修学旅行での約束
運動会が終わり、修学旅行の時期になっていた。
2人は予定を合わせ、すぐに買い物に行った。
「陽翔、これどう?似合う?」
陽翔は照れくさそうに「似合うよ。可愛い。」
とボソッと言った。
それを聞いた咲の顔は赤くなっていた。
そして修学旅行の前日の夜。
陽翔は荷物を前にして落ち着かなかった。
チェックリストを何度見ても、心臓がドキドキして止まらない。
(いよいよ明日か……咲と一緒に行けるんだ)
スマホには、咲から届いたメッセージが表示されていた。
《明日楽しみだね! おやすみ!》
その短い文字に、陽翔の顔は自然とゆるむ。
出発の朝。外の天気は晴れていた。
(良かった。晴れて。今日咲と2人だけで会えたらいいなぁ)
と陽翔は思い、学校に向かった。
校庭に並んだバス。
リュックを背負った陽翔は、友達と話している咲を見つけて手を振った。
「咲ー!」
「陽翔!」
咲は笑顔で駆け寄ってくる。
髪を少し結んで、いつもより大人っぽい雰囲気に見えた。
「まえいっしょに買いに行った服じゃん。やっぱ可愛い…」
「えっ!? あ、ありがと……!」
咲は一瞬で耳まで真っ赤になった。
バスの中でも、班行動でも、ふたりはずっと近くにいた。
お寺ではおみくじを引いて、
「おそろいの“中吉”だ!」と笑い合い、
お土産屋では、咲が陽翔にこっそりキーホルダーを選んで渡した。
「これ、お土産。ランドセルにつけてね」
「ありがとう……大事にする!」
陽翔は胸の奥があたたかくなった。
1日目の修学旅行が終わり、それぞれ旅館の部屋に戻った。男子たちは大騒ぎだ。
枕投げやトランプで盛り上がり、先生に何度も注意される。
けれど、陽翔はなぜか落ち着かず、そっと部屋を抜け出した。(咲に会えるかな〜?)と思い、廊下に向かった。
廊下の先には、静まり返った旅館の中庭が広がっている。
そこで、同じように抜け出してきた咲とばったり出会った。
「……咲?」
「陽翔!? もしかして、同じこと考えてた?」
ふたりは顔を見合わせて小さく笑った。
「咲、中庭に行かない?」
「うん、いいよ。」
夜空には、星が無数に瞬いていた。
2人は石の灯籠の近くに並んで座った。
「今日、一日楽しかったね」
「うん……でも、なんかあっという間だったな」
咲は少しうつむきながら言った。
「……来年、中学生になったら、同じ学校じゃなくなるかもしれないんだよね」
陽翔は驚いて咲を見た。
「そんなこと、考えてたの?」
「……ちょっとね。せっかくずっと一緒だったから」
陽翔は深呼吸をして、決意を込めて言った。
「咲、俺……中学が違っても、絶対会いに行くから」
「……ほんと?」
「ほんと。だから心配するな」
咲は安心したように笑った。
「……じゃあ、私も信じるね」
その瞬間、夜空を流れ星が横切った。
2人は同時に空を見上げ、願いを心に秘めた。
それから2人は数分間喋った。
そしてお互いの部屋に戻る。
すると、男子たちはニヤニヤしていた。
「おい陽翔、どこ行ってたんだよ〜」
「トイレ! トイレだよ!」
「ふーん? 咲も女子部屋から居なくなったて聞いたけど?」
「へー、そうなんだ…」
陽翔の真っ赤な顔を見て、男子たちは大爆笑した。
次の日になり、バスで学校に帰ることになった。
もちろん、帰りのバスも2人は隣だった。
咲が小声でつぶやいた。
「……ねえ、昨日の約束、忘れないでね」
「もちろん」
陽翔はにっこり笑って、咲の手に自分の指先をちょんと触れさせた。
その小さな約束は、ふたりだけの秘密のまま、心の中に深く刻まれた。