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夏休みのおわり
八月の最後の日曜日。
陽翔と咲は、宿題の残りを片付けようと、公園のベンチで一緒にドリルを広げていた。
「ほら陽翔、漢字間違えてる」
「え、うそ……あ、本当だ」
「ほらね、あたしが見てないとダメじゃん」
笑い合いながらも、心の奥には同じ感情があった。
――もうすぐ、夏休みが終わる。
夕方、蝉の声が少し弱まったころ。
帰り道の交差点で、咲が足を止めた。
「……夏休み、あっという間だったね」
「うん。でも、いっぱい遊べたし」
「水族館も、夏祭りも、楽しかった」
咲は笑って言ったけれど、その目は少し寂しそうだった。
「……ねえ、陽翔。二学期になったらさ、また毎日会えるよね」
「もちろん」
そう言いながらも、陽翔は心の中で、夏の日々が終わってしまうことを惜しんでいた。
制服の姿に戻ったら、この特別な時間も遠くなる気がしたから。
信号が青に変わる。
歩き出そうとしたそのとき、咲が小さな声で言った。
「この夏……すごく、楽しかった。陽翔がいたから」
陽翔は一瞬立ち止まり、夕焼け色の空を見上げた。
「俺も。咲と一緒だったから、楽しかった」
ふたりは視線を合わせ、短く笑った。
そして何も言わずに、並んで家まで歩いていった。
夏の終わりの風が、少し涼しく頬をなでた。
秋が来ても、この気持ちは変わらない――そんな予感が、夕暮れの空に溶けていった。




