雨の中の本音
その週は、ずっと曇り空が続いていた。
放課後の委員会も、どこか空気が重たいまま。咲と陽翔は、隣同士に座っているのに、あまり目を合わせなかった。
「…このポスター、貼っといてくれる?」
「うん」
短い会話。前みたいに笑い合うことができない。
そのくせ、咲は陽翔のことが、前よりずっと気になっていた。
(なんでわたし、こんなにぎこちなくなってんだろ)
自分でもわからない。
ただひとつ確かなのは、陽翔が誰かに取られそうで不安だったこと。
その日、委員会が終わって外に出ると、雨が降っていた。
「うわ、やばっ。傘持ってきてない…」
咲が空を見上げてつぶやいたとき、となりで陽翔が静かに傘を開いた。
「……入る?」
一言だけだった。でも、その声は、あたたかかった。
「え、でも、いいの?」
「いいよ。家、どうせ方向一緒だし」
咲はちょっとだけ間を置いてから、そっと陽翔の傘の中に入った。
肩と肩が近くて、心臓がドキドキする。
しばらく無言で歩いていたけれど、やがて咲がぽつりとつぶやいた。
「ねえ、陽翔…この前、綾乃ちゃんと話してた?」
「え? ああ、うん。委員会のことで、資料借りたくて。でも、それだけだよ?」
「……そっか」
咲はうつむきながら、笑った。
「ごめん、勝手にモヤモヤしてて。なんか、ちょっとだけ、やきもちだったかも」
陽翔は少しだけ驚いた顔をして、傘を持ち直した。
「俺、最近ずっと考えてた。咲と、前みたいに笑えなくなってるのが、すごくイヤだった」
「……うん、わたしも」
ふたりは見つめ合った。
雨音の中、言葉がなくても、伝わるものがあった。
そのとき、小さな風が吹いて、咲の髪がまた陽翔の顔にふれた。
「前も、こうなったよね」
「うん、春のはじまりのとき」
そして今、傘の中で、ふたりの気持ちは、もうすれ違っていなかった。
それから、委員会も、放課後も、ふたりの空気は前よりもっとやわらかくなった。
そして、陽翔は心の中で、ひとつの決意をしていた。
(次の委員会の終わりの日、ちゃんと伝えよう)
咲に、自分の気持ちを。




