運動会でのアナウンス
それから、数日たち2人の学校は運動会の時期になっていた。
橋本先生が「放送委員の人には、運動会の日にアナウンスをしてもらうというきまりがあるんだよね、だから君たちにやってもらうね。」
すると2人の同級生の男の子が「えー、マジですか? 橋本先生〜」
「まじだよ。なので運動会前日に台本を渡すからよろしくね。」
運動会前日になり2人に台本が渡された。
なんと2人は開会式のアナウンスをすることになった。
「明日、私たちが開会式のアナウンスなんだよね……」
「うん、めっちゃ緊張する……」
陽翔の声も少し震えている。
「でも、陽翔と一緒なら大丈夫だよ」
咲が笑顔を見せると、陽翔の胸が少しだけ軽くなった。
「よし、じゃあ練習しよう。せーの!」
ふたりは息を合わせて、マイクを持つ手を強く握りしめた。
晴れ渡った空。
校庭はテントと紅白の旗で彩られ、全校生徒と保護者が集まっていた。
放送席に座ると、景色が一気に広がる。
観客席の端には、咲のお母さんが手を振っているのが見えた。
「……あ、見てる。なんか余計緊張する!」
「落ち着け。俺も一緒だから」
陽翔は小声で言い、咲の手の甲を軽く叩いた。
その一瞬で、咲の顔がほんのり赤くなる。
「おはようございます! 今日は運動会です!」
陽翔の声がスピーカーから校庭に響き渡る。
「今日は最後まで、力いっぱい頑張りましょう!」
咲が続けると、観客席から拍手が起こった。
ふたりの声がぴたりと合って、校庭全体が一体感に包まれた。
(やっぱり、陽翔と一緒だと心強いな……)
咲は胸の奥でそっとつぶやいた。
陽翔が参加する午後のリレーが始まった。
全校が注目する中、陽翔は白組のアンカーとして走った。
「がんばれ陽翔!」
放送席から咲がマイクを通して叫ぶ。
陽翔は最後まで走り抜け、ゴールと同時に膝をついた。
結果は惜しくも二位だったが、観客席からは大きな拍手が沸き起こる。
そして運動会は終わりを告げた。
みんなで片付けをした。
片付けが終わり、夕暮れの放送室にふたりきり。
静けさが戻った部屋で、咲がぽつりと言った。
「……陽翔、今日すごくかっこよかったよ」
「えっ!? 急に何だよ!」
「ほんとに。放送もリレーも、ぜんぶ」
陽翔は耳まで真っ赤になり、視線をそらした。
「咲だって……めっちゃいいアナウンスだった」
「ふふ、ありがとう」
ふたりは同時に笑い合った。
咲と陽翔はふたりで帰ることにした。
帰り道、校庭を振り返りながら歩く。
運動会の喧騒はもう消えて、静かな夕焼けだけが残っていた。
「ねえ陽翔、卒業まであと半年だね」
咲の声は少し寂しそうだった。
「……最後まで一緒にいような」
陽翔が真剣な目で言うと、咲は小さくうなずいた。
「うん。絶対に」
ふたりの影が、赤く染まった地面に寄り添って並んでいた。