夏祭りの夜
八月の終わり。町の広場では、毎年恒例の夏祭りが開かれていた。
浴衣姿の咲が、人混みの中から陽翔を見つけて手を振る。
「陽翔ー! こっち!」
「……浴衣、似合ってる」
思わず口から出た言葉に、咲のほっぺがほんのり赤くなる。
「ありがとう。陽翔も、甚平いいじゃん。なんか大人っぽい」
夜店の通りは、金魚すくいや綿あめの甘い匂い、焼きそばの香ばしさでいっぱいだった。
「金魚すくい、勝負しよ!」
「負けないぞ」
二人とも真剣な顔でポイを動かすが、陽翔は一匹もすくえず、咲が二匹ゲット。
「ふふっ、弱っ」
「…じゃあ、その金魚、俺に半分わけてくれよ」
「生き物を半分にするのはムリでしょ!」
笑い声が夜空に溶けた。
日が沈み、盆踊りの太鼓が響くころ、ふたりは神社の裏手にある少し静かな小道へ。
「もうすぐ花火だね」
「うん」
遠くから「ドンッ」と音がして、夜空に大きな花が咲く。
光が咲の横顔を照らし、浴衣の模様まで鮮やかに浮かび上がった。
陽翔は、胸の奥がぎゅっとなる。
「咲」
「なに?」
「……来年も、こうして一緒に夏祭り行きたい」
咲は花火を見たまま、ふっと笑った。
「うん。来年も、その次の年も」
ドン、と大きな花火が夜空いっぱいに広がった。
その瞬間、ふたりの指先が、そっと触れ合った。
手をつなぐにはまだちょっと恥ずかしい距離。でも、確かに近づいていた。
花火の最後の一発が上がるころ、陽翔は心の中で願った。
(この夏の夜が、ずっと続きますように。)




