼等は援軍の要請の為に密使を何度か送っていたが、我々はそいつら殆どを捉えていた。全てだと思いたいが、我々はそれを信じる程ナイーブではない。中には、我々の警戒網を突破した強者がいたかもしれない。


 長期戦になると一つ、大きな問題が出てくる。それは、戦場における死体の処理だ。戦場には文化的背景を超えて暗黙のルールがある。それは戦場での死者を弔うことだ。両者は定期的に休戦し、自軍の死者を戦場から回収することが古代からの慣わしだった。


 この暗黙のルールは相手をリスペクトする事から始まった訳ではない。それは戦場に死体を放ったらかしにすると不都合な事が起こるからだ。死体を放ったらかしにすると、当然、死体は腐る。腐った死体からは虫が湧き、衛生上、よくない。下手をすると、その所為で伝染病が発生することもある。しかも匂いは最悪だ。さらに狼などの捕食獣が蔓延って退治するにも手間がかかる。どんな我儘クソ野郎でもこの自然の法則には逆らえない。


 だからと言って、我々攻撃側はその自然法に1から10まで全て、素直に従うつもりは毛頭ない。休戦中、我々は敵の死体を少しだけ失敬した。次の攻城戦に利用する為だ。我々は敵兵の死体をぶつ切りにして、主に胴体と頭を瓶に詰めた。腐らせるためだ。手足は必要ないので、そのまま纏めて埋めた。


 我々は攻城兵器を携えて敵の城へ向けて前進した。別の前哨戦を仕掛ける予定だ。今回の攻撃の目的はカタパルトを使って敵兵の死体を城内へぶち込むことだ。それによって、敵兵の死体を穢した事を敵に知らしめ、敵を侮辱することだ。そのためにわざわざ敵兵の頭も瓶に詰めた。そしてあわよくば、城内で伝染病が広まれば、とも思っている。


 投石を準備する兵達は瓶を馬車に積む作業をしていた。彼等はその瓶に何が入っているか聞かされていなかった。一人の軽はずみな兵が瓶から妙な匂いに気付いた。臭すぎる、と思った兵は、なんとなく蓋をずらして中身を覗き見た。

「オェーッ!」

何と、そこには人の死体が入っているではないか。しかも入っていた頭の目と目が合ってしまった。グロテスクにも程がある。


 彼は思わず、吐きそうになった。そばに居た彼の同僚の神経は彼よりずーとず太かった。

「ハッハッハー。お前、何、吐きそうになっているのだ。そんなにデリケートだとは思わなかったぜ。俺ならこれで、ご飯3杯、いけるぜ」

その無神経な発言を聞いた兵は新兵ではないので人間の死体を見慣れていたが、瓶に入っていた死体の状態は想像以上に酷かった。無神経の同僚の発言を聞いた彼は、思わず嘔吐してしまった。それを見た周りにいた兵たちは一斉に吹き出した。


 一部始終、荷積みの様子を監視していた副官は、ふざけていた兵達に喝を入れた。

「テメーら、何、チンタラ作業してるー。さっさと、荷積みを終わらせんかー!」

「はい、上官殿」

副官は嘔吐した兵がまだうずくまっているのを見るとブチ切れた。副官の指示に従わなかったからだ。副官は容赦なく鉄拳制裁を加えると、強引に作業に戻らせた。


 我々はカタパルトを敵の城壁の射程内に配備すると、司令官は旗を上げた。そばに居た副官達が号令をかけた。

「投石、開始」

大体、10投に1回、死体入りの瓶を城壁内にぶち込んだ。残りは石だったり、油瓶に火を付けて放り込んだ。


 カタパルトの射程は長く、敵の弓矢が届かない所に配備されている。ただ、敵も指をくわえて見ているだけではなかった。敵はバリスタと呼ばれる大型の矢の発射装置を備えていた。敵はバリスタで応戦してきた。


 カタパルトから飛来する瓶が城壁内に着弾すると「ぎゃ~」とか「何だ、コレ」とみたいな絶叫が聞こえてきた。どうやら死体入りの瓶から中身が上手くぶちまけられたようだ。司令官は別の旗を上げると、副官達は一斉に号令をかけた。

「投石、止め」

投石が止まると、戦場には静寂が訪れた。敵の司令官は完全にブチ切れて怒鳴りつけてきた。

「貴様ら、何て罰当たりな事、しやがったんだ。これは神への冒涜行為だ。恥を知れ。この野蛮人どもめ」


 我々はシカトを決め込んだ。これは戦争だ。相手がメッチャ嫌がる事をするのは当たり前だ。それに我々が使ったのは敵兵の死体だ。もし、これが自軍の兵の死体なら我々の倫理観からしても冒涜行為に当たる。だが、これは敵兵の死体だ。敵兵は異教徒だ。我々にとって、奴らは我々と同じ人間とはみなされない。だから、敵兵の遺体をどれだけ穢しても、それは冒涜行為とみなされない。


 我々は敵がかなり動揺しているのがわかると、満足した。目的達成だ。どちらかと言うと目的ではなく目標だが。真の目的は、敵を動揺させることによって、奴らが無茶な行動に出るきっかけを作ることだ。我々が再度、奴らの同胞の死体を穢すことを絶対に許さない筈だから、奴らが必ず何らかの行動を起こすと我々は見込んでいた。


 我々は敵に探りを入れる為に、かなり前から敵の城にスパイを忍ばせている。この行為によって、敵はどんな行動に移るのか? 我々はスパイから連絡を待った。


 一方、敵陣では主戦派がいきり立っていた。彼等は敵への総攻撃を主張した。これ以上、同胞の死体を戦争の道具に利用されるのに彼等は我慢出来なかった。彼等は少し冷静さに欠けているように見えた。


 多数派である慎重派は糧食や武器の不足を訴えた。彼等は主戦派の心情を理解は出来ない訳でないが、それでも無茶な戦い方をして国を滅ぼすことは出来ないと主張した。彼等は今迄通り、前哨戦で敵側の空きを狙い、援軍が来るのを待つ事を唱えた。その援軍と自軍で敵を挟み撃ちにしてから総攻撃を仕掛ける。これが敵を排除する戦略だと進言した。


 だが、主戦派は納得しなかった。と言うのも、いつまで立っても援軍は来なかったからだ。このまま戦いが長引けば、向こうよりもこっちがジリ貧になる。それは慎重派も理解していた。議論に議論を重ねた結果、彼等は突拍子もない案に行き着いた。それは敵味方双方から最強戦士を選び、1対1の決闘に勝った方が戦争の勝者にすることだった。


 我々は潜伏させたスパイから敵が一騎打ちを挑んでくるとの情報をいち早く仕入れた。我々は軍議の結果、敵の策に乗ることにした。そして、決闘に関して起こり得る事を色々とシミュレーションをした。シミュレーションの結果、我々は決闘をするに当たって、こちらからどんな条件を押し付けるのかを決めた。もし我々が決闘に勝っても、奴らがお行儀よく降伏するはずがないからな。その為の条件だ。


 翌朝、城から敵兵が一人、白旗を持って出てきた。彼以外の兵は城壁で様子を伺っている。城から出てきた男は馬から降りると我々に向かって叫んだ。

「敵司令官に告ぐ。我との一騎打ちを挑め。もし貴様らが勝った場合、我々は城を明け渡たそう。貴様らが負けた場合は直ちにこの国から兵を引け。貴様らは直ちに最強の戦士を用意せよ」

「テメーら、何、勝手な事、言っている。そんな事、する訳ないだろう。たわけがー」

「怖気づいたかー! 腰抜けどもめ。命が欲しければ、さっさと国へ帰れ!」

城壁からも、様々な罵声が飛んできた。まじ、鬱陶しい。


 だが、織り込み済みだ。その反応。何を言われようが怒りが爆発することはない。余裕、余裕。もうすでに何度もシミュレーションをしているからな。奴らは我々の手の上で踊らされているにすぎない。

「怖気づいた? 馬鹿かー、お前ら。そんな意味のない決闘なんかする訳ないだろう。お前が不甲斐なく負けたとしても、誰が降伏を保証するんだ」

「神の名の元に我らは誓おう」

「寝言は寝て言え。まず、始めにする事があるだろう。それをしてからほざけやー、ボケがー」

「はぁ~。何だ。言ってみろ」

「城から兵と住民を退避させよ。お前が負けた時の保険だ」

「わかった。でも我は城の司令官ではない。戻って司令官と相談してくる」


 しばらくすると、さっきの敵兵と城の司令官が城から出てきた。そして、中間地点まで歩いてきた。我々はそれを見ると、代表を決めて、中間地点まで送った。勿論、司令官が行く訳がない。こちらの代表には、あらかじめ、どこまで妥協するか申し付けている。こちらとしては決闘をやってやる立場だ。下手で出る必要は全くない。

「決闘にあたって、我々が要求することはたった一つ。それは城から兵と住民の退避だ。我々は貴様らを信用していない。我々が決闘に勝っても、貴様らが素直に城を明け渡すとは思っていない」

「我々は神の名において、誓おう。必ず、約束を果たすと」

「だから、貴様らの事など、はなから信用していなと言っているではないか。城を明け渡す気があるのなら、まずは城を空けろ」

「まぁ、いいだろう。我々が負ける訳、ないからな。城は空けておく。では誓いの宣誓をしようではないか。我々も貴様らが本当に約束を守るとは思っていないからな」


 敵の司令官は宣誓の言葉を述べた。

「我、神セクトの名に於いてここに誓う。決闘でのいかなる結果も謹んで受け入れることを、我が命にかえて誓う。さぁ、貴様も誓え」

「いいだろう。我も自分の命にかえて、神セクトの名に於いてここに誓おう」

交渉が終わると、双方は自軍に戻って行った。決闘は翌日の正午に開始することに決まった。


 翌日の早朝、敵は城から撤退を始めた。我々は約3時間程の時間を使って城内に人が残っていないかを調べた。約束が果たされていなければ、決闘などする必要はないからな。敵兵と住民はどこへ行ったかというと、城壁の前に適当にバラバラになって待機している。まぁ、決闘後、すぐに城に戻れるようにそこに待機しているのだろう。これが罠とも知らずに。


 正午になると、敵の最強戦士が中間地点までやってきた。彼は自分の決闘相手を来るのを静かに待っていた。だが、誰も現れない。敵の決闘者は、『まさか、俺を焦らす為にわざと遅れて来るつもりか』と思っていると、どこからもなく一斉に大量の矢が城壁前の兵と住民目がけて放たれた。

「何! これはどういうことだ!」

敵の決闘者が前方を見ると、大量の兵が城壁目がけて突撃してくるのが見えた。そして後ろを確認すると、城壁前は住民と兵隊が入り混じってパニック状態だ。戦闘経験がない住民がパニックを起こし、皆、一斉に城門目がけて押し寄せている。もう、収拾がつかない。

「卑怯者めが! 神との誓いを忘れたか、この蛮族どもめ!」

「はぁ~、何、言ってやがるんだ。この間抜けが。そんな約束など、知るかよー! バーカ!」

「チキショウ!!」

敵の決闘者はブチ切れると単騎でこちらへ突撃してきた。だが、多勢に無勢だ。簡単に討ち取られた。


 戦いは我々攻撃側の一方的な勝利に終わった。城は陥落し、城壁前には死体の山が築かれていた。籠城側は浅はかだった。国運を賭けた戦いをたった一回の決闘で白黒させようとしたのだから。


 歴史は勝者の都合の良いように書かれる。この籠城戦も勝者の都合の良いように書かた。嘘の契約や、敵の死体を穢した事などは一切、書かれるはずはなかった。もし、敵の生き残りがそれらの事を秘密裏にどこかへ書き記しても、約束は始めから無効だから嘘の契約は存在していなかったと主張するだけだが。


*ここで契約に関して説明しておこう。本質的に契約は、人と人との間で直接、結ばれる物のでない。では、どのように成立するのか? それは双方の当事者が同じ契約を同じ神と契約することで成立する。契約は同じ神を通じてなされる事で、その契約が神によって担保されるのだ。今回の件では双方は神セクトの名に於いて約束を交わした。だが、攻撃側はそもそも神セクトを信仰していない。彼等は異教徒なのだ。神セクトを自分らの神と認識していない。だから攻撃側と神セクトとの契約はそもそも始めから無効だったのだ。


 嘘を見分けれなかったのは、籠城側が異文化との交流が少なかったからだ。反面、攻撃側は異文化への理解があり、攻撃側はそこを付け込んだのだ。

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